2024年11月27日( 水 )

24時間空港「福岡空港」の門限問題 山積課題に対症療法をいつまで続ける?(後)

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川弘 氏

 福岡空港は過密問題への対応として第2滑走路の増設が行われている。しかし、第2滑走路は2,500mと短く離陸にしか使われない。さらに平行する2本の滑走路は近接するため同時離発着はできず容量拡大への効果は限定的だ。そればかりでなく福岡空港はさまざまな課題が山積している。対症療法をこのまま続けるのか。福岡が国際都市として飛躍するための戦略的な視点から、福岡空港の在り方について今一度真剣に議論すべき時がきている。

北九州空港・佐賀空港への代替着陸は対症療法

 上記の事例のように、北九州空港への代替着陸(ダイバート)が頻繁に起こってくると、福岡空港の夜間利用が疑問視され、各航空会社から敬遠されてしまうことも今後考えられる。

 そしてまた「これからは、北九州空港への代替着陸をすれば良い」と簡単に言う人がいるが、航空機1機の乗員乗客約100~300名の人を迎え入れるだけでも、それなりの対応ができるグランドスタッフの配置、バッゲージ輸送の対応スタッフが必要となる。国際線にいたっては、入国管理官(イミグレーション)、検疫官、税関スタッフなど多くの専門担当官の人員確保と夜間対応が必要となるのである。

 日本航空も全日空もそれぞれ、北九州空港への代替着陸(ダイバート)を行える体制づくりを進めているようであるが、両社とも離陸前に福岡空港の運用時間内に航空機が着陸できないと判断した場合のみに対応するとしている。さらに全日空においては「北九州空港へは大型機を対象とし、中型機・小型機については、佐賀空港への代替着陸(ダイバート)する」としている。ただし佐賀空港の運用時間も6時30分~24時であるため、それ以降の時間は使えないことになる。

 両社とも、顧客に負担・迷惑をかけないようにと、出発空港へのUターンではなく、なるべく近い空港に代替着陸(ダイバート)を善意の対策として講じていると考える。門限がある福岡空港の運用が悪いのか、遅延する飛行機が悪いのか、いずれにしても飛行機の利用者にとって、迷惑であり、不愉快であるのは間違いない。

福岡空港の利用時間延長は
住民の生活環境が犠牲になる

 「福岡空港の門限問題」が表面化してきたのは最近のことであるが、北九州空港や佐賀空港への代替着陸(ダイバート)は、苦肉の策というか、いわゆる対症療法でしかない。

 「それならば福岡空港の利用時間を延長すれば良いではないか」という方も多数いる。先にも述べたように、たしかに1994年の最高裁判決により「福岡空港の夜間飛行差し止め」は棄却されたことで、原則的には福岡空港の24時間運用は可能ではあり、利用時間の延長も可能ではある。

 しかしながら、仮に夜11時までの1時間延長したとしても、航空会社はそれに合わせたダイヤ編成を行うだけで、門限に間に合わなくなる航空機は出てくるだろう。ならば夜12時までの2時間延長や、深夜1時までの3時間延長という議論になったとしても、結局同じことで「福岡空港の門限問題」は解決されないし、北九州空港への代替着陸は行われるであろう。むしろ利用時間を延長することで、福岡都市圏の住民による新たな騒音公害訴訟が起こるかもしれないし、空港の過密化・混雑化などの影響による夜間離発着時の事故の可能性も高くなる(今年1月2日の羽田空港地上衝突事故がそうであったように、視界が暗くなればそれだけ事故の可能性も高くなる)。

 つまり、福岡空港の利用時間延長を認めるということは、夜間騒音・事故・渋滞など福岡都市圏に住む人々の生活環境を今以上に犠牲にしなければならなくなることにつながるのである。

 これが、市街地にあって、「日本一便利な空港」と呼ばれる福岡空港の実態であり、大きな問題なのである。

まとめ

 2004~09年に行われた「福岡空港の総合的調査」で散々議論された「福岡空港の過密化対策」は、25年春に増設滑走路が共用開始をすることで本当に完了するのだろうか?

 冒頭で紹介した通り、09年3月、当時の麻生渡県知事と吉田宏市長は連名で国土交通省に対し、「福岡空港の過密化対策」に関する地元意見書を提出した。そのなかで、「(1)増設滑走路の早期着手」と「(2)新空港の調査研究」について書かれている。麻生知事(当時)は「増設しても十数年後には再び容量限界が予想される」と指摘し、「新空港について調査・研究を続けていく必要がある」とも述べ、新空港の必要性についても強い期待を示していた。しかし実際には(2)の調査研究については何も行われていない。

 あれから15年経過した。いまだに「門限問題含む24時間使えない福岡空港」「すぐに容量限界を迎える福岡空港」「拡大する環境対策費」「航空法による中心市街地の高さ制限」「混雑化・過密化による事故の可能性」など、福岡空港が抱える根本的な問題は、まったく解決されていない。そして、福岡国際空港(株)による民間運営は2048年7月31日までのあと24年。その後の運営に関しても、何も決まっていない。

 こうした状況を踏まえて、これから先何十年、福岡空港は今の場所での対症療法だけで運用していくのだろうが、福岡の街が今後も発展していくためには、来春の増設滑走路共用開始後、すぐにでも新福岡空港の議論・調査・計画を始める必要がある。福岡・九州が今後も成長するためには、安全でかつ十分な容量で、24時間使用可能な九州の空の玄関口(新福岡国際空港)が不可欠なのである。そうでなければ、福岡・九州の経済は衰退していくだろう。

(了)


<プロフィール>
下川弘
(しもかわ・ひろし)
(株)アクロテリオン 代表取締役 下川弘 氏1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、2021年11月末に退職。03年4月熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程入学、05年3月同大学院中退。現在、(株)アクロテリオン・代表取締役、C&C21研究会・理事、久留米工業大学非常勤講師。

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