【グローバル・アラート】日米首脳会談の成果を検証する(後)
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─日鉄のUSスチール買収とアラスカLNG開発─
日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎理事長)より、(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「日米首脳会談の成果を検証する―日鉄のUSスチール買収とアラスカLNG開発―」と題する記事を提供していただいたので共有する。
米貿易赤字の削減対策
トランプ大統領がアラスカを重視する背景にはさまざまな理由がある。その1つが貿易赤字の削減である。米国は去年1年間の貿易赤字が1兆2,117億ドル(約185兆円)と過去最高額を記録した。
トランプ氏は、米国の貿易の不均衡の是正、貿易赤字の削減に向けてアラスカに眠る豊富な化石燃料の輸出は重要なツールになると考えている。トランプ氏は、「対日貿易赤字は1,000億ドル超に上るが、アラスカ産を含めて石油・ガスの輸出増加で速やかに解決できる」と胸算用している。貿易統計によると、日本の2024年のLNG輸入実績は6,589万トン(前年比0.4%減)。そのうち米国からは634万トン(同15%増)を輸入し、輸入国別シェアは9.6%だった。
地政学的な優位性
アラスカ州は米国本土から地理的に切り離されている一方、日本などアジア諸国と近く、LNGの輸出拠点として適している。日本や韓国などの同盟国にとっても、アラスカLNGは中東産を控え、ホルムズ海峡やパナマ運河を通る必要がなく、運搬コストや地政学上のリスクを抑えることが可能になる。北極ルートの航海の通年化とともにアラスカの地政学的重要性・利益は計り知れない。
パナマ運河依存の削減に寄与
日本などアジア諸国では中東産LNGへの依存を軽減し、供給源の分散化に加えて、現行のアメリカ湾(メキシコ湾)積みのLNG搬出のルートでは、アジア・太平洋向けはほぼ全量がパナマ運河を通過する。ついでながら、日本のLPG(液化石油ガス)の輸入量も米国産は全体の66%を示し、最大の輸入元となっている。LPGタンカーもアメリカ湾(メキシコ湾)からパナマ運河を通る。
昨年パナマ運河は渇水のため一時輸送計画が混乱するなどチョークポイント(隘路・難所)のリスクが顕在化した。いざというときのアラスカの重みが改めて評価されている。
また、トランプ氏は、パナマ運河の航行管理が中国・香港の運営会社にゆだねられていることを理由に、パナマの領有権を主張した。パナマ政府は妥協に応じたが中国との関係もあり、新たな火種になっている。アラスカ・ルートが実現すれば、米国のエネルギー安全保障の条件に合致する。
ロシア産依存から転換へ、東南アジア向けに
日本はロシア産のLNGを部分的に調達することがG7との協議もあり、エネルギー安全保障の観点から認められた。そこにトランプ氏が登場して現状が変化している。ガス・エネルギー問題に詳しい草野成郎氏(環境都市構想研究所代表)は、次のとおり論じた。
(1)アラスカLNGプロジェクトの目的は、対ロシア制裁レジームの一環としての地政学的な戦略がある。ロシア産を米国(アラスカ)産に転換する機会が到来する。
(2)ブルネイとインドネシア産は既にピークオフした。アジア・太平洋諸国に米国から輸出できればエネルギー供給の選択肢が増える。
(3)米国の地政学的な存在感を高めることにつながる。「アラスカ開発は慎重に」(三井物産会長)
日本貿易会の安永竜夫会長(三井物産会長)は、12日の記者会見で「アラスカ開発はまだ具体的に提示されていない。経済性、開発の持続性について慎重に見極める」必要があると強調した。
(三井物産は、出資したロシア北極海のLNGプロジェクト「アークティク2」がバイデン政権による制裁対象に適用されたため、撤退を余儀なくされた苦い経験がある)。
アラスカ開発の持続性には、米政権の交代リスクも含まれる。トランプ大統領の3期目は禁止されていて次期候補者も未定だ。他方、LNG計画の最終投資決定は10年単位の巨大プロジェクトで、政府の保証が前提になる。
なお、トランプ氏は14日、バイデン前政権が導入した自由貿易協定(FTA)未締結国へのLNG輸出認可停止を解除したと発表した。環境負荷の検証を理由に認可が停止されていた。
(了)
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