4号特例見直しで「玉石混交」改める契機となるか
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4月1日に施行される建築物省エネ法と、それにともなう建築基準法の改正(4号特例の見直し)は、「2025年問題」として新築・リフォーム(リノベーション)を問わず住宅業界に強く変革を迫るものになると言われている。そこで、ここでは4号特例の見直しについて、とくにリフォーム・リノベーションの分野を中心に改めて確認する。
建築物の分類が変更
現行の建築基準法においては、大きさや構造などにより建築物は1号から4号に分類されている。4号建築物は、都市計画区域内に建てられる「2階建以下」「延べ面積500m2以下」「高さ13m・軒高9m以下」のすべてを満たす木造建築物と、「延べ面積200m2以下」の非木造建築物を指す。このため、2階建以下の一般的な規模の木造住宅は、4号建築物にあたる。「4号特例」とは、4号建築物に対する審査のうち、構造関係の規定や防火避難規定などの審査が省略される制度で、旺盛な住宅ニーズを満たしやすくするため、行政の審査や建築の効率化を図る目的で1989年に創設された制度だ。簡潔にいえば、建築士が構造強度などについて、設計を通じて一定の責任を負うことで成り立ってきた。
4月の建築基準法の改正においては、建築物の分類が変更される。具体的には4号建築物は廃止され、建築物の分類は1号~3号となる。その結果、4号建築物は「新2号建築物(2階建以上または延べ面積200m2超)」と、「新3号建築物(延べ面積200m2以下の平屋)」に分類されることとなる。後者のみ引き続き審査省略制度の対象となる。つまり、2階建以上の一般的な広さの住宅は新2号建築物に分類されることなどから、これを「4号特例の見直し」と呼んでいるわけだ。【図①】
見直しを行う理由は、建築物省エネ法の改正により25年4月から原則すべての新築住宅で省エネ基準適合が義務づけられるためである。具体的には、省エネ性能を高めるには断熱材の追加や太陽光発電の設置が必要となり、建物の重量が大きくなる。それに対応するためには、強度を高める必要がある。頻発する地震災害が懸念されるなか、省エネのための太陽光発電の設置などが建物の強度を下げることになっては、本末転倒だ。構造計算の提出を義務づけることで、建築物の品質を確実に担保しようとしているわけである。
確認申請が必要
新2号建築物は、自治体または指定確認検査機関へ建築確認申請を行う際に、建築確認申請書や図書、さらに構造関係規定などの図書と省エネ関連の図書の提出が必要になる。提出が求められるのは以下の通りだ。
・仕様表(計画概要・付近見取図・内部/外部仕上表)
・求積図、地盤算定表、配置図
・平面図
・立面図・断面図
・構造詳細図
・床面積・見付面積計算表
・壁量判定 兼 耐力壁図
・四分割法判定
・柱頭柱脚金物算定(N値計算法)
・給排水衛生・電気設備図
・計算書(採光、換気、省エネ)
・設計内容説明書(省エネ)
・機器表(省エネ)書類を準備して申請しなければならないという手間が増えるわけで、これまで「審査省略=計算しなくていい」と理解していた建築士や事業者にとっては、業務負担が大幅に増す可能性がある。
比較的軽微な修繕が対象となる可能性も
さて、この4号特例の見直しは、新築住宅はもちろんだが、リフォーム・リノベーションにおいてもとくに影響が大きくなる可能性がある。4号建築物は、スケルトンリフォーム=躯体を大幅に変更するものであっても建築確認申請が不要だったが、今後はそれが必要となるからだ。国土交通省は、木造2階建住宅の「大規模な修繕・模様替え」に対して建築確認申請が必要になるとしており、修繕と模様替えについて、建築基準法ではそれぞれ次のように定義している。
○「大規模な修繕」
建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。修繕とは、経年劣化した建築物の部分を、既存のものと概ね同じ位置に概ね同じ材料、形状、寸法のものを用いて原状回復を図ることをいう。○「大規模な模様替え」
建築物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根、階段)の一種以上について行う過半の模様替えをいう。模様替えとは、建築物の構造・規模・機能の同一性を損なわない範囲で改造することであり、一般的に改修工事などで原状回復を目的とせずに性能の向上を図ることをいう。キッチンやバス、トイレなど設備の交換と位置の変更などは修繕にあたるが、フローリングを無垢材やフロアタイルに張り替えるのは模様替えにあたるとされている。これまでは、それぞれについては、建築確認申請は必要とされなかった。つまり、外観の大幅なリニューアルや、間取りの変更といった、いわゆるフルリノベーションはもちろん、比較的軽微なリフォーム工事でも4号特例の見直しに抵触する可能性があるわけだ。これらにより、事業者の業務負担が増えるほか、リフォーム・リノベーション価格の上昇、着工遅れや工期延長が発生する懸念もある。また、再建築不可物件(※)では確認申請が通らず、法改正後のフルリノベーションは難しくなる点も留意しなければならない。【図②③】
● ● ●
リフォーム・リノベーション市場はこれまで、建築士が不在でも事業が可能で、新築と比べ参入障壁が低かった。つまり、質の良い事業者と詐欺まがいの事業者が混在する玉石混交の市場だったわけだ。今回の4号特例の見直しは、そうした市場の状況や産業の在り方を大きく変えるものになるという点が、最も大きなポイントといえそうだ。
タタミをフローリングに張り替える場合は、
確認申請が必要なケースも※既存の建物を解体して更地にした後、新しく建物を建られない土地のこと。とくに、住宅が密集しているエリアや道路が狭い地域に多く見られる ^
【田中直輝】
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