米国実質金利上昇は、株高・ドル高要因だ(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は9月16日発刊の第363号「米国実質金利上昇は、株高・ドル高要因だ~利下げ期待はtoo much~」を紹介する。高実質金利時代に戻る
米国経済の物差し、金利水準が大きく変転し、市場参加者を惑わし続けている。これまでの経済常識に反して、1年半で5.25%という極端な利上げも、過去50年で最大・最長期にわたる逆イールド(長短金利逆転)も、景気後退を引き起こしていない。
加えてこの間インフレが大きく鎮静化してきた。その結果実質金利は著しく高くなっている。この高実質金利を放置すれば深刻な景気減速、あるいは金融危機を引き起こしかねない。大幅な利下げは必至でありそれは円高をもたらすので、日本株式にはより深刻な打撃を与える、との懸念が、日本株売りを正当化している。
大幅利下げを先取りする市場金利
そうした見込みの下で、米国の市場金利は利下げを先取りして大きく低下している。9月13日現在、FF金利12カ月先物は2.92%、2年債利回りは3.57%、10年国債利回り3.66%となっている。一年間で、今の5.5%から3%へと250bpもの利下げが織り込まれているのである。このような急激な利下げはITバブル崩壊時(2000年12月の6.5%から2001年12月の1.75%へ)、リーマン・ショック時(2007年8月の5.25%から2008年12月の0.25%へ)という金融危機に準ずるものである。この急激な利下げに見合う経済的現実とは、深刻な景気後退としか考えられないが、依然としてエコノミストの間では米国経済ソフトランディング派が大勢である。とすれば、市場参加者の経済見通しと金利見通しとの間に大きな乖離が存在しているということになる。エコノミストが景気見通しを過度に楽観視しているのだろうか、または市場が過度に利下げ見通しを高めているのだろうか。
武者リサーチは市場の利下げ期待が行き過ぎている可能性が高い、と考える。鍵は現在到達した実質金利の高さを危険なものと見るのか、否かにかかっている。リーマン・ショック以降188カ月の平均を見ると名目FFレートは1.23%、コアCPI2.48%、実質FFレートは-1.25%、となっている。この実質FFレート-1.25%を中立金利と考えれば、現状は著しく金融引き締め的であり、早急な利下げが必須との結論になる。
中立金利上昇を見込み始めたFRB、だがまだ不十分
そうした見方が正しいのかどうかだが、FRBは中立金利が上昇しておりそこまでの利下げは必要ない、との見方を強めているようである。四半期ごとに公表されているFOMCメンバーのSEP(Summery of Economic Projections)によると、FFレートの長期収束値(terminal rate)は2023年12月2.5%、2024年3月2.6%、2024年6月2.8%と段階的に引き上げられている。この間インフレ予想は2.0%で変わっていないので、実質FFレートの長期収束値は0.5%から0.8%へと引き上げられたことになる。この長期収束値の引き上げはこれからも続きそうであり、仮にこの実質FF金利の長期収束値が1.3%まで引き上げられるとすれば、現在の実質FFレートが2.3%なのであるから、利下げは100bpで十分ということになる。
リーマン・ショック以降何故中立金利が低下したのか
中立金利の目安となる実質FFレートの長期収束値は今どのレベルなのか。図表2により1990年以降の実質FFレートを振り返ると、2008年のリーマン・ショックを境に、大きくレベルが変わっていることが分かる。1990年から2008年までの228カ月の平均実質FFレートは1.5%であった。しかし2009年以降、2024年8月までの188カ月の平均は-1.25%と大きく低下して推移してきた。リーマン・ショックを境に中立金利のレベルが劇的に変化したのである。そして今再び実質FFレートが大きくプラスになっている。
この実質FFレートの推移は、NY連銀が試算する自然利子率の動きとも符合する。図表3により1960年以降の潜在成長率と自然利子率の推移をたどると、それまで完全に一致していた潜在成長率と自然利子率が、2009年以降大きく乖離し、自然利子率が潜在成長率(≒完全雇用成長率)を大きく下回り続けたことが分かる。つまり完全雇用を実現するためには大幅な金利水準の引き下げが必要という時代が、10年以上にわたって続いたのである。なぜ自然利子率(≒実質中立金利)が低下したのだろうか。多くの要因が指摘されているが、武者リサーチは以下の3要因が重要と考える。1.人々が過度に悲観的になり、リスクテイクに後ろ向きになった、2.先行き不透明感が強まり、高いリスクプレミアム(タームプレミアム)が求められた、3.企業・家計ともに借金需要が低下し、金利感応度が下がった(企業は自己金融力の高まり(=貯蓄が高まり)により、家計はリーマン・ショックの後遺症で借金に後ろ向きになったことにより)、である(※)。
(注)自然利子率の低下の要として上記3点に加えて、世界的過剰貯蓄による世界的実質金利低下、高齢化・生産性低下などによる総需要低下、なども指摘されている。
この環境の下でQE(量的金融緩和)が打ち出され、資産価格が押し上げられ、金利以外のチャンネルによる需要喚起策が導入されたのである。
(つづく)
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