石破首相のマレーシア、インドネシア訪問と今後の日米関係(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸石破氏は岩屋外務大臣、中谷防衛大臣以外にも、長島昭久首相補佐官や槌道明宏元防衛審議官ら、親しい仲間から日本を取り巻く脅威の認識、抑止力の構築、地域安全保障策に関する全般的なアドバイスを得ながら、独自色を薄めるようになっています。対米関係の再構築に関しては小野寺五典党政調会長に水面下での調整を託した模様です。
実は、石破氏は強硬な反ロシア派です。総裁選の選挙中も、はたまたハドソン研究所に投稿した論文でも、ロシアと北朝鮮、中国の連携に警鐘を鳴らしていました。ロシアから入国禁止処分を受けている石破氏は、ロシア機による日本の領空侵犯には自衛隊機による反撃を容認するような強硬な意見を繰り返しています。
ロシアによる日本の北方領土の不法占拠には前々から厳しい批判を重ねているとおりです。日本海から東シナ海にかけてもロシア海軍の動きが活発化しているため、石破氏は注意を喚起しています。このところ、トランプ氏はグリーンランドの買収やパナマ運河の接収をはじめ、カナダを51番目の州にするといった発言を繰り返し、関係国から疑問符を投げかけられているようです。
その背景にはロシアが中国とも連携し、アラスカ州を買い取り、北極圏航路を傘下に収めようとしていると疑心暗鬼になっていることが考えられます。とはいえ、ビジネスマンのトランプ氏はプーチン氏と水面下で交渉し、日本が領有権を主張する北方領土において米露が共同で資源開発とリゾート化を進める動きも見せる強かぶりです。
一方、北朝鮮に関しては、先の総裁選挙でも石破氏は「東京と平壌に連絡事務所を設置する」と主張。しかし、拉致被害者の家族会からは懸念と反対の声が噴出。首相官邸に拉致被害者の家族会のメンバーを招き、懇談をした際にも、同じように連絡事務所を開設し、情報収集に取り組みたいと説明。家族会からは「北朝鮮に時間を与えるだけで、問題解決につながらない。必要なことは石破首相が金正恩総書記と直談判すること」とたしなめられる有り様でした。
というのも、北朝鮮は日本人拉致被害者の情報はすでにすべて把握し、今でも厳しい監視下に置いているわけで、今さら調査が必要というのは「時間稼ぎ」の言い訳に過ぎないからです。石破氏が外務大臣に任命した岩屋氏は日朝国交正常化を掲げる日朝議連の副幹事長を務めた経緯もあり、「東京と平壌に連絡事務所をつくるべき」と石破氏とともに主張してきましたが、これまで何ら進展はありません。
安全保障のプロを自認する石破氏は中国の宇宙を含む軍事的なテクノロジーに関する分析の必要性をことあるごとに主張しています。日本は弾道ミサイル防衛システムの整備に向け、20年前から取り組んできていますが、石破氏はその中心的推進役でした。とくに、石破氏はアメリカとの関係強化の一環として、次世代迎撃ミサイルの共同研究・開発を後押ししてきたことを自負。
アメリカの本土防衛にもミサイル防衛が欠かせないわけで、イージスシステムやPAC3システムの能力向上やグレードアップに日本が協力してきたことは高く評価されるべきとの認識を石破氏はもっているはずです。とはいえクラウド企業はアメリカが圧倒的な力を保持しているため、日本が独自の防衛体制を強化する場合には、遅かれ早かれアメリカ依存から自立路線への転換が必要になります。
と同時に、世界的にもサイバーセキュリティへの関心が高まっていますが、ハッカー集団から民間企業を守るニーズはあるものの、国家を背景としたサイバーテロ攻撃も頻発しており、事態は深刻さを増す一方です。サイバーセキュリティに関しては「ファイブ・アイズ」と呼ばれる英語圏5カ国の機密情報共有の枠組みが知られていますが、石破氏は日本が加盟し「シックス・アイズ」を密かに目論んでいると見られます。
実際、長引くばかりのウクライナ戦争においてもサイバー空間での激しい戦闘が続いており、台湾有事の可能性も間近に迫る日本としてはサイバーセキュリティに関しては最大限の備えが欠かせません。軍事に詳しいと自負する石破氏ですが、独自の安全保障政策を打ち出せるのか微妙な情勢です。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連記事
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