健康長寿ビジネスの最前線:2025年、寿命はどこまで延びるのか?(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸実は、こうした新技術と比べ、より現実的な新規事業の可能性も検討されています。それは「血液データ収集管理」に他なりません。年間300万人もの採血者から得られる血液データはすべて10年以上にわたって保管されており、情報の宝庫となっているからです。血液そのものは研究機関や研究者にとっては「よだれの出るほど」の貴重なデータといえるもの。
もちろん、これらは個人情報であり、日本赤十字社の判断だけで研究素材として提供できるものではありません。しかし、厚労省との連携の下、日本医療研究開発機構(AMED)など国の研究機関との間で「国民の健康維持のためという目的であれば、政府ベースで研究に協力する可能性はある」といいます。
また、別の新たな事業展開としては、コロナ感染症がきっかけになり、血漿療法が検討の俎上に上ってきました。これはコロナ感染から回復した患者の血漿を新規感染者に注射することで回復が早まったという事例に基づくものです。中国やアメリカでの先行事例が報告されたため、日本でも治験が行われ、日本赤十字社も協力してきました。日本政府からの補助金も提供され、一時は期待が高まったものです。
しかし、武田薬品の子会社が中心となり、生の血漿を投与する治験が実施されましたが、効果が不確実であったため、今では中止されています。1万6,000人を対象に治験が行われたのですが、効果の確認できた場合もあれば、確認できない場合もあり、日本のみならず、WHOも否定的な判断を下してしまいました。そのため、医療現場の判断で、他に治療方法がない場合に限って、「最後の手段として試す」ということで極めて限定的な使用にとどまっているのが現状です。
一方、日本赤十字社では慶応大学医学部と非公式なかたちで遺伝子レベルでの血液とコロナの関係について研究を進めています。成功すれば、新たな輸出産業にも発展する可能性は秘めているようですが、まだそのレベルには達していないのが現状です。
また、東京大学と順天堂大学では老化防止対策の一環として遺伝子研究に着手しています。その観点からも血液のはたす役割の解明が待たれるところであり、海外の研究機関や製薬メーカーとの連携も視野に入ってきました。骨髄移植を進めるうえでも、造血作用を促す研究にも取り組むことになるでしょう。
ところで、アメリカの血液ビジネスは輸血用のドナー向け対応と売血を通じての血漿分画製剤用の血液確保の2つに分類されます。しかし、血友病患者の問題を経験している日本とすれば、アメリカ式のビジネスモデルは採用できません。
日本の場合は輸血による事故などを防ぐため、採取した血液データをきちんと保管し、後々問題が発生した場合にも、速やかに原因究明ができるような体制を構築しているのが強みです。献血者もあくまで「社会貢献」として採血に協力しており、アメリカで見られるような経済的理由で売血するドナーに依存する社会との大きな違いといえるでしょう。
日本赤十字社の認識では、欧米の血液事業企業は巨大で、日本企業とすれば勝負になりません。日赤とすれば、日本国内で責任をもって献血、血液提供事業を推進するのが最大の任務というわけです。そうは言っても、日本では人口減少に歯止めがかからず、献血者数も同様に減少傾向が見られます。
一方、血漿分画製剤の需要は増加傾向にあります。単なる輸血用ではなく、感染症対策や各種の医療ニーズを考慮すれば、海外からの輸入血液や血漿分画製剤の調達にも含みを残しておく必要もあるでしょう。そのため、日赤としても、この可能性は「将来的には避けて通れない課題となるに違いない」と受け止めているようです。
血液の自給自足体制を確保するためにも、日赤では22年度から若い世代への働きかけをこれまで以上に強化しています。現状では何とか輸血用の血液は確保されているのですが、将来的には不足も想定されるからです。全国の学校を対象に年間1,600回を数える献血促進セミナーを開催していますが、安心できる状況ではありません。
企業献血についても年間6万社を超える企業の協力を得ているわけですが、「献血推進2025」計画の下で、引き続き、学校に限らず企業での集団献血を働きかける予定とのこと。複数回献血者は120万人を目標に掲げています。その達成のためにもウェブ上で献血予約のできる「ラブラッド」サービスの登録者数を年間500万人に設定しました。
今後も日本赤十字社のはたす血液事業における役割は大きいものがあることは論を待ちません。人の命に直結する事業であり、戦時平時を問わず、何よりも必要とされるのが血ですから。血の通った社会を維持するうえでも、改めて血液の需要性を見直したいものです。25年が血液元年になることを期待する所以です。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連記事
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