続・里山の問題~多発する林野火災と自然災害
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千葉茂樹(福島自然環境研究室)
岡山県や愛媛県で林野火災が続いている(本稿作成時の25日時点)。前回の記事(大船渡の山火事に見る里山の重篤な問題)では、里山の問題を提起した。現在も林野火災が頻発しているが、その陰には大きな問題がある。主な原因は、気候の温暖化と里山の放棄から始まっている。今回は、それら自然災害の問題と対策について考えたい。
政府は根本対策をすべき
大船渡の林野火災に対し、政府は「局地激甚災害」を適用した。政府の対策を見ると、行きあたりばったりの対応で、これらが発生した誘因に対する根本的な対応が見られない。結局の話、気候の大変動が起き、しかも都市の背後にある自然、すなわち里山を放棄した結果、現状の大変な事態となっている。
私の結論は、根源となっている「里山を元に戻せ」ということである。たとえば、川を見ればわかