2024年09月06日( 金 )

ポジティブシニア世代の“大人リノベ”(前)

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 今のシニア世代の特徴は、「多くの人が持ち家を有し、住宅ローンが完済済みまたは完済のメドが立っている」「子育てからも解放され、その後の自分たちの暮らしをもっと楽しみたいと考えている」「バブル時代も経験し、良質なものにお金を使うことができる」「コミュニケーションの発達とともに、さまざまな媒体から情報を取り入れてきた」──などだろうか。
 シニア世代のリフォーム/リノベーションというと、これまでは「手すりをつける」「段差をなくす」といったバリアフリーの部分だけが注目されてきた。しかし、今の60~70代はまだまだ若く、元気だ。会社を定年退職する、子どもが独立するなど、ライフスタイルが変化する時期でもあるが、若い頃とは違う10~20年後を見据えてリノベーションする人は増えていくだろう。
 住宅に使える資金の余裕ができるため、家のリノベーションを真剣に検討し始めるのもこの世代の特徴だろう。今の時代のシニア層は、これからの人生をどのように暮らしていきたいのか、もっと豊かに暮らしていくためどんな空間に住みたいと考えるのか、そんな片鱗に触れてみたい。

“大人リノベーション”とは

リノベーションに熱い視線が送られている? photoAC
リノベーションに熱い視線が送られている? photoAC

 中古マンションのリノベーションに、シニア世代も熱視線を送っているようだ。お手頃価格で、趣味も介護も理想追求。購買層を見ると、存在感を強めているのが50代以降のシニア世代。人口の多い団塊ジュニア世代が50代に差しかかり、リノベーションが必要になってきている。

 夫婦で過ごすのに何か特別ほしいものがあるわけでもなく、完璧を目指したいわけでもない。もし物件探しからするとなると、資金計画にも影響がある。そもそもまったく違う街に挑戦したいわけでもない。「自然と今の家でずっと暮らすのが楽だなぁ」「気分良く妥協したいなぁ」──と持ち家をリノベーションする流れがあるようだ。持ち家(もしくは実家)のリノベーションは、「できなかったことをやり直す」「使っていたからからこそ手直しできる」「より良いものへグレードアップできる」といった手軽さ、今の生活の延長線上にある暮らしをイメージしやすいという安心感もあるのだろう。こんなナチュラルで身の丈にあった積極的マインドのシニア層を、私はポジティブシニアと呼びたい。そして彼らの望む“大人リノベ”はどんなものなのか、考察してみたい。

【提案1】積極的に暮らしを楽しむシニア夫婦

積極的に暮らしを楽しむ 提案①
積極的に暮らしを楽しむ 提案①

①玄関ドアから緩めのスロープ。ほとんど坂だとは気づかないレベルの傾斜で、框(かまち)の段差は40mm程度へ抑える。水返し、砂返しもあって、わずかな折り返しはつける。少しの段差を越えることは、ある意味では日々のリハビリも兼ねたい。至れり尽くせりで体が鈍るより、少しの緊張感も大切。

②クローズドで暗かったキッチンを、リビングと対面になるようにオープンに変える。窓の外の風景に視線を向けながら、ゆったりと手料理の時間を楽しむ。

③家具はもちろん、仕事も生活リズムもそのまま変えない小机やお皿やお箸など、これまで使っていた食器などは新しくリノベーションした空間にもスッと馴染ませる。…もともとそこにあったかのように馴染んでいく。扉を閉めて、雑多な日常をスッと目隠しできるところも大人の作法。

④2人暮らしでもお友達はたくさん。4人掛けダイニングテーブルでワイワイティータイム、しっとりディナーなど。食事のスペースは、ゆったり時間を確保したい。

⑤趣味の写真。ピクチャーレールから額縁に入った作品を天井から吊り下げ、ギャラリー空間へ。季節ごとに写真を入れ替え、ダイニングの壁は“ギャラリーウォール”へ。思い出に花を咲かせる行楽空間へ。

⑥床は、犬が汚してもお手入れがしやすいように大部分をタイル貼りに。水気も脂もさっとふき取り、お掃除は迷わない。

⑦テレビは固定せず、移動式に。どこにでも手軽に持ち運べるレイアウトフリーテレビ。テレビの置き方を自由に変えられるということは、固定された部屋の使い方にならないということ。「テレビ部屋」という呪縛から解き放たれるのが、気持ち良い。

⑧個別ソファは自分だけの特等席。止まり木があることは、安堵感へつながる。

⑨二重サッシは、標準装備で設える。

⑩個室は、将来シェアができるように準備する。今後は家にいる時間も増えるので、仕事をする、本を読む、寝るなど、それぞれのやりたいことが完結できるようなマイルームに。さらに将来、どちらかが亡くなったり施設に入ったりしたとき、その部屋を友達に貸す、また残ったほうに介護が必要になったときはヘルパーさんに使ってもらうなど、シェアすることを考えておく。個室にはカギをつけた。

⑪部屋数を最小限に、その代わりにたくさん収納できる納戸、ウォークインクローゼット(WIC)を設置。リノベーション前には点在していた収納を、1カ所に集約させる。

⑫個室は趣味の部屋としても…。夫婦でも「お互いのプライベートを充実したい」「別々の寝室を設けたい」など価値観は多様化している。“ほどよい夫婦の距離感”を保てるような仕分けはきっちり確保する。

⑬ゆったりした洗面台。椅子に座ってここで家事も済ます。洗濯・アイロン・洗顔・身支度など、ユーティリティスペースは多機能部屋。

⑭愛犬との暮らしを楽しむ。床は、犬が汚してもお手入れがしやすいように、大部分をタイル貼りに。ペット用の収納スペースに、洋服やお散歩グッズなどをしまっておく。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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