トランプ次期大統領との運命共同体を模索する孫正義氏の命運(前)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸去る16日、ドナルド・トランプ次期大統領とソフトバンクグループの孫正義会長兼最高経営責任者(CEO)はフロリダのトランプ氏の私邸において共同の記者会見に臨み、同社が今後4年間で米国企業に1,000億ドル(約15兆円)を投資すると発表しました。トランプ氏曰く「ありがとう!現金の注入は最高のプレゼント」。
日本ではトランプ氏夫妻が安倍昭恵夫人を私邸に招いたことが大きく報道されていましたが、昭恵夫人を迎えたとほぼ同じ頃、孫氏は何と7時間にわたってトランプ氏と面談していたのです。恐らく、安倍夫人は表向きで、同じビジネスマインドを持つ孫氏との打ち合わせが最重要だったと思われます。
孫氏の説明では、「人工知能などの分野で10万人の雇用が創出されるだろう」とのこと。孫氏は、「投資を決定したのは11月の大統領選挙でのトランプ氏の勝利が直接の要因だ」とトランプ氏を大いに持ち上げました。
当然でしょうが、孫氏は「トランプ大統領の大勝利を心から祝いたい」と語り、「彼の勝利により、米国経済に対する私の信頼レベルは大幅に高まりました。そのため、この1,000億ドルと10万人の新規雇用を米国に投入することを決定しました」と興奮気味に訴えたものです。幸い、ソフトバンク株は記者会見の翌日の取引で4.4%上昇しました。
その記者会見を受け、トランプ次期大統領の側近のジェイク・シュナイダー氏は、このトランプ・孫会談は「トランプ効果」と呼ぶ現象によるものであるとする電子メールをメディア各社に送りました。
曰く「トランプ大統領は、米国を再び世界の製造業大国に戻すという公約をすでにはたしつつあります。まだ就任していないにもかかわらずです」。
「それはすべて、米国人労働者を使って米国で製品を製造する企業を奨励する、彼のメイド・イン・アメリカの政策に他なりません」とも付け加えています。
同氏はさらに、「トランプ大統領は1月に、米国に完全な繁栄を取り戻し、AIや先端技術を軸に、明日の産業が米国において確実に創造、構築、成長するための大胆な改革に直ちに着手するでしょう」とも言及。
いずれにせよ、トランプ大統領の心をがっちりとつかんだ感のある孫氏です。1981年に24歳でソフトバンクを設立して以来、世界で最も名高い、そして物議を醸すテクノロジー投資家の1人に他なりません。
同社は複数の投資ファンドを保有しており、電気通信、ロボット工学、インターネットサービス、電子商取引、人工知能などを含む複数の分野にわたって数百社の企業の重要な株主になっています。
過去数十年にわたるキャリアを通じて、孫氏は悲惨な失敗もありましたが、華々しい勝利も手にしてきました。2000年初頭の一時期、彼はインターネットの新興企業を買収し、推定780億ドル相当の財産を築き上げ、世界最大の資産家の座に就いたものです。
しかし、わずか数カ月後にドットコムバブルが崩壊し、彼の資産の90%以上が消え去ってしまいました。一瞬でしたが世界1の大富豪だったわけです。
とはいえ、負けず嫌いの孫氏は事業の再建に着手し、後にアリババとして一世を風靡することになる中国のあまり知られていない電子商取引新興企業の34%の所有権を取得しました。この2,000万ドルの投資が彼の運命のカギとなったのです。14年、アリババはソフトバンク株の価値を580億ドル(初期投資額の約2,900倍)という価格に押し上げるかたちで上場をはたしたからです。
その過程で、孫氏は移動通信会社Tモバイルとスプリントの合併に成功し、20年に米国最大のサービスプロバイダーの1つを誕生させました。ところが、そのわずか2年後、ソフトバンクはオフィス・シェアリングの新興企業ウィーワークの破綻で悲惨な損失を被ったのです。
ほかにも多額の投資を行ったのですが、社内ベンチャーやヘッジファンドによるほかの投資案件もことごとく失敗してしまいました。まさに「ジェットコースター」のような成功と失敗の連続です。
当時、孫氏は「公の場から引退する」と発表しました。しかし、16年にソフトバンクが評価額308億ドルで買収した英国のコンピューターチップ設計会社ARMホールディングスが評価額545億ドルでアメリカにおいて上場したのです。その結果、23年までに、同氏は表舞台にカムバックをはたしました。
フィナンシャル・タイムズの元編集長ライオネル・バーバー氏は、孫氏がトランプ大統領の私邸マール・ア・ラーゴに現れたことは、「米国の次期大統領の追い風を背に、これまでの国際投資家以上の成果を得ようとするシグナルだ」と語っています。
バーバー氏は、欧米人作家による初の孫氏の伝記となる『ギャンブリング・マン:孫正義のワイルド・ライド』の著者です。これは間もなく米国で出版されます。同氏は、「孫氏が16年に500億ドルの対米投資の約束をした時以来、彼とトランプ氏は明らかに利害が一致していた」と分析。「トランプ氏は、自身の独自の発想から米国企業の復活に向けての大きなシグナルを発したいと考えており、孫正義氏とソフトバンクは、スプリントとTモバイルの合併という彼の大きなプロジェクトへの祝福を得るために、新しい共和党政権に食い込もうとしたに違いない」というのがバーバー氏の見方です。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連記事
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