2024年09月05日( 木 )

北九州学研都市に台湾ASEが進出検討

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「シリコン・シティ北九州」実現へ

台湾ASEが市有地約16haを取得へ
台湾ASEが市有地約16haを取得へ

 半導体製造における後工程受託(OSAT)の最大手である台湾のASE(日月光投資控股)の日本法人・ASEジャパン(株)(山形県高畠町、鍾智孝代表)が7月31日、北九州市と市有地の取得に関する仮契約を結んだ。約34億円で「北九州学術研究都市」(若松区)の市有地約16haの取得を検討しているといい、後工程の生産能力拡充に向けた工場建設を視野に入れているとしている。

 武内和久・北九州市長は8月1日に行われた定例記者会見のなかで、ASEジャパンとの仮契約の締結が事実であることを認めたうえで、「現在、北九州市内には半導体関連企業が約100社立地をしており、これにASEジャパンが加わることで、『シリコン・シティ北九州』の構築に向けた動きが飛躍的に加速するということを期待しています。北九州市としても協議を精力的に進めながら、本契約に向けてしっかりと取り組んでまいりたいと考えております」と、本契約締結への意欲をのぞかせた。

 数多くの製造工程を経てつくられる半導体だが、大きくは「前工程」「後工程」の2つに分けられ、分業化が進んでいる。先般、熊本県菊陽町に進出したTSMC(台湾積体電路製造)は前工程である半導体のプロセス開発や製造をメインに行う「ファウンドリ」なのに対し、ASEは半導体の組立やテストなどの後工程を担う「OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)」である。両社はいわばライバルではなく協業関係にあり、今回のASEの進出検討は、TSMCとの連携を視野に入れてのものだと推察される。

 ファウンドリ最大手のTSMCの進出により現在、九州エリアにおける半導体関連企業の進出や集積が活発化している状況にあるが、ここにOSAT最大手のASEが加わることで、半導体製造の前工程から後工程まで九州で一貫して行えるようになる。ASEの進出が実現すれば、半導体関連企業の集積がますます加速していくことが期待されるとともに、かつて「シリコンアイランド」と呼ばれた九州の半導体産業の復権も、決して夢物語ではなくなってくるだろう。

北九州学術研究都市
北九州学術研究都市

APLも九州最大級DCを計画

 今回、ASEが進出を検討している北九州学術研究都市は、「アジアに開かれた学術研究都市」として「新たな産業の創出・技術の高度化」を目指し、2001年4月にオープンした研究開発・産学連携拠点である。若松区西部および八幡西区北西部にまたがる約335haに、大学や研究機関、産学連携施設等が集積した大規模な研究開発拠点化用地で、自動車・ロボット・半導体などの研究開発型企業や実証フィールドに最適な用地となっている。北九州市内でASEの工場を建設するにあたっては、まさに適地だといえるだろう。

米APLも大規模データセンターを計画
米APLも大規模データセンターを計画

 なお、遡ること23年8月には、米不動産投資会社のアジア・パシフィック・ランド(APL)グループが、九州最大級のデータセンター(DC)を建設することを発表した。APLグループの日本法人であるアジア・パシフィック・ランド・(ジャパン)・リミテッド(日本支店:東京都港区、高原義宣代表)が、学術研究都市の市有地約6.3haを約20億円で取得し、総受電容量120MW規模のDCを建設する計画で、総投資額は約1,250億円を想定。国内や東アジアの企業などの需要を取り込みたい考えで、27年秋までの着工を目指しているという。同社は、関東圏・関西圏からの地理的分散性や、インターネットエクスチェンジや海底ケーブルの陸揚げ局との近接性など、DCとしての基礎的な立地用件を満たす北九州市のポテンシャルを評価したうえで、1号案件である北九州学術研究都市のDCを皮切りに、DCの投資開発事業を進めていきたいとしている。

北九州学術研究都市
北九州学術研究都市 分譲地配置図
(⑦をASEが仮契約)

    このように企業立地が進んでいる学術研究都市だが、最大のネックは交通アクセス面だろう。位置する若松区は、北九州市のなかで北九州高速道路(都市高速)が通っていない唯一の区で、学術研究都市は八幡西区との境界近くにあるとはいえ、最寄りの北九州都市高・黒崎出入口から約9kmの距離にあり、車利用で約20分。交通アクセス面を考えると、決して恵まれている環境というわけではない。APLのようなDCならばいざ知らず、半導体という有形の成果物を輸送する必要のあるTSMCとの連携を考えた場合、この交通アクセス面の脆弱性が今後のASE進出を阻む障壁となってしまわないかが懸念される。

 とはいえ、OSAT最大手のASEの進出が実現すれば、北九州市が“ものづくりのまち”として再浮揚するためのまたとない好機といえる。万難を排して本契約に漕ぎ着け、「シリコン・シティ北九州」の実現に向けた大きな一歩を踏み出してほしい。

【坂田憲治】

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