2024年11月23日( 土 )

課題が顕在化する不動産の相続問題(前)

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法改正で今年4月から相続登記が義務化

 今年4月1日から、相続した不動産の名義変更の手続きである「相続登記」が義務化された。

 これは、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことを義務付けるもので、今年4月1日以前に相続したものであっても、未登記であれば、義務化の対象となっている(3年間の猶予期間あり)。また、遺産分割の話し合いなどで不動産を取得した場合も、遺産分割から3年以内に登記の申請を行う必要がある。なお、正当な理由がないのに期限内の申請を怠った場合は、10万円以下の過料(行政上の罰金)の適用対象となる。こうした義務化の一方で、相続登記の申請義務を簡易に履行することが可能な「相続人申告登記の新設」といった申請義務の簡易な履行手段を用意するほか、価額が100万円以下の土地に係る相続登記などについての登録免許税の免税措置や、全国の法務局で相続登記の手続案内を実施するなどの相談体制の充実といった相続登記の負担軽減など、国民の負担軽減のための環境整備も進めていくとしている。

相続登記義務化周知フライヤー
相続登記義務化周知フライヤー

    今回の義務化は、2021年4月に成立・公布された「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)」に基づくもの。なお法務省では、義務化施行の約1年前となる23年3月に、「相続登記の申請義務化の施行に向けたマスタープラン」を公表。新制度の開始に向けた環境整備策や予定している運用上の取り扱いなどを明らかにすることにより、国民に新制度の十分な理解と適切な対応を促してきている。

 政府がこうした相続登記の義務化を推進している背景には、今や社会問題となるほど増加してきている「所有者不明土地」の存在がある。

総面積は九州本島以上 増える所有者不明土地

 国内の土地は、一筆ごとに所在や面積のほか、誰が所有しているのかが登記簿に記録されているのが通常となっているが、そうしたなかで「所有者不明土地」は、「所有者台帳(不動産登記簿等)により、所有者がただちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地」と定義されている。たとえば「所有者台帳が更新されていない、台帳間の情報が異なるなどの理由から、土地の所有者の特定をただちに行うことが難しい土地」「所有者は特定できたが、所有者の所在(転出先、転居先等)が不明な土地」「登記名義人が死亡しており、その相続人が多数となっている土地」「所有者台帳に、すべての共有者が記載されていない共有地」などがこれに当てはまる。有識者らで構成される「所有者不明土地問題研究会」((一財)国土計画協会の自主研究会)による推計では、16年時点での全国の所有者不明率は20.3%、面積では九州本島(約368万ha)を上回る規模の約410万haとされており、現在はその面積はさらに拡大していると見ていいだろう。

 こうした所有者不明土地の存在により、たとえば災害復旧や道路整備、山林管理、農地の集約、地籍調査、土地区画整理といった公共に資する事業を進める際にも、コスト増の要因や所要時間の延長要因となるだけでなく、民間においても土地の有効利用や放棄・放置不動産の管理を進めるうえで大きな障害となることが懸念される。そして所有者不明土地は、相続未登記の連鎖などによって時間を経るごとにネズミ算的に拡大していくことが想定されており、日本の将来において国土荒廃や課税漏れ、獣害、治安悪化、廃墟、土地利用・取引の停滞など、遅効性の毒のようにさまざまなマイナスの影響を生じさせかねない問題となっている。しかもやっかいなのは、この所有者不明土地の問題は、現時点では多くの国民にまだほとんど認識されておらず、後々もはや対応が困難な状況になってから顕在化してくる可能性がある点だ。

 こうした所有者不明土地の発生を予防していくための政府の方策が、冒頭に紹介した法改正による不動産の相続登記の義務化であり、相続などにより取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度の創設などだ。法務省では、これら相続登記の義務化や新制度のPRのために、不動産登記推進イメージキャラクター「トウキツネ」を使用したパンフレットやフライヤー、リーフレット、広報用まんがなどを作成・公表。周知促進に努めている。

相続登記の義務化リーフレット
相続登記の義務化リーフレット

相続未経験者では約2割 いまだ低迷する認知度

 ただし現状、不動産の相続登記の義務化についての認知度は、決して高いとはいえない。

 リーガルメディアサイト「ベンナビ」の運営などを手がける(株)アシロ(東京都新宿区/東証グロース)は義務化開始直前の今年3月、相続に関する相談・対応を得意とする弁護士・法律事務所を検索できるポータルサイト「ベンナビ相続」にて、相続登記の義務化に関する認知度や、手続きの状況についてのアンケート調査を実施した。調査対象は不動産を相続したことがある20~60代の400人と、相続を経験したことがない20~60代の500人の計900人で、調査日は今年3月7日。調査方法は24時間セルフ型アンケートツール「Freeasy」を用いたインターネットリサーチで行われた。

 そのアンケート調査では、不動産の相続経験者の64.5%は相続登記の義務化を知っている一方で、相続未経験者の認知度は2割以下の19.6%という結果となった。また、相続登記の義務化を知っている人の多くは、今年4月1日の施行日前に相続した不動産も対象になることや、登記申請をしなかった場合に過料が課せられる可能性があることなども知っていた。不動産の相続経験者のうち、実際に相続登記を行ったか否かの調査では、「相続登記をした」と回答した人は62.2%にとどまり、残り37.8%の人は「していない」と回答。さらに、その相続不動産の登記申請を「していない」と回答した人のうち、登記申請の準備を行っている人の割合は16.6%にとどまり、残り83.4%が準備をしていないという結果になった(出典:ベンナビ相続)。

 前述したように、所有者不明土地の発生を予防していくためにも、不動産の相続登記の義務化は広く周知・浸透していかなければならないのだが、同調査では、認知度はいまだ低いという結果が出ている。団塊世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となり、国民の5人に1人が後期高齢者の超高齢化社会となることで、社会の広い領域で深刻な影響をおよぼすとされる「2025年問題」を目前に控えるとともに、日本の家計資産の世代間移転が加速する「大相続時代」の到来が目前に迫っている現在、同認知度の向上は喫緊の課題となっている。

(つづく)

【坂田憲治】

(後)

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