【未来トレンドシリーズ】日米関係とデジタル化政策の方向性

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

石破首相の「地方創生」地方のデジタル化政策

 石破首相は日米関係の新たな章立てを描くには、今年1月に誕生するトランプ新大統領との信頼関係の構築が欠かせないと周囲に述べています。日米地位協定の見直しや在日米軍基地の問題についても、トランプ大統領との直談判を通じて打開、改善の道を探りたいと考えている模様です。

 「政治とカネ」の問題で支持率低迷にあえぐ自民党を率いる石破氏は「地方創生」を目玉政策に掲げています。総裁選挙の時から「ブロックチェーンやNFT(非代替性トークン)の活用を通じて、食や観光体験など地域のもつ多様なアナログの価値を世界からも称賛されるようなレベルに高め、その価値の最大化を図る」と主張していました。日本のIP(知的財産)にNFTを紐付けるという発想も秘めているようです。

 と同時に、「ネット環境の整備とデジタル化によって、都市部との情報格差ゼロの地方を創出し、遠隔教育や医療、ビジネスなどの分野における地方の人材確保を進めたい」とも語っていたものです。要は、国際的にも注目を集めているデジタル技術を基盤産業に位置づけ、「東京一極集中を是正し、地方のもつ潜在力を最大化させる」、そして、「地方への企業進出やスタートアップ企業を後押しするインセンティブを整える」という試みに他なりません。

 GDPの規模でも1人あたりのGDPでも、2000年には世界第2位だったものが、今や上位20位にも入れないほど凋落を続ける日本です。生産性の評価においても、OECD加盟38カ国中、日本は30位と振るいません。その最大の原因は、日本におけるデジタル化の遅れでした。

 つまり、世界で飛躍的に進むデジタル化の流れに乗り遅れてしまったのが日本なのです。

 そのため経済的な疲弊が深刻化する地方にとっては、石破政権の唱える「デジタル化を通じた地方創生」は期待がもてる分野となる可能性を秘めています。岸田前政権では「新たな資本主義」政策を看板に掲げていましたが、結局、何ら成果を挙げることなくお払い箱になってしまいました。その轍を踏まないようにしてもらいたいものです。

 安全保障のプロを自認する石破氏は中国の宇宙を含む軍事的なテクノロジーに関する分析の必要性をことあるごとに主張しています。日本は弾道ミサイル防衛システムの整備に向け、20年前から取り組んできていますが、石破氏はその中心的推進役でした。とくに、石破氏はアメリカとの関係強化の一環として、次世代迎撃ミサイルの共同研究・開発を後押ししてきたことを自負。その観点から、石破政権では対米関係の深化を追求すると同時に、独自のデジタル安全保障政策を検討する時期にきているともいえます。

 とくに、選挙公約にも掲げていたように、地方創生のためにも、東京一極集中から脱却し、世界一高齢化が加速する日本の地方から医療・社会福祉の分野でテクノロジーを駆使したシニア社会モデルを構築したいとも訴えています。

デジタル大臣・平将明氏 石破政権の政策キーマン

 このように、地方創生の一環としてAIやデジタル・トランスフォーメーションに言及することの多い石破氏ですが、ブロックチェーンやNFT技術については素人同然であり、分散型IDやデジタル・ガバメントなどの具体的な政策に落とし込むには、地方創生担当副大臣を務めた経験を買われデジタル大臣に任命された平将明氏に委ねることになっています。

 実際、Web3技術を活用した「地方創生2.0」政策は仮想通貨やブロックチェーンなどに詳しい平議員が石破氏に吹き込んだ政策そのものですから。日本はアニメやゲームの分野では世界をリードしてきました。今後はゲーム業界でも本格的なWeb3やブロックチェーン技術が活用される状況が生まれるはずです。平氏はWeb3.0をデジタル経済圏のフロンティアと位置付けています。

 具体的には、ステーブルコインが出てくるようになれば、メタバース空間に新たな経済圏が生まれる可能性も高まるはず。そうなれば、アニメやゲーム産業で培ったノウハウがブロックチェーン技術と合体されることになり、分散型IDやデジタル政府・行政にも応用できる道が開かれることになります。

