課題が顕在化する不動産の相続問題(後)
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相続で検討が増加する「家じまい・実家じまい」
「大相続時代」においては、家計資産の世代間移転が進んでいくことになるが、家計資産のうち、金融資産に次いで多くを占めているとされるのが不動産である。
ただし、不動産はただ所有しているだけでさまざまなコストが発生する性質をもっており、たとえば固定資産税のほか、地域によっては都市計画税といった税金が発生。また、維持していくにも、マンションであれば管理費や修繕積立金の負担や、戸建でも細かな修繕費用の負担や庭木の剪定など、さまざまな費用が発生する。そうした状況下で、現在相次いでいるのが「家じまい」だ。
「家じまい」とは文字通り、家を片付けて処分することを指し、高齢者自身が終活の一環として自分の持ち家を処分するケースや、親や祖父母の住んでいた実家を子どもが処分するケース(実家じまい)などさまざま。とくに多いのが、相続した不動産が遠方などで住めず、かといって活用の見込みもないうえ、維持・修繕が負担となっているケースのようだ。
今年9月、(株)オープンハウスグループ(東京都千代田区)と(株)LIFULL(東京都千代田区)は共同で実施した「家じまいに関する意識調査」の結果を公表した。同意識調査は、実家や生家の売却を経験した人350人、および検討している人350人の計700人を対象に行ったもので、調査期間は今年7月22日~24日の計3日間。調査方法はインターネット調査となっている。
同調査において、家じまいの経験者と検討者の双方に対して「売却を検討し始めたきっかけ」の質問を行ったところ、いずれも「使う見込みがなく、家の維持・修繕が大変になった」(経験者34.3%、検討者29.1%)の回答が最多となった。次いで「家族や親族の死別」(経験者20.6%、検討者17.4%)、「家族や親族の高齢化」(経験者12.3%、検討者21.7%)と続く。売却時に後悔したことや苦労したことについての質問では、「思うような価格で売れなかった」が1位となったほか、「残置物で売れそうなものがあったが、手間と時間で売ることができなかった」などが上位にきている。また、検討者が不安に思っていることの質問では、「希望の価格で売れるか」が1位となっている一方で、「何もわからないのが不安」「売却や相続に関する税金関連の知識がなく不安」などの知識不足に起因する不安が目立つ結果となっている。そして検討者が売却に至っていない理由では、「とくにない(面倒だ、など)」が1位となるほか、「どんな不動産会社を選べばいいかがわからない」「情報は集めているが、検討をする時間的な余裕がない」などが上位となった。
同調査結果が示すように、相続した実家を使う見込みがないのに維持費が発生することを筆頭に、親世代の高齢化および逝去などをきっかけとして、家じまい・実家じまいを検討し始めるケースは増えているようだ。
「負動産」対処に活用 相続土地国庫帰属制度
ただし、こうした家じまい・実家じまいが行えるのは、その不動産に売却に値するだけの資産価値がある場合に限られる。不動産のなかには、「売るに売れない」「維持管理するのにも費用や手間がかかる」「貸しても借り手がつかない」といった、所有しているだけで負担ばかりが発生するものもあり、そのような不動産は「負の財産」という意味で「負動産」とも呼ばれる。具体的には、田舎の古い開発エリアにある家や山林、田畑などが該当するほか、道路に面していない再建築不可の土地などもある。
こうした「負動産」への対処法としては、相続前であれば、遺産分割協議でほかの相続人に相続してもらうほか、相続放棄をするという方法が考えられる。また、すでに相続してしまった後であれば、公益法人や自治体への寄付や、有料で不動産業者に引き取ってもらう方法などがあるほか、23年4月に始まったばかりの「相続土地国庫帰属制度」に申請する方法などが考えられる。
相続土地国庫帰属制度は、冒頭に紹介した相続登記の義務化と同様に、所有者不明土地の発生を予防していくための政府の方策の1つ。同制度の創設の背景には、土地利用ニーズの低下などにより、相続した土地を手放したいと考える人が増加していることや、相続を契機として土地を望まず取得した所有者の負担感が増し、管理の不全化を招いていることなどがある。通常の管理または処分をするにあたって過分の費用または労力を要する土地は不可などの土地の要件があるほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金の納付が必要になるものの、承認申請を行って法務大臣(法務局)による要件審査・承認を得られれば、その土地を国庫帰属させることができる。帰属後は、管理庁(財務省・農林水産省)が国有財産として管理することになる。複数の要件があるため、すべての土地を引き取ってもらえるわけではない点に注意が必要だが、「負動産」への対処法として検討する価値はあるだろう。
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人が死ぬことから逃れられない以上、相続はどこの家でも発生し得るものであり、金融資産だけでなく不動産を相続するケースも多い。相続登記の義務化の法改正などもあり、不動産の相続に対する関心が高まってきている昨今、所有者不明土地などの未登記不動産が今一度、不動産流通市場に乗ることで、その新たな利活用が進んでいくことを期待したい。
(了)
【坂田憲治】
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