旧統一教会問題、元信者との「念書」は無効と最高裁が判断、原告・弁護士に聞く
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旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の元信者が違法な勧誘で献金させられたとして、元信者の長女(以下、原告)が、教団側に約6,500万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は11日、元信者が教団側と交わした念書について「公序良俗に反し、無効」との判断を示し、教団側勝訴とした1・2審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻した。
訴訟対策で念書作成
今回の最高裁の判断は、同様の念書が作成された事案にも大きな影響を与えることになるとみられる。
旧統一教会の献金や霊感商法をめぐる問題は、全国各地で訴訟が起こされたが、1994年に福岡地裁で教団の霊感商法に対する損害賠償請求訴訟で、教団の関与と賠償責任を認める判決が全国で初めて出された。
その後も霊感商法や高額献金は行われていたが、2007年から東京や福岡などで、警察による摘発が行われ、09年に当時の教団会長が「コンプライアンス宣言」を行った。これ以降、訴訟対策で念書や合意書を交わすようになったといわれる。
今回の裁判では、長野県に住んでいた女性(21年に91歳で死去)が05年から10年にかけて教団側に1億円以上の献金を行っていた。そして15年に教団との間で念書を交わした。1、2審判決においては、この念書は「有効」とされ、教団信者の献金勧誘の違法性も否定した。
原告は、教団側が献金を求める際、先祖の因縁などを語り、不安や恐怖をあおったと訴える。女性が大理石のつぼや教祖・文鮮明の言葉を収録した『聖本』、果樹園を手放し、金融資産を解約して献金した額は、1億円を超えていた。
過去の訴訟などで、旧統一教会の信者が経営する企業などによる霊感商法や街頭での勧誘において、信者が勧誘対象者の家族構成や経済状況などをたくみに聞き出し、高額な壺や印鑑などの物品販売を行い、セミナーに誘い、不安を煽る内容を語り、信者獲得を行ってきたことが明らかになっている。また、今回の女性のように、親族や友人からの勧誘で入信するケースもある。
不当寄付勧誘法を判決に援用
元信者の女性(当時86歳)は念書を渡した半年後、認知症と診断されており、判決において「女性が合理的な判断をするのが困難な状態を利用した」としたうえで「女性に一方的に大きな不利益を与えるもので、公序良俗に反する」とした。
裁判に提出された教団側の撮影した映像でも、教団の女性信者が誘導しているとみられる場面が出てくる。
最高裁は「賠償を求めない」という合意は、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を制約するもので、合意の経緯や寄付を行った信徒の健康状態や年齢などを考慮して「有効性は慎重に判断すべき」とした。
旧統一教会は、献金を信仰に基づいた自由意思で行われているとしてきた。2審の東京高裁判決では「念書は有効」とされたが、最高裁は、一昨年成立した「不当寄付勧誘防止法」にある「献金者だけでなく親族の生活の維持を困難にすることがないよう配慮が求められる」との規定を踏まえ、献金した側の生活への影響を考え、献金の妥当性を判断すべきとした。
教団も、問題が指摘されたことを受け、改革の1つとして、10万円以上の献金に関して、確認書を作成し、生活への支障や、借金の有無などを確認していると教団の改革推進本部の勅使河原秀行本部長も、1日放送のNHKのインタビューに答えている。これまでの献金の在り方に問題があったからこそ、こうした措置が行われるようになったことは間違いない。
長年取り組んだ弁護士の思い
教団側としては、今回の敗訴は、さらなる逆風であろう。現在、教団との関係断絶を決議した地方議会への訴訟や、教団および関連団体に公共施設利用を禁じた福岡市を相手取った訴訟も行われており、巻き返しに必死となっている。
国による解散命令請求の審理が行われているなかで、今回の判決で「教団の組織性」にこそ踏みこんでいないものの、判決内容は、念書の作成や献金勧誘に組織性を帯びていることを示唆しているように見える。
原告の代理人で、長年、旧統一教会問題をはじめとする消費者問題に関わってきた山口広弁護士(福岡県出身)は、最高裁判決後の記者会見において「私自身は、地裁・高裁の酷い判決、訴訟指揮を目の当たりにして、本当に絶望して弁護士を辞めようと思った」と心情を述べたうえで「あの事件(安倍晋三元首相の事件)があり、こんなこと(母親の献金問題を動機とした事件)が起こる。社会的な被害は『一緒に闘いましょうか、最後の最後まで』とお話をして、上告受理申し立てに至ったが『やってよかったな』と。よくぞここまで(判決を)変えてくれました」とこれまでの闘いを振り返りつつ語った。
教団側から山口弁護士は、敵対視され、左翼弁護士などと中傷されているが、旧統一教会問題など政治信条にかかわりなく幅広く取り組んできた。
今回の判決は、今後の国の解散命令請求などに影響を与えることは間違いないが、福岡県が教団をめぐる事件の舞台にたびたび登場してきたことを指摘したい。
先述のように初めての霊感商法をめぐる教団の組織的関与が認められたのも福岡地裁で、安倍元首相が、官房長官時代に教団の行事に祝電を送ったのも福岡での集会であった。霊感商法をめぐり警察の摘発が行われた地域の1つも福岡であり、一連の霊感商法事件摘発の最後となった東京での事件の被害者は、福岡在住であった。身近に多くの被害者が苦しんできたことを受け止めなければならない。
数々の事件や事実関係の積み重ねにより、不十分さはあるが国の救済制度もでき、司法判断も大きく変わったが、教団の本質は依然として変わっていない。親が信者である宗教2世の問題も深刻だ。来月4日、福岡市役所を1,200人で包囲するデモも計画されている。今後の動向を引き続き注視していきたい。
【近藤将勝】
企業調査会社(株)データ・マックスが手がける経営情報誌『I・B』やニュースサイト「NetIB-News」は、信頼性の高い情報ソースとして多くの経営者にご活用いただいています。メディアとしてさまざまな情報を取り扱っており、国内外や地元福岡の政治動向に関する情報は経営者以外にも自治体組長や国会議員、地方議員などに幅広く読まれています。
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