運転士不足によるダイヤ減便（前）

運輸評論家 堀内重人

肥薩おれんじ鉄道のダイヤ削減

    肥薩おれんじ鉄道は、九州新幹線の新八代～鹿児島中央間が開業したことにともない、並行する在来線を運行するため設立した熊本県と鹿児島県に跨る第三セクター鉄道である。開業当初から厳しい経営環境が予想されたため、美しい有明海を見ながら食事を楽しめる「おれんじ食堂」を導入するなど、積極的な活性化策が打ち出されてきた。

　ところが運転士不足が顕在化し、現在のダイヤの維持が困難なため、2月1日から当面の間、運行ダイヤの一部を減便すると発表した。

　同社は2004年3月に開業しているが、運転士不足が原因でダイヤを減便するのは、初めてである。

　減便を実施するのは、熊本県内の区間では、鹿児島県出水（いずみ）市にある出水駅を午前5時11分に発車し、6時32分に八代駅に到着する上りと、10分後に折り返して発車する下りの各1本である。肥薩おれんじ鉄道は、これらの列車は、早朝に運転されるため利用者が少ないため利用者への影響は最小限であるとしている。一方の鹿児島県内の区間は、上り1本と下り2本を減便。肥薩おれんじ鉄道では、熊本県内も含め、代行バスは運行しないという。

　肥薩おれんじ鉄道が現在の運行体制を維持するには、運転士が35名は必要である。肥薩おれんじ鉄道は、コロナ禍であっても減便せずに運行を継続してきた。だが、退職希望者が相次ぎ、2月以降は4名が不足することになった。これまでは運転士の休日出勤などで対応してきたが、今後、運転士の退職が見込まれることや、運転士の健康管理などの安全面も考えると、現状のダイヤでの運行が困難になると判断した。

　肥薩おれんじ鉄道の営業戦略室は、採用活動などを積極的に行い、できるだけ早く通常ダイヤに戻したいとしている。

熊本電鉄のダイヤ削減

　熊本電気鉄道（熊本電鉄）も、運転士の退職による運転士不足を理由に、2月3日から大幅な減便を予定している。

　熊本電鉄の場合は、肥薩おれんじ鉄道の微減とは異なり、2月3日から電車の運行本数を平日で約25％も減便する大幅なダイヤ改正を実施するという。運転士が不足するため、運行間隔を広げるだけでなく、始発を繰り下げ、反対に終電は繰り上げるという。

　熊本電鉄では、慢性的な運転士不足が続いており、2～3年前から7人体制で何とかダイヤを維持してきた。だが2月からは退職などで、運転士が4人に減るため、運行本数が維持できなくなった。

　他社で運転士を経験した人であれば、比較的すぐに対応が可能であるが、まったく未経験の新人を採用した場合は、電車の運転免許を取得させるのに、1年以上かかる。それゆえ当分の間は、通常のダイヤで運行したくても、できないのだという。

　熊本電鉄のダイヤ改正後の運行本数は、平日が38～40本減の121本、土曜は51本減の97本、日・祝日は29本減の91本となる。

　ダイヤの削減にともない、運行間隔も藤崎宮前～御代志駅間では、午前6時半～9時の朝のラッシュ時と、午後4時～午後8時の夕方のラッシュ時の運行本数が、従来の15分間隔から20分間隔に開くようになる。

　昼間と夜間の間隔は、30分間隔から40分間隔に変更されるため、時間帯によれば1本しかない時間帯が生じる。上熊本～北熊本間では、終日30分間隔から40分間隔に改められ、運行本数が全体で減少する。

　平日の始発時刻は、御代志駅発などで10分、上熊本駅発などで30分遅くなる。平日の終電時刻は、藤崎宮前駅では25～55分早まり、午後10時35分となるなど、不便なダイヤとなってしまう。

　また現在のダイヤでは、コロナ禍が落ち着いたことから、利用者が増えてダイヤに遅延が発生するようになり、ダイヤにゆとりをもたせ、列車の安全運行を向上させるという。

（つづく）