原発と玄海町(後)「文献調査」受け入れ
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広嗣まさし
2024年5月10日、佐賀県東松浦郡玄海町は、国からの「文献調査」申し入れを受諾した。「文献調査」とは使用済み核燃料の処理の第一段階を指すもので、今のところ、「文献調査」を受け入れる意思を表明したのは北海道の2カ所と玄海町だけである。北海道の2カ所には原発がない。玄海町だけが原発とその後始末の両方を引き受けようとしている。
使用済み核燃料の処分に関する「文献調査」とは、ある地域が廃棄場所として適格かどうかを知るために、その地域に関する地質学の論文などを読む作業をいう。この段階で当該地域が適格であると判断されれば、次の段階、すなわち「概要調査」、さらには「精密調査」へと進む。
活断層があるところに原発を建設してはならないことは世の常識である。使用済み核燃料、すなわち「死の灰」の埋設についても同じだろう。玄海町はその点で大丈夫なのか?
専門家のなかには「九州の川内と玄海だけは安全」という人もいる。しかし、川内は16年の熊本地震でかなりの影響を受け、玄海は05年の福岡西方沖地震でかなり揺れている。
政府の地震本部でさえ、九電の調査は見直しが必要で、近くに活断層がないことだけを強調し、遠い断層でもエネルギーを失うことなく伝わって来る「津波」の影響を考慮していないと警告している。電力会社が行う調査は第三者の客観的調査とは違うのだから、そんな調査を信用はできないはずなのだが、メディアがそれを信用するように仕向ければ、一般市民がそれに従ってしまうところが恐ろしい。
「死の灰」についての玄海町の立場は、原発が稼働できる地域なのだから、その処分場となってもおかしくないという理屈かもしれない。住民のなかには、「ここには使用済み核燃料がすでに蓄積しているのだから、早く処分してもらいたい」と願う人もいると聞く。しかし、それが地下300mの地中に埋設されたとして、本当に「安全」なのか?
「文献調査」にせよ、「精密調査」にせよ、原発関係の調査で重要なのは、最悪の事態を想定する「否定的視点」だろう。すなわち、少しでも危険がある場合には、それが大事故を引き起こし得ると見て、その「少しの危険」を重視することが大切なのである。当該の地域が「核のゴミの埋設地」として適しているかどうかを調べるのではなく、「その地域にはいかなる危険もおよばないのか」を徹底的に調べる必要がある。
ところで、「文献調査」を受け入れた玄海町の脇山伸太郎町長の発言は興味深いものがある。玄海町はエネルギー補給の観点から日本はしばらく原子力が必要だと考えており、それに則って長年にわたって原子力発電を通じて電力の安定供給に寄与してきたのであって、「死の灰」の処分についても積極的な姿勢を保ってきたと述べる一方で、今回の受け入れについては町内の3団体から将来の持続的発展や安全確保を望む請願書が提出されており、これが町議会で賛成多数で採択されている以上、文献調査を受け入れたからといって、自ら「処分地」の候補として名乗り出たわけでないと留保しているのである。
このことからわかるのは、玄海町の意見が一枚岩ではないということで、脇山町長をはじめとする行政側は、国と九電の意向に全面的に賛成なのだが、町民としては、それ以上に「安全第一」を要望しているということなのだ。
そうなると、議会は「どうして文献調査を受け入れてしまったのか?」ということになるが、これについての脇山町長の発言は極めて曖昧である。日本全国どこも受け入れの意思を示さないのでは前進がないから、全国各地に先駆けて「挙手」のアピールをしたというのだ。つまり、「全国の皆さん、玄海町を見習って怖じけずに名乗り出なさい」と言っていることになる。
この発言にも一理ある。原発がある以上、その廃棄物の処理も責任をもってまっとうしなくてはならないという考えなのである。脇山氏自身は「日本は将来的には原発を廃棄すべき」と考えているようだが、今は進んでこれを引き受ける立場をとっている。それはそれで理解できない訳ではない。
しかし、問題は筋が通っているかどうかではない。安全かどうかである。そうなると、やはり「原発そのものが安全ではない」という専門家の声を拝聴すべきだろう。すでに紹介した玄海の和尚・仲秋喜道氏の『玄海原発に異議あり』はもちろん、物理学者の矢ヶ崎克馬氏や放射線治療専門家の西尾正道氏、使用済み核燃料地層処理の専門家の土井和巳氏の著書などを一読してみることだ。
私見を言わせてもらえば、そもそも「原子力」の理論そのものが危険なものではないか?原子核の発見、核分裂と核融合から生じる膨大なエネルギー。これを利用しようなどという発想そのものに、おかしな点がありそうなのだ。その辺のところはもっと勉強しなくてはわからないが、人工的に開発された原子エネルギーが生物におよぼす影響ももっと考慮する必要がありそうである。人間だけが地球に住んでいるわけではないのだから。
(了)
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