2024年11月23日( 土 )

与野党ともども自分勝手な体たらく~有権者不在で党内論理の争いに終始

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 岸田文雄首相は14日、来月の自民党総裁選挙に立候補しない意向を表明し、新総裁の選出後、退陣することとなった。お盆休みの人も少なくないなかの突然の発表に、英断との声がある一方で、自分勝手に投げ出したとの批判も聞かれる。

■麻生氏の続投不支持
 内閣支持率が低迷するなか、自民党派閥の政治資金問題で、国民の政治不信は増すばかりで、物価高騰など暮らしの疲弊がさらに追い打ちをかけた。ある自民党関係者は「首相は続投をあきらめていなかった」と語ったが、ぎりぎりまで進退について考えていたとみられる。決定的だったのは、後ろ盾となっていた麻生太郎副総裁が再選支持の言質を与えなかったことだと指摘する声もある。

 昨日の会見で岸田首相は「けじめをつけ総裁選に向かっていきたい」と強調し、後継の総裁については言及を避けたが、「一連の改革マインドが後戻りをすることのない方であってもらいたい」と釘を刺す発言もあった。

 この発言はある意味で、はしごを外した麻生氏らを牽制する意味合いもあるだろう。派閥解消をめぐり岸田首相と麻生氏の関係は悪化し、関係修復のための会食も行われたが、以前のような関係性には戻らなかった。通常国会閉会後、9月の総裁選に向けて、麻生氏ら主流派と菅義偉前首相や武田良太元総務大臣など非主流派の水面下の駆け引きが活発化していた。両者に共通するのは、ポスト岸田を誰にするのかである。

 岸田首相とその側近は、このまま追い込まれて辞任するよりも、先手を打って、不出馬表明する道を選んだのではないだろうか。

 いったん辞めると宣言したら政治的影響力が失われるかというと、政治の世界は不思議なところがあり、必ずしも失脚とならない。たとえば、安倍晋三元首相は、2007年の辞任で「過去の人」扱いになっていたが、その後の情勢の変化で、安倍応援団ともいうべきグループがつくられ、首相の座に返り咲いた。在任期間は史上最長の通算8年8カ月であった。

 安倍元首相の政治手法や内政への批判は多いが、外交面で日本のプレゼンスを上げる取り組みに力を入れたことは否定できない。岸田首相も、政治資金問題を契機に、安倍派の解体を行いながら、外交や防衛政策については、安倍路線を基本的に継承している。次の総裁は誰になるのかまだ未知数だが、自民党がドラスティックな転換ができるのかどうか注目したい。

■旧態依然とした立憲の顔ぶれ
 いずれにしても、岸田首相の不出馬表明を機に、政治は大きく動き出すことになる。9月は自民党総裁選と同時期に立憲民主党の代表選も予定されている。ところが立憲の代表選は自民党総裁選と比べて、世間的にもメディアの間でも話題になっていない。

 そうしたなか、小沢一郎氏が立憲の主要幹部と会談したことが、報じられていた。小沢氏は泉健太代表の再選に否定的で、ポスト泉氏の候補として野田佳彦、枝野幸男、江田憲司、馬淵澄夫、小川淳也、重徳和彦各氏の名前を挙げている。そのなかで有力視されているのが、野田元首相と枝野前代表である。

 立憲の党内では、保守中道の野田氏に期待する声も多いが、リベラル派を中心に枝野氏を推す動きもある。立党の経緯から、泉代表の中道路線に不満な向きが少なくないからだ。両者に共通するのは、増税マインドが強いことで、枝野氏は今年5月に地元埼玉で講演した際に「消費税を単純に減税したら日本の財政はパンクする」と述べている。

 しかし、一方で立憲のなかにも消費減税を求める声もあり、原口一博元総務大臣や川内博史議員は「減税こそ政権交代のカギとなる」と主張している。岸田政権が3年で幕を閉じるのは、財務省の影響を受けた政策が多く、減税を求める国民の声を無視したことも一因だ。藤井聡元内閣官房参与らは岸田政権の増税路線を批判し続けてきた。

 岸田政権と自民党の支持が落ちるなか、野党第一党の立憲が消費減税を掲げて選挙を戦えば、政権交代の実現は現実味を帯びるだろう。しかし、党内論理や支持団体の連合の意向で、消費減税を掲げることができない。また、有力候補として挙がっている野田氏も枝野氏も、民主党政権時代に首相や官房長官の立場で政府のなかにいたが、彼らが新代表となっても国民は刷新感を感じることができず、政権交代に向けて勢いがつくかどうかは疑問符を付けざるを得ない。

■気概がない立憲県連
 中央と同じく立憲の地方組織も、無様な体たらくに終始している。来夏の参議院福岡選挙区で、候補者を公募していた立憲福岡県連は、1人から応募があったことを明らかにした。しかし、県連代表の城井崇氏は、9月下旬まで決定手続きを凍結するとして、「大切なのは丁寧な合意形成を図ること」と述べ、誰が応募してきたのかさえ、明らかにしていない。

 県連内からは、城井氏の姿勢を「内向き論理」と批判する声も聞かれた。現職の野田国義氏が3選に意欲を示してきたことは、既報の通りで、応募してきた1人とは野田氏のことではないか。

 県連は非公表としているが、漏れ伝わるところでは、福岡県内の11総支部のアンケートに対し、複数の総支部から野田氏の3選に異論が出たという。城井氏らは、慌てて公募を行うことを決めたが、公募の要件や期間に異論が続出した。そこで党員要件を外し1週間ほど伸ばして、公募をかけ、8月5日に締め切り、10日の常任幹事会で手続きを行う段取りとなっていた。

 公募に応じたのは1人のみだったが、野田氏の3選に批判的な県議などが、なぜ自ら手を挙げなかったのかも疑問だ。福岡県議会では、服部誠太郎知事の下で自民党と立憲などの民主県政県議団により運営が円滑に進められており、背伸びせずとも安住していられる。言い換えれば、誰も野田氏に代わる候補として手を挙げなかったのは、現状の県議の地位に安住して保身の道を選んだとみられても仕方がない。

 自民党派閥の政治資金問題などで、少なくない福岡県民が長く続いた自民党体制に不満を抱いている。自民党本部が7月10日に福岡市内で行った車座集会において、出席した地方議員から「自民党はもう応援しない」といった厳しい声を有権者から受けている現状が語られた。

 政権の支持率が低迷しているなか、立憲県連の公募に「我こそは!」と立つ者がいれば、自民党以外の選択肢を示すことができ、野田氏に3選を許している局面も変わる可能性があった。

 立憲の中央と福岡に共通するのは、自分勝手な保身の姿勢である。自民・岸田首相は、自らの退陣で尻拭いを行ったが、立憲はそれを上回る意地を示そうともしない。政権交代につながる好機をみすみす逃そうとしている。

【近藤将勝】

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