健康長寿ビジネスの最前線:2025年、寿命はどこまで延びるのか?(中)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸そこで、最近の注目株は「NAD(ミトコンドリアでのエネルギー補完因子、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」です。これはサーチュインの活性化にも効果抜群といわれており、アメリカで研究を続ける今井眞一郎博士が血液中のNADに老化防止効果を発見したのがきっかけといわれています。
また、NADが減少することをNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が予防するとの研究も明らかになってきました。心臓血管の強化はもちろん、NMNにはさまざまな延命上の有効性が今井博士によって立証されています。とくに記憶を司る脳の機能が低下するのを押さえる効果がNMNにはあるとされるため、アルツハイマー病の予防にもなるとのこと。筋肉内の血管の強化も期待されるということで、NMNは健康長寿の切り札として注目が集まっているわけです。
いずれにしても、「生き残り(動物との戦い)や長生き(体に良い食物の確保)」は人類の歴史そのものです。これからも、続々と健康長寿を謳ったビジネスは登場してくるはず。要は、自己責任で何を選ぶか、そうした選択眼が問われる時代に突入していることは間違いありません。
ところで、我々人間が生きるためには血が欠かせません。今、ウクライナ危機が世界の注目を集めていますが、同国のゼレンスキー大統領がまず国民に呼びかけたのも「献血」でした。一方、軍事侵攻を展開するロシア軍も前線における輸血部隊を強化しています。平時においても戦時下においても、「血」が重要な役割を担っているのです。
日本における血液事業の今後を展望する際、大きな要となるのは日本赤十字社です。なぜなら、日本国内における血液確保を一手に任されているのですから。もちろん、厚労省や国内血漿分画製剤メーカーの役割も大きいわけですが、原料となる血液を国内で献血によって確保し、医薬品として必要量を医療機関や患者に安全なかたちで提供するという使命は日本赤十字社の専売事業となっています。
日本では法律によって売血が禁止されています。国内で必要とされる血液は生血であろうと、血漿分画製剤であろうと、基本的には国内で賄うことが「血液の安全保障」という観点に立つのが日本政府です。とはいえ、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、献血協力者の確保が難しい状況になり、とくに若年層の献血離れ現象も起こりつつあります。そのため、日本赤十字社は政府とも連携し、さまざまな工夫を余儀なくされています。
課題としては輸血用の血液製剤を使用する人の85%が50歳以上であるのですが、献血する人の70%は50歳未満という点にあります。若年層の献血数は減少傾向をたどっており、将来の安定供給に支障が生じる恐れが指摘されているのです。
そうした点も踏まえ、日本赤十字社では日本の血液事業が直面する課題を検証し、将来ビジョンを策定しています。第一は長期的な視点からの「人工血液の開発」です。現時点では人工的な血液製造は不可能とされていますが、その可能性に向けての研究は着実に進んでいるようです。
たとえば、iPS細胞を用いた造血研究。とはいえ、遺伝子研究の応用という難しい側面もあり、実用化に向けての努力は一進一退状態といわれています。そこで、リスクの少ない新分野という観点で日本赤十字社が試行錯誤的に取り組んでいるのが「血液データ分析」です。
要は、献血提供者の検査データを分析すれば、本人の気付いていない病状を把握することも可能になるからです。採取した血液からはさまざまな病気の予兆や現状を知ることができます。「血の1滴で13種のガンを発見できる」とまでいわれるほど。血液中に含まれる「マイクロRNA」と呼ばれる分子がガンの増殖や転移に深く関わっていることが判明しているからです。
国立がん研究センターを中心とした研究では、1~2滴の血液を採取し、このマイクロRNAを調べることで、さまざまなガンを高精度に検出できるといいます。患部から直接組織を採取する生検(バイオプシー)並みの高い精度でガンを発見できるため、受診者への負担が軽くなり、その成果への期待が高まる一方です。
また、新型コロナウイルスの中和活性(ウイルスなどの感染拡大を阻害する抗体)と高い相関性を示す血液中のIgG抗体(グロブリンというたんぱく質の一種)価を測定することで、数滴の血液から新型コロナウイルスの抗体を簡単にセルフチェックできる「採血キット」も開発されています。これは富士フイルムの新規事業です。
とはいえ、日本赤十字社として、こうした新たな知見や技術をどう活かすかは、今後の検討課題となっています。なぜなら、採血結果を活用するに当たっては、個人情報の扱いとの関係で、どこまで本人に検査データを開示するかは慎重な対応が求められるからです。
なぜなら、本来、献血に来る人々は健常者であり、病気の発見を期待しているわけではないからです。しかし、実数は限られているものの、血圧のデータなどから本人の認識していない病気の予兆が確認されるケースもあるため、健康管理上は有意義なアプローチといえます。そのため、そうした検査データをどこまで献血者に伝えるかが検討テーマになっているわけです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連記事
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