運転士不足によるダイヤ減便(後)
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運輸評論家 堀内重人
昨今、路線バスでは、運転手が足りずにダイヤを間引くようになってきている。こうした動きは路線バスだけでなく、鉄道にも広がりつつある。
熊本県と鹿児島県に跨って走る第三セクター鉄道の肥薩おれんじ鉄道は、2月1日から当面の間、運行ダイヤの一部を減便すると発表した。ダイヤの減便は、熊本電鉄でも運転士不足により2月3日からダイヤの減便を実施するという。
運輸業は、製造業のように労働力が不足する場合でも、日本語で接客する必要がある。そのため労働力不足だからといって外国人人材を登用しづらい業種といえる。
本稿では、労働力不足の時代に、運転士をはじめとした乗務員を確保し、定着させる方法について言及したい。上下分離経営の採用による給料の底上げ
電車の運転士やバスの運転手に対する、労働上の規制が強化され、長時間の連続勤務が規制されたことは、過労死を防ぐ意味でも、非常に重要である。
それに加え、電車の運転士やバスの運転手の採用を促し、採用後に職場に定着させるためには、何と言っても給料を上げることが必要不可欠である。
現在、地方民鉄や過疎地の路線を多く抱えるバス事業者は、各自治体などが欠損補助を行うことで、路線を維持しているのが実情であり、電車の運転士やバスの運転手の給料を上げるだけのゆとりがない。
安い給料で、かつ長時間労働では、誰もその職業に従事したいとは思わない。電車の運転士やバスの運転手の給料を上げるには、鉄道・路線バスを問わず、上下分離経営を実施するのが良い。
上下分離経営を実施した鉄道会社は、インフラの維持管理から解放されるため、経営状況が改善し、それをサービスの改善に回すことが可能になった。
サービスが改善されれば、利用者の減少に歯止めがかかることになる。利用者を増加に転じさせるには、駅舎だけでなく、車両も沿線自治体が保有させ、鉄道事業者は運行に専念させる必要がある。
車両は、大事な商売道具であり、老朽化した車両を使用していては、利用者が離れていく。車両も沿線自治体などが保有することで、固定資産税の支払いが免除されるだけでなく、定期的に老朽化した車両を、新車に置き換えることで、サービスを向上させるようにしたい。新車を導入するのに合わせ、交通系電子マネーによる決済も可能とすることで、運転士の負担も軽減される。
バス事業に関しては、バス停やバス車両も「公」が所有するかたちで、上下分離経営を実施したい。地方のバス事業者は、自社のバス停ですら、満足に維持する力がなく、バス停に上屋やベンチがないだけでなく、バス停のポールも激しく損傷していたりする。
当然のことながら、新車を導入するだけの経営体力がないことから、都会で使い古されたバス車両が導入されている。これらのバスは、低床式でないだけでなく、車体が損傷していることもあり、騒音や振動が酷く、サービス上、問題が多い状態で使用されている。
路線バスにも上下分離経営が導入されれば、バス事業者はバス車両を借りて、運行だけを行うことになる。「公」がバス停の維持管理を行い、車両も老朽化すれば、新車に置き換えが可能になる。そのとき、交通系電子マネーによる決済システムを導入すれば、運転手の負担も軽減される。またバス停の停車時間が短縮されるため、路線バスの所要時間短縮にもつながる。
その他、運転士・運転手を定着させるには
交通事業者は、新卒を積極的に採用し、社内で運転士・運転手を育成しなければならない。トラック業界では、経験者を運転手として採用することが多く、新卒の採用は少なかった。
高卒を新卒として採用した場合、入社した時点では大型二種免許をもっていないため会社が費用を負担するかたちで免許取得を支援する企業が増えている。高校の新卒者は、大型二種免許を取得可能な21歳まで営業所や整備所で補助業務に従事し、接客や整備のスキルを身に付けさせるかたちで、運転手としての育成を進めている。
鉄道事業者も、同様に電車・気動車の運転免許を取得するまでは、高卒の新入社員には、営業所や整備工場などで補助業務に従事させている。また、車掌を乗務させている会社は、車掌を経験させ、接客や整備のスキルを向上させたい。
次に女性運転手の採用に関しても強化や、定年延長、再雇用が必要である。運転士・運転手は、「男性の職業」という意識が強く、男性の比率が圧倒的に高い職場でもある。女性を採用するとなれば、女性用の制服を用意するだけでなく、女性用の更衣室も用意する必要がある。
今までは、それらが不十分だったため、採用しづらい環境であったが、今では人手不足の影響から、女性が働きやすい職場環境を整え、設備投資も進める傾向にある。また定年を65歳まで延長し、退職後も継続して勤務ができるように、再雇用制度を導入して、経験豊富な人材を長く確保できる仕組みも必要である。
総括
鉄道の運転士や、路線バスの運転手の採用を促進し、職員を定着させるためには、労働時間の規制強化だけでなく、給料を上げることが不可欠である。
地方民鉄や地方のバス会社には、運転士や運転手の給料を上げるだけのゆとりがないため、上下分離経営の採用を促進し、駅舎・バス停や車両などは、「公」が所有して、交通事業者は運行に専念することで、サービス水準を高め、利用者の減少に歯止めを掛けさせなければならない。
つまり運転士・運転手の待遇を改善させるためには、上下分離経営を採用するなど、公的な関与が不可欠である。欠損補助を増やせば、交通事業者は経営努力を怠る危険性があるため、インフラの維持管理やバス停、車両などに補助を行ってサービスを改善させ、利用者を増やすことで、運転士や運転手の賃上げにつながる。
その他、新卒の積極的な採用や、女性や定年退職者の再雇用の促進などを行い、乗務員が不足しないよう絶えず募集を行う必要があるといえる。
(了)
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