財務省・佐藤慎一主税局長の蹉跌(後)
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過去の自民党政権では通常、党税調の「インナー」と呼ばれる実力者に根回しして口説き落とせば、まず政策の実現性は高い。こうした定石通りに佐藤氏は、野田会長をはじめとした党税調の有力者を口説き落とし、最後には麻生大臣も折伏。麻生大臣がG20で外遊する直前の9月1日には同大臣、田中一穂事務次官とともに佐藤氏は官邸を訪れている。おそらくは、「これで一応総理に説明した」というつもりになっていたのだろう。
ところが、いざ麻生大臣が同行記者たちに説明してマスコミが大きく取り上げると、状況は一変。とりわけ新聞に軽減税率の適用を強く求めてきた"ナベツネ"こと渡辺恒雄氏率いる読売新聞は猛反発し、連日、異様なほど過激な財務省批判繰り広げてきた。同省の天下りとして実力事務次官OBの丹呉泰健氏を読売新聞グループ本社監査役として受け入れてまで軽減税率導入を働きかけてきたのに、これでは、さしものナベツネも「話が違う」と踏んだり蹴ったりだったのだろう。基本的には政府や大企業、捜査機関のやることには、すべて肯定的な評価を下すことが多い読売にしては、珍しい激烈な政府批判が展開されたのには、こうした事情がある。
やがて読売以外の各紙、各民放も次第に批判一辺倒に傾き、ついには安倍首相、菅義偉官房長官が収拾に動いて野田氏を更迭。財務省も、いったんぶち上げたこの還付制度の撤回をせざるを得なくなった。
こうした顛末を振り返ると、ひょっとしたら事務次官になれるかもしれないという佐藤氏が、自らの「消費税増税を完璧なものにしたい」という功を焦りすぎて、財務省にとってなるべく負担の少ないケチな還付制度を考えて突き進もうとした可能性が高い。おそらく、東大の受験エリートらしく、それが彼らにとっては完璧な模範回答だったのだろうが、受験エリートよりも世知に賢い世間はそれを許せなかった。「財務官僚としては完璧に『過去問』を解いてきたはずだった。しかし今回のテストは『過去問』にはないケースだったので、結局、大失敗だった。東大受験の赤本ばかりやって、受験テクニックばかり精通してきた彼の失敗だろう」。そう同期の一人は笑う。
財務省の、増税の際の「過去問」には、必ず「党税調の根回し」が最優先課題としてあっただろうから、佐藤氏は、そこは余念なく一生懸命にやったはずだ。だが、一般世論の反発という展開は、おそらく彼が参考にした「過去問」にはなかったのだろう。大騒ぎになった後の対応は後手後手で、ひとり財務省の間抜けぶりばかりが露呈して失敗した。一連の顛末の真相は、おおむね、こんなところだろう。試験勉強したところ以外から出題されたので、テストでぼろ負けしたのだった。
今回の佐藤氏の大失敗は、この国の受験エリートの、意外に世知に疎い脆弱な側面が垣間見えた格好だ。野田税調会長が更迭され、麻生大臣が赤恥をかかされたというのに、だがしかし、主税局トップの佐藤氏はいまだ健在。取材申し込みに対して、「私の名前が引用される取材は一切受けません」と取材拒否に徹している。残念ながら、これでは「事務次官の器」では到底あり得ない、と言っておこう。
(了)
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