【未来トレンドシリーズ】知られざる中国の世界制覇戦略:宇宙支配と人間のロボット化(前)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸米中の対立は激化するばかりです。いわゆる「関税戦争」を仕掛けるアメリカのトランプ大統領ですが、中国やインド、ブラジル、ロシアなどは、あまりにジコチュー的なアメリカの動きに反発し、脱アメリカ化を加速させつつあります。
そんな中、中国の貴州省を訪問しました。「中国で最も貧しい山岳地域」と目され、日本人をはじめ海外からも中国国内からも観光客や商業目的の訪問者の数は限られています。けれども、省都である貴陽市など、省内各地を訪ねてみると、日本では想像できなかったような最先端の研究開発の拠点が点在しており、実に驚かされた次第です。
とくに目を見張ったのは「天眼」と命名されている、世界最大の「球面電波望遠鏡(FAST)」でした。何しろ、直径500mの巨大な宇宙観測用の望遠鏡です。宇宙からの電波を受信するのみならず、天空を移動する惑星の探査には、これ以上の強力な武器はないからです。
2020年1月から正式に運用が開始されたそうですが、規則正しい周期で光を放つ「パルサー」という天体を240個以上観測したほか、「宇宙の謎」といわれる1000分の1秒ほどの間に起きる電波フラッシュ「高速電波バースト」の観測など、多くの成果を上げてきたとのこと。
そうした成果を基に、「ビッグバン」発生当初の物理プロセス、すなわち「宇宙誕生の謎」に迫るとの意気込みを感じさせられました。また、地球外生命体の探査にも正式に名乗りを上げています。いわゆる「UFO」との交信にも可能性を見いだそうとしているようで、大いに興味をそそられました。
と同時に、アメリカや日本の天体観測機関からも熱いまなざしが寄せられているとの説明でした。というのも、それまで世界一を誇っていたアメリカのアレシボ望遠鏡(直径300m)は20年に主鏡に亀裂が生じ、その直後には望遠鏡が崩壊するという大事故に見舞われてしまったからです。
そのため、中国はこの「天眼」を世界の科学者に開放することを決定し、観測時間を分配する決定を下しました。要は、中国は「宇宙強国」を目指し、国際的な宇宙研究の中心拠点を目指そうとしているわけです。そのためにもアメリカや日本を圧倒する規模で、莫大な資金と人材を投入しているとのこと。
しかも、24年10月には可動式大型電波望遠鏡アンテナを24基追加する拡張工事が始まったところです。宇宙開発をめぐっては、アメリカと中国が競合しているわけですが、この電波望遠鏡の運用実績から見れば、「中国がアメリカに追いつき、追い越しているのではないか」と思わざるを得ませんでした。
さらに興味深いのは、この世界最大の電波望遠鏡を観光資源として活用していることです。巨大な望遠鏡を見下ろす高台の上には宇宙博物館や宇宙ホテルが完成しており、来訪者や宿泊客はFASTの開発過程や宇宙探査の歴史を学ぶことができます。ホテルでは宇宙旅行の疑似体験も可能です。
これまで他の中国の地方と比べ、少数民族が多く、経済的には取り残されたままと見なされていた貴州省ですが、宇宙に目を向けさせることで、新たな観光、文化産業を発展させようとの意気込みが感じられました。「宇宙強国」を掲げる習近平国家主席の後押しもあり、貴州省に向かう観光客もITベンチャー企業も急増しつつあるようです。
しかも、最近話題の月面探査についても、中国がアメリカから主導権を奪い取るのではないかとの観測が専らです。1969年から72年の間に、合計12人のアメリカ人が月面に着陸しました。その後は足踏み状態が続いていますが、アメリカ政府は今後10年以内に月面に返り咲く準備を進めています。
一方、中国も探査機を月面に送り届けており、2030年までに中国人宇宙飛行士が月面着陸に挑むことになっています。要は、米中の月面到達と月資源開発に向けての競争が激化しつつあるわけです。
残念ながら、宇宙服と月着陸船の準備が整っていないこともあり、アメリカの月面開発計画は遅れています。ほんの数年前には、中国がアメリカを追い抜き、月面支配への先鞭を付けるようなシナリオはあり得ないと思われていました。
しかし、今や、アメリカがリードしてきた月探査レースで中国がアメリカに競り勝つ可能性が現実的になってきています。アメリカもメンツをかけて中国に先を越されないように予算確保に励んでいるため、この勝負はますます過熱することになるでしょう。
NASAの月計画は「アルテミス」と呼ばれています。厳しい財政事情に直面するアメリカはコストを分散するために国際的および商業的パートナーを巻き込まざるを得ない状況です。宇宙ビジネスに熱心なイーロン・マスク氏の登場は、トランプ氏にとっては頼りがいのある「助っ人」に他なりません。
そこで、NASAは今後3回のミッションを通じて、アメリカ軍の支援も得ながら月面にアメリカ人宇宙飛行士を戻す計画を構想。22年11月、NASAはオリオン宇宙船に飛行士を乗せないで、月周回軌道に打ち上げることに成功。この成功を足がかりに、25年後半に予定されている「アルテミスII」は4人の宇宙飛行士を乗せますが、彼らは月面には着陸せず、宇宙船内に滞在し、観測を継続するとのこと。
当初、「アルテミスIII」は24年中に打ち上げられる予定でしたが、延期が繰り返され、現時点では、26年9月までに実施されることになっています。しかし、その通りに行くのかどうか、予断を許しません。
他方、中国の宇宙計画は、大きな失敗や遅れもなく、急速に進んでいるようです。 24年4月、中国の宇宙当局は、30年までに宇宙飛行士を月に着陸させる計画が順調に進んでいると発表。
03年に初の宇宙飛行士を打ち上げた国にとって、これは異例のスピードです。中国は21年から宇宙ステーションを運用しており、「嫦娥」月探査プログラムを通じて、挑戦的な試みを続けています。ロボットを活用したミッションでは、月の裏側からサンプルを採取し、地球に持ち帰りました。
また、中国は自国の宇宙飛行士を着陸させるために欠かせない技術的テストを繰り返しています。次のミッションは月の裏側に位置する南極に着陸する予定ですが、この地域は影になったクレーターに氷が存在するため、宇宙基地に欠かせない水が確保できる可能性が高いのです。
水があれば、月面基地で生命維持に使用されたり、ロケット推進剤に変えられたりします。月でロケット推進剤を製造すれば、地球からロケット推進剤を運ぶよりも安価になり、月探査がよりスムーズにいくはず。アメリカの「アルテミスⅢ」が南極着陸を目指しているのも、同じ理由によるものです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。
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