2024年11月18日( 月 )

アメリカ大統領選挙顛末記:トランプもハリスも似た者同士?(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

※編集注:前編の内容は11月15日掲載の浜田氏「トランプ前大統領の復活劇を支えたのはイーロン・マスクとインド人?」と重複しております。 

アメリカ イメージ    世界の注目を集めたアメリカの大統領選挙でしたが、トランプ氏が大勝し、来年1月にはホワイトハウスの主として復活することになりました。事前の予想では、ハリス副大統領との接戦が伝えられていましたが、トランプ氏が総得票数でも圧倒するという「大番狂わせ」となったわけです。

 そうした「元不動産王」の復活劇を支えたのは、世界一の大富豪とされるイーロン・マスク氏です。何しろ、日本円換算で約180億円をトランプ氏の選挙費用として献金しています。電気自動車の「テスラ」、宇宙船の「スペースX」、そしてツイッターを買収し新たに立ち上げた「X」など、毎年110%の成長を記録し、2027年までには世界初の資産1兆ドル超えを達成する見込みです。

 彼は12年に世界初の資産10億ドルを記録しましたが、その後の躍進は目覚ましく、22年には2,220億ドルで、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏の1,770億ドルを蹴落として話題を独占したものです。そんなマスク氏がトランプ候補を全面的に支援したのにはワケがあります。

 マスク氏曰く「今のままでは、アメリカ経済は破綻する。財政赤字はアメリカ史上最悪だ。ドルへの信用も下落する一方のため、国家予算の編成を抜本からつくり直す必要がある」。これまで国際基軸通貨ドルを刷り増すことで、国家破綻を回避してきたのがアメリカでした。そこにくさびを打ち込もうというのがマスク氏です。

 トランプ氏の遊説先に同行し、派手なパフォーマンスでトランプ氏への支持を訴えたのですが、その効果は絶大でした。選挙中に狙撃され、危うく一命を取り止めたトランプ氏を「史上最強のリーダー」と持ち上げ、トランプ氏の信頼を勝ち取ったものです。

 今後は新設される「政府効率化省」のトップとして国家財政の在り方に大改革のメスを入れることになるでしょう。いわゆる「影の政府」とも揶揄される「ディープステート」を排除しようとの目論見ですが、どこまで成功するかは見通せません。

 ところで、トランプ復活を決定づけた要因として見逃せないのがアメリカに暮らすインド系有権者の存在です。今では、600万人を超えるインド人がアメリカで活躍しています。中国人の500万人をはるかに凌駕しているのです。こうした在米のインド人を味方につけることができれば、選挙戦を左右することになります。

 しかも、ITや金融の世界で大成功しているインド人が多く、当初は、インド人コミュニティではインド人の母をもつハリス副大統領への期待が膨らんでいました。しかし、ハリス候補は「自分は黒人だ」と主張し、ジャマイカ人の父親の血筋をアピールしたため、インド人の支持を失うことになったのです。

 そうしたインド人の票はトランプ氏の副大統領候補になったバンス上院議員に流れました。なぜなら、バンス氏の夫人は根っからのインド人で、そのことを強く意識した発言を繰り返したからです。

 実は、マスク氏に次いで、世界第2の大富豪はインド人のゴータム・アダニ氏。日本では馴染みが薄いでしょうが、インドの不動産、港湾インフラ等の開発で大成功し、28年には資産1兆ドルに達する見通し。そうしたインド系の大富豪たちが副大統領候補のバンス氏の夫人でインド人のウシャさんの演説に共鳴し、トランプ支援に回ったのです。

 ベジタリアンのウシャ夫人ですが、「夫は肉とポテトが大好きでしたが、私や母親のためにインド料理をマスターし、家ではおいしい食事をつくってくれています」と家族思いの夫を持ち上げています。

 バンス副大統領候補はハリス候補について「子どものいない猫可愛がり女」と揶揄し、一時ネット上では非難轟々の嵐に直面しました。ところが、3人の子どもをもつウシャ夫人の臨機応変な発言が効果を発揮し、バンス批判の嵐は収まったのです。彼女曰く「夫は皮肉っぽい発言をしましたが、彼の発言の全体を聞いていただければ、子どものいない女性を貶めるような意図は皆無であることが、誰でも分かってもらえると思います」。

 いずれにせよ、インド系であることを封印し、黒人票を得ようとしてか、「私は黒人です」発言を繰り返したハリス氏は、本来であれば熱い支援が得られたはずのインド人コミュニティからそっぽを向かれてしまいました。その一方、インド人の妻やインド文化を大切にするバンス氏の人気が急上昇し、結果的にトランプ支持票を大きく伸ばしたのです。残念ながら、ハリス陣営の見せかけの黒人作戦は大失敗でした。

(つづく)

浜田和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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