2024年12月16日( 月 )

地域に根差した国際派代議士・緒方林太郎氏に聞く(序)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 衆院選では福岡県内11選挙区のうち7選挙区で自民党が勝利したが、大都市圏である北九州市が選挙区の9区・10区は、野党系の現職が勝利しており、福岡9区(八幡西区など)では緒方林太郎氏が4期目の当選をはたした。緒方氏のインタビューに入る前に、野党系である同氏が前回(21年)に続いて連勝した福岡9区の地域事情から見ていくことにする。

中選挙区時代は筑豊の一部

緒方林太郎氏    福岡9区は、中選挙区(旧・福岡2区)時代、筑豊地域の一部も含まれていた。現在でもその影響は残っており、県内他地域とは選挙の状況が異なる要因の一つとして挙げられる。

 旧福岡2区は、筑豊炭鉱の関係から1970年代までは、旧総評(日本労働組合総評議会)の有力労組である炭鉱労組に支えられた日本社会党の強力な地盤だった。その後も、民主党が結成される90年代前半ごろまでは、旧社会党系が強いエリアだった。

 現在、9区である北九州市域には、新日鐵八幡製鐵所(現・日本製鉄)があり、労使協調路線の労働組合の流れがあった。一方で通勤の利便性から福岡・北九州両市のベッドタウンとして人口が増加する傾向にもあった。

 中選挙区制での最後の総選挙は、93年7月に宮沢喜一内閣のもとで実施された衆院選である。この選挙において反自民票は、小沢一郎氏率いる保守系新党の新生党などに流れ、自民党は下野。これにより「55年体制」が幕を閉じた。

強固な労組の基盤

 このときの衆院選では、麻生氏が10万1,080票、次いで三原朝彦氏が新党さきがけから立候補し10万201票を獲得、前北九州市長・北橋健治氏は、民社党から立候補し、9万7,123票を獲得し、いずれも当選した。

 小選挙区となった96年の衆院選では、麻生氏は自民党・三原氏は新党さきがけから立候補、両者ですみわけを行い、麻生氏が現在の8区、三原氏が9区から立候補し、共に当選した。

 現在、基幹労連に加盟する旧八幡製鉄の労組は、非常に強力な支援体制をもっており、自民党でも対抗するにはよほどの人材でないと務まらなかったという。

 北九州市の基幹産業であった鉄鋼業の衰退で労組の勢いも鈍化した。2005年の衆院選で三原氏が12万1,465票を獲得し、北橋氏に勝利。北橋氏は比例復活した。その後、07年の北九州市長選挙に立候補し、初当選。この時期が、「時代の転換期にあった」と地元関係者は語る。

幅広い層からの支援で連勝

 民主党政権が誕生した09年の衆院選において、元外務省職員・緒方林太郎氏が民主党公認で12万2,815票を得て、三原氏を破った。だが、12年の衆院選では、三原氏に約3万票差で敗れ、重複立候補していた比例での復活もならなかった。14年の選挙では比例復活したが、17年の衆院選は、希望の党から立候補したものの、党の逆風のなか、緒方氏は議席を得られなかった。

 そうした一進一退の戦いのなかで、緒方氏は、幅広い層の支持を得ることを模索し、21年10月の衆院選において、三原氏を破って再選をはたした。

 10月27日投開票の衆院選では、無所属で立候補したが、自民党・立憲民主党それぞれの公認候補がいない状況で、2位の前北九州市議にダブルスコアをつけて当選。福岡県内ではトップの得票率(57.3%)だった。

 無所属での立候補であったが、緒方氏を支援した地元市議の1人は、リベラル系の村上さとこ北九州市議会議員であった。また今回は保守分裂の影響で自民党が公認候補の擁立を見送ったことから、緒方氏はリベラル系だけでなく、自民党を応援する保守層にも食い込んでいた。

 福岡2区で勝利した立憲の稲富修二氏にも共通するが、保守系からリベラル系まで広範な支持者を得ることが、分厚い保守の壁を崩すことにつながる。

 今回のインタビューでも語っていることだが、緒方氏も旧民主系ということもあり、連合福岡の推薦を受けたが、北橋前市長時代に強力な選挙運動を展開した基幹労連の支援はうけていないという話はたいへん興味深かった。

 都市部で工業地域という特性があり、北九州市と筑豊地域の交流点という複雑な地域事情のなか、組織の支援がないなかで浸透するのは容易ではない。

 実際、緒方氏は過去に落選も経験している。21年・24年と状況は違うが小選挙区で連勝できたのは、その敗北経験があるからだ。インタビュー中、緒方氏は、言葉を選びつつ、具体例を示しながら、説得力のある話を展開した。そこからは経験から得た、みなぎる自信のようなものを感じた。

 次回から、衆院選を受けての緒方氏の思いや、外交官時代の経験を踏まえての日本が進むべき道などの話を紹介していきたい。

【近藤将勝】

政治・行政記者募集

 企業調査会社(株)データ・マックスが手がける経営情報誌『I・B』やニュースサイト「NetIB-News」は、信頼性の高い情報ソースとして多くの経営者にご活用いただいています。メディアとしてさまざまな情報を取り扱っており、国内外や地元福岡の政治動向に関する情報は経営者以外にも自治体組長や国会議員、地方議員などに幅広く読まれています。

 そこで、さらなる記事の質の向上を目的に、福岡の政治・行政、また中央政界の動向などをテーマにオリジナル記事を執筆いただける政治・行政記者を募集しております。

 記事の内容は、インタビュー、政局や選挙などを中心に扱います。詳しくは掲載実績をご参照ください。

 企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。現在、業界に身を置いている方や行政取材に興味がある方なども大歓迎です。

 ご応募いただける場合は、こちら(hensyu@data-max.co.jp)まで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点などがございましたらお気軽にお問い合わせください(返信にお時間いただく可能性がございます)。

関連キーワード

関連記事