 金融庁が暗号資産の規制を根本的に見直す方針を打ち出していますが、これも平大臣の発想が生かされたもの。暗号資産税制は総合課税扱いされているため、投資家には負担が大きく、改革を求める声が出ていたことが背景にあります。アメリカではトランプ大統領が「ビットコインでアメリカを偉大にする」との新たなキャンペーンを展開し、暗号通貨への移行を熱心に訴えています。であれば、今年以降、日米間の新たな金融協力の可能性も出てくるはずです。

 金融政策の観点からいえば、税制改革の分野でもブロックチェーン技術の活用が期待されています。その点、平大臣は石破首相の意を受け、分散型自立組織(DAO)の推進を含め、生産年齢人口の急減に直面する日本にとって切り札となり得るデジタル化を盛り込んだ「地方創生」の実行役を目指しているに違いありません。たとえ石破政権が短命で終わったとしても、日本の政府も社会もデジタル化を抜きにしては再生も生き残りもあり得ない話です。

サイバーセキュリティ 安全保障の根幹

 同時に、世界的にもサイバーセキュリティに関心が高まっていますが、ハッカー集団から民間企業を守るニーズもあるものの、国家を背景としたサイバーテロ攻撃も頻発しており、事態は深刻さを増す一方です。サイバーセキュリティに関しては「ファイブ・アイズ」と呼ばれる英語圏5カ国の機密情報共有の枠組みが知られていますが、石破氏も平氏も日本が加盟することで、「シックス・アイズ」を誕生させようと密かに目論んでいるのではないでしょうか。と同時に、「能動的サイバー防御」の導入への議論も急速に進み始めました。

 実際、長引くばかりのウクライナ戦争においてもサイバー空間での激しい戦闘が続いており、台湾有事の可能性も間近に迫る日本としてはサイバーセキュリティに関しては最大限の備えが欠かせません。デジタル基盤が外部からハッキングされるような事態になれば、地方創生も根底が覆されることになりかねないのです。

 石破氏も「日本に対するサイバー攻撃を、どこの国の誰が仕掛けているかを突き止める能力が我が国には十分ではない。中国のサイバー部隊は日本の何十倍もいる。民間を含めて、社会のネットワークやインフラシステムをしっかりと保全する役割を、自衛隊、警察、総務省、デジタル省のどこが受け持つのかも明確になっていない」と危機感を募らせています。

自治体情報システム標準化計画 海外企業頼みの現実

 実は、我が国の自治体では26年3月までに業務システムを政府クラウドへ移行する大規模なプロジェクトに着手しています。「自治体情報システム標準化」計画と呼ばれ、住民基本台帳、印鑑証明、個人・法人・固定資産税、介護保険などのシステムを一元化し、コストを抑え、公共サービスに関するあらゆる手続きがスマホを使えば60秒で完結できるという触れ込みで、予算は7,000億円。夢のような計画ですが、現実は厳しいと言わざるを得ません。

 なぜなら、多くの自治体では専門スタッフの確保ができず、作業の遅れが見られ、本来の目的であったコスト削減どころか、逆に予算の大幅増加が見込まれているからです。要の役割を期待されている政府クラウドも見通しは立っていません。国内企業によるクラウドサービスも絵に描いた餅状態です。

 結局、アマゾンやマイクロソフト、Google、オラクルなどアメリカの大手クラウドサービス会社に依存せざるを得ないため、地方創生も海外企業頼みという情けない状態に甘んじることになりかねません。政府クラウドとなれば、安全対策やデータ保管などで高いレベルのサービスが要求されます。経済安全保障の観点からも、日本政府とすれば自国企業で対応したいと考えていますが、依然としてそこまでの対応は期待できていません。

 さくらインターネットやインターネットイニシアティブ、ソフトバンクなど日本企業が参入を目指しているようですが、政府クラウドの要件を満たすレベルには達していません。石破氏は「国産クラウド」への期待を温めているようですが、個人情報の安全管理を含め、ハードルが高いままです。

