2025年の年男（2）関潤・鴻海EV事業CSO～古巣の日産株・取得を狙う魂胆（後）

日本電産のオーナー、永守からヘッドハンティング

　2018年、日産会長だったカルロス・ゴーンがクーデターで失脚。経営は大混乱に陥り、跡を継いだ西川廣人も辞任に追い込まれた。2019年10月、新体制が発足。内田誠・最高経営責任者（CEO）、仏ルノーのアシュワニタプタ・最高執行責任者（COO）、関潤・副執行責任者（COO）のトロイカ体制が敷かれた。

　下馬評では、内田は日商岩井（現・双日）出身の外様で、日産生え抜きの関がCEOの最有力候補だった。ルノー側が、アクの強い関を敬遠したと言われた。関としては、ゴーン体制で格下だった内田がトップに就いたから面白くない。

　その不満を見透かしたように、日本電産（現・ニデック）の創業者でCEOの永守重信が声をかけた。「3番目はつまらないぞ。社長にしてやるから、うちに来い」。関は日産副COOを1カ月で辞任した。

日本電産CEOを1年足らずで解任

　関潤は2020年、日本電産に転じ、21年6月の株主総会で永守から最高経営責任者（CEO）を引き継いだ。だが、永守と関のハネムーンはあっけなく終わった。翌22年4月、会長の永守がCEOに復帰した。関潤社長は1年足らずでCEOを外れ、最高執行責任者（COO）に”降格”となった。

　「世界の状況は逆風にあり、速い決断と対処が必要な段階にきている。創業者ですべてを知り尽くしている私が短期的に指揮を振って、業績を改善する」。永守はオンライン決算説明会でCEO交代の理由をこう述べた。

　復帰を決断する一因となったのが、1年半ぶりの安値圏まで下落した株価。東京株式市場で日本電産の21日終値は8,970円。関にCEOを交代した21年6月時点では1万2,000円台で、この間の株価の下落率は市場平均を上回る。

　「今の株価は耐えられない水準。1万円くらいで残って入れば私の出る幕はなかったが、ここまで下がるとなかなか厳しい」と、永守は不満を口にした。

永守は外部から招いた後継者を立て続けに首にした

　永守は外部から招いた人材を後継者にした後、立て続けに首にしていた。13年にはカルソニックカンセン（現・マレリ）社長などを経験した呉文精を副社長、14年にはシャープ元社長の片山幹雄を最高技術責任者にしたほか、18年には日産自動車出身の吉本浩之を社長に就任させた。

　吉本の社長就任を機に導入した、役員間で議論しながら経営を進める集団指導体制について「創業以来最大の間違い」として、移行から約2年でワントップ体制に移行した。永守は関について「経営手法も（自分と）似ており、決断力や人格などもCEOの後継者としてふさわしい」と強調した。

　関は、永守の後継者になれるか。投資家や業界関係者からこの点に注目が集まった。だが、ほとんどが否定的だった。「終身トップが創業者の業」とみなされたからだ。やっぱりというべきか。関をあっさり首にして、永守はCEOに返り咲いた。関は退任会見で「正直悔しいが、向かい風を跳ね返す力がなかったのは事実。特徴ある日本電産に外部から入る難しさを感じた」と述べた。

関潤がEVに向けて動き出した

    2023年2月1日、関潤は台湾の鴻海精密工業グループ電気自動車（EV）事業の最高戦略責任者（CSO）に就いた。鴻海EVのトップとして、関は日本にデビューした。子会社の液晶パネルメーカー・シャープが2024年9月に開催した技術展示イベントでEV戦略を発表し、コンセプトモデルを初めて公開した。

　各社の報道によると、モデルには、これまで培った液晶パネルの技術を生かして､映画などを映し出す液晶ディスプレーが備えられている。今後はAIを搭載した照明や空調なども配置し、自宅にいるような車内空間の実現を目指す。鴻海EVのプラットフォームを活用して、数年後をめどに販売を目指す、としている。

　鴻海はEV事業への本格参入を目指して、自動車メーカーの買収に乗り出す。関がターゲットにしているのが、勝手知ったる古巣の日産だ。日産とホンダの経営統合は早晩ご破算になると判断し、日産の買収に動く。関潤は、日本における自動車再編のキーマンになる。

（了）

【森村和男】