漫画・アニメの夜明けを演出した加藤謙一!(後)
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第2部は「マンガの収集・保存・展示」と題してパネルディスカッションが展開された。コーディネーターは小室広佐子氏(東京国際大学教授・元TVキャスター)、パネラーとして、秋田孝宏氏(漫画研究家、日本マンガ学会理事・資料収集保存部会長)、小山将史氏(丹青社・文化空間事業部デザインディレクター)、蓮沼素子氏(学習院大学アーカイブズ学専攻、アーキビスト)の3名が登壇した。
「誰が何のために集めるのか」という視点が重要
今回のテーマ「漫画の収集・保存・展示」は地味なように見えて、なかなか深いテーマでもある。2009年の麻生内閣の第1次補正予算で、「国立メディア芸術総合センター」構想が挙がったことがある。文化庁所管の国立施設として、日本のメディアアートや商業芸術などに関する収集・保存・修復、展示・公開、調査研究・開発、情報収集・提供、教育普及・人材育成、交流・発信などを目的とした総合センターが予定されていた。
結局、この構想は同年の政権交代で民主党が政権与党となり予算執行が停止され、設立されることはなかった。しかし、この構想が挙がった時、国民の感情は2分され、「アニメの殿堂」「国営漫画喫茶」など批判的通称名も多くのメディアに載った。この問題を考える際に忘れてはならないのは、「誰が何のために集めるのか」という視点である。それは、漫画やアニメなど「メディア芸術」や「コンテンツ」と名付けられものの多くは基本的に消費財として消費されているからである。漫画もアニメも完全に日常生活に溶け込んでおり、多くの国民が、それが消費され、忘却されることが自然と考えている。そのいわゆる「生きた文化」に積極的な意味を見出す識者も多くいる。
その時代に生きた子供の生活や庶民の感情の記録
秋田孝宏氏は日本マンガ学会理事・資料収集保存部会長である。「なぜ、収集・保存が必要か」という命題に対し、4つの回答を用意した。1つ目は、いわゆる「酸性紙問題」である。印刷する時にインクのにじみを防止するため紙の製造段階で薬品を混ぜるのだが、このにじみ防止の薬品で、紙が酸化し劣化することがわかったのがわずか30年前のことである。そのため、それ以前の貴重な資料がどんどん劣化している現実がある。現在では、中性紙が多く使われている。2つ目は、漫画に特徴的な問題で、(1)読み捨てられる文化(2)脆弱な製本(3)切り抜きなどのファンマナーが収集・保存を難しくしている点である。3つ目は原画の問題である。これは膨大な点数を作家個人が長期的に保存していくのは困難なことである。4つ目は災害の問題である。日本列島は地震などの災害がとても多い。1カ所で保存していると、貴重な資料がまったくなくなってしまう危険がある。続いて、秋田氏は保存しなければいけない最も重要な理由として「漫画には、公式記録に残りにくい、その時代に生きた子どもの生活や庶民の感情が記録されている」ことを強調した。しかし、「残したいものを全部残せるわけではない。選択も大事で、残さなければならないものをどう残すかが重要である」と結んだ。それを補完する意味での、デジタルアーカイブにも言及した。
封筒の裏に書かれた手稿原稿なども貴重な資料
蓮沼素子氏はアーキビストである。アーキビストとは、永久保存価値のある情報を査定、収集、整理、保存、管理し、閲覧できるよう整える専門職である。アーキビストの扱う情報は、写真、ビデオ、録音、手紙、書類、電磁的記録など多岐にわたる。欧米では、図書館にはライブラリアン、博物館・美術館にはキュレーターがいるのと同様にアーカイブズ機関(ウォルトデズニー・アーカイブズやチャールズ・シュルツミュージアムなど)には、アーキビストがいるのが一般的である。まさに、「残さなければならないものをどう残すか」を考えているわけである。今手伝っている「横手市増田まんが美術館」(1995年開館の“まんが”をテーマとした本格的美術館。郷土が誇る漫画家・矢口高雄氏‐「釣りキチ三平」の作者‐のフィールドワークを紹介するとともに、マンガ文化の歴史や国内外の著名な漫画家の原画を展示したギャラリーを備え、マンガ単行本、週刊漫画誌も楽しめる)を例に、日本ではまだ馴染みの薄いアーキビストの仕事を披露した。
アーキビストとしては、雑誌、原画、写真も大事であるが、「封筒の裏に何気なく書かれた手稿原稿、ボツになった原稿なども貴重な資料」であると語った。
原画などは展示すれば必ず劣化するので工夫が必要
小山将史氏は、空間デザイナーである。「横手市増田まんが美術館」(横手市)、「石ノ森章太郎ふるさと記念館」(登米市)、「石ノ森萬画館」※(石巻市)、新潟市マンガ・アニメ情報館など多くのマンガ・アニメ関連施設をデザイン、プロデュースしている。石ノ森萬画館(2001年開館)は2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響で破壊、長期休館を経て、2012年11月17日に再開館している。小山氏は、開館、再開館(復興)の両方をデザイン、プロデュースしている。※石ノ森章太郎は1989年に「萬画宣言」を行っている。漫画はあらゆるものを表現できる無限の可能性を秘めたメディアであることから、もはや「漫画」ではなく万物を表現できる「萬画」であるとした。
ちなみに石巻市は「萬画の国」をスローガンにして、石ノ森萬画館の他に、マンガベンチ(石巻マンガロード)やマンガッタライナー(漫画列車)など「萬画による町興し」を推進している。小山氏は「原画などは展示すれば必ず劣化する。そこで、同じ物をずっと展示しないなどの工夫が必要である」と語っている。また、漫画・アニメ館をデザインする場合、「誰を対象とするのか、何をどう伝えるのか、などを明確にすることが重要」とも語った。
(了)
【金木 亮憲】文化庁「メディア芸術データベース」では、どの図書館・ミュージアムにどんな漫画・アニメなどが保存されているのかを調べることができる。現在のところ、国立国会図書館、川崎市市民ミュージアム、大阪府立中央図書館国際児童文学館、京都国際マンガミュージアム、明治大学米沢嘉博記念図書館などが同データベースに参画している。
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