 何しろ、外資系サービスの影響が圧倒的に大きいのが日本の現状です。デジタルサービスの海外への支払いで生じる「デジタル赤字」は10年前と比べ2倍以上に膨らみ5.5兆円に達しています。幸い、「25年末までに機能要件を満たす」という条件付きながら、さくらインターネットは国内企業としては唯一、政府クラウドの提供事業者としてデジタル庁から選定されました。

 とはいえ、期待通りの成果を生み出すことができるのかは見通せません。今後はアメリカのネット企業との競争や連携がどこまで進むのか、注目が集まっているところです。石破首相は日本の安全保障を確実なものにする意味でも、政府クラウドに欠かせない国内人材とスタートアップ企業の育成に本気で取り組んでもらいたいものです。

AIは人材問題の切り札 国際的な利用枠組みが課題

 経済産業省ではクラウドプログラム供給計画を推進し、デジタル化に欠かせないデータセンターへの助成金交付事業を始めました。武藤新大臣が平大臣との連携プレーで、石破政権のデジタル化をどこまで実現できるのか、注目されています。

 実は、日本政府はAIガバナンスを推進するうえで優先度の高い政策を見極めようとし、内外の研究機関や専門家との連携を模索しています。なぜなら、日本が直面する少子高齢化の波や、そこから派生する労働力不足など多くの経済、社会的な課題を克服するために、AI技術を有効活用したデジタル化政策が欠かせないと判断しているからです。

 とくに医療福祉の分野は医師や看護師の不足という緊急事態に陥っており、日本政府は途上国からの人材受け入れも加速させていますが、抜本的な解決には程遠く、将来へ向けての代替策としてのAI活用路線を歩むのが得策と認識されるようになってきました。

 また、民間企業や特定の産業も、こうしたAI化の流れをビジネスチャンスとして受け止め、新たな収益構造に生かそうと必死です。たとえば、NTTはじめ日本の企業や大学はIBMとMetaが創設した「AIアライアンス」に参加し、AI技術の向上、安全性や信頼性を高める協働作業に取り組んでいます。

 日本政府はスピード感をもって、内外からの情報収集と戦略的なパートナーシップの構築にまい進中です。24年3月、韓国が主催する「第3回民主主義サミット」がソウルで開催されました。岸田前首相も「生成AIを含む高度なAIシステムが悪用されれば、民主主義の基盤を傷つけることになる」と、警鐘を鳴らし、信頼性の高いAI実現のために各国の理解と協力を呼び掛けたものです。

 その後の国連総会では、AI利用をめぐる安全性の確保や国家間のデジタル格差の是正などを求める初の決議案が採択されました。この決議案では貧困や気候変動など世界規模の課題解決に向けたAIの活用や、国際人権法を無視したAI技術の運用停止も求めています。国連総会の決議は安保理決議と異なり、法的な拘束力はありません。しかし、加盟国がAIに支配される前に、自分たちでAIを支配する道を選択しようとするものであり、日本政府も全面的に支持しました。

 とはいえ、AIが標的を選択して殺害する「自律型致死兵器システム(LAWS)」に関する国際的なルールづくりや禁止を求める動きは反対や慎重な姿勢の国もあり、国際社会が一致団結するまでには至りませんでした。日本も大局的な観点から政策の検討や実施において国際社会の一員として腐心しているところです。

 一方、このところ技術革新が目覚ましく、AI関連技術を活用することで国際的にも影響力を増しつつあるのが中国です。そうした中国とどのように向き合い、世界的な課題の解決策を模索するうえで、欧米や日本とは一線を画するような独自の国家戦略を進める中国とどのような協力が可能なのか、しっかりと対峙する必要が出てきました。

 グローバル・サウスを味方につけるうえでも、AI技術の活用を重視する中国の今後の動向を看過することはできません。日本の国会では質疑応答にもChatGPTを活用してはどうかとの提案も出ているほどです。政治や経済の在り方を根底から覆す可能性とリスクを秘めた生成AI技術をどう有効活用できるかによって、日本も世界も未来が大きく変わることになることは間違いありません。

浜田和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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