防火に役立つ木と燃えやすい木~山林火災をめぐって

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

千葉茂樹(福島自然環境研究室)

 福島県在住で情報発信をしている千葉茂樹氏から、山林火災をめぐって樹種と燃えやすさの関係について考察する文章が届いたので共有する。

 ある方から次のような質問をいただいた。

 いつも貴重なニュースをお知らせいただき、ありがとうございます。
お送りいただいたニュースを拝見していて感じたことですが、飛び火や着火の難易に樹種による違いはないのでしょうか?

ある種類の木からは、火の粉が飛び出しやすいとか、ある種類の木には、着火しやすいとか、もちろん季節によって異なるでしょうが、何かそれに関連した情報が得られたら、将来、家や集落の近くには、飛び火の予防のため、そのような樹種を植えないようにするとか、が考えられるかと思います。

今回災害に遭って、家に燃え移った山林の樹種に特徴はなかったでしょうか?災害に遭われた方々には申し訳ありませんが、今回の火災現場は、そのような調査に格好のフィールドではないか?とも思えます。

 以下は私の考えで、私は専門家でないので正確かどうかはわかりません。そのことを前提としてお読みください。

防火の樹木

 イチョウの木は、水を大量に含んでいるので、防火に役立つといわれています。
私が鮮烈に記憶しているのは、1976年の酒田大火です。

 中継映像のなかで、焼け野原のなかに1軒だけ焼けないで残っている家がありました。家の脇には、イチョウの大木が映っていました。この火事の時期は、高校3年の受験勉強中だったので、一晩中FMラジオを聞いていました。

 なお、どこかの町では、防火対策で、街路樹にイチョウを植えているところがあると、聞いたことがあります。ただし、実のギンナンはウンチのような臭いがし、落葉も大量に出ます。またアレルギーの原因にもなるので、難点と防火とをてんびんにかける必要があります。さらに、昨年秋には、老朽化したイチョウの木の枝が折れて落ち、通行人が死亡しています。

 余計なことですが、ちょっと前までは、こういった樹木と人間は共存していました。最近、人の住む周辺の樹木に、人間が関心をもたなくなったので、こんな事故が起き始めています。

燃えやすい木

 松やにに火をつければわかりますが、いったん火が付くと液体状になり、至るところに付着し燃えます。昔の焼夷(しょうい)弾のようなものです。

 樹脂を含む小枝などが強風で飛ばされれば、落ちた先で火元になる可能性が高いと思います。こういったことは、実践しないとわかりません。子どものころ、春の彼岸の墓参りで、実践しました。春風があり、線香にマッチだけでは火が付かない。小枝をひろい、そこに松やにを塗り付けて火をつけ、それを使い線香に火をつけました。

 また、木の根元にある枯れ枝・枯れ葉は燃えやすい(一気に燃えて、すぐ灰になる)と思いますが、それ自体の体積が小さいので、飛んでいって火元になる可能性は低いと思います。私の想像では、くすぶりながら燃える「生の松や杉の枝葉」(水を含むので一気に燃えない)のほうが、飛び火の原因になるのではないかと思います。

大船渡の火災地域の樹種

 映像を見ますと、大半が杉林です。こちらにも書きましたが、杉林は手入れが行われずに放置されていたと考えられます(大船渡の映像から)。樹脂を含む杉なので、鎮圧後も、燃え残った樹幹で樹脂がくすぶっていたと考えられます。

余談

 中国戦線で、機関銃の射手だった父が、以下のことを言っていました。
飯ごうでコメを炊こうとしたら、近くに枯れ木がない。父は近くにあった「松の生木」を取ってきて、ご飯を炊こうとした。見ていた「大阪の兵隊」が、「生木に火が付くはずがない」と言って馬鹿にしたそうです。そこで父は馬鹿にした兵隊の前で「松の生木でご飯を炊いた」そうです。父の口癖「大阪の兵隊は、弾が飛んでくればすぐ逃げるし、変な知識に縛られて、役にも立たない」

 上記のことも、よく考えれば「生木でも樹脂が豊富であれば燃える」ことはわかります。物事をよく考えないで、変な常識にとらわれると、大阪の兵隊のようになります。私の経験では、大阪の兵隊のような方が多いです。

追加

 昨晩のメールを書いていて、思い出しました。1963年の火事は、午後2時20分頃の出火でした。記憶がよみがえったのは、

・午後2時40分過ぎに、東北電力の方がきて、電柱に上り、火事方面の電気の供給を切断しました(家の南側に、火事場方向に向かって電柱が並んで立っていた)。

 私は、午後3時からNHK教育の子ども向け人形劇を見る予定でした。その日は、火事騒ぎで人形劇を見ていられる状況ではありませんでした。

・夜は、毎夜午後8時には寝ていました。

 その日は、興奮して午後9時になっても起きていました。

 父から「逃げないといけなくなったら起こすから、早く寝なさい」と言われて、眠りにつきました。


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島⾃然環境研究室代表。1958年⽣まれ。岩⼿県⼀関市出⾝。福島県猪苗代町在住。専⾨は⽕⼭地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。
著者の論⽂などは、京都⼤学名誉教授吉⽥英⽣⽒のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
この他に、「富⼠⼭、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論⽂がある。

関連キーワード

関連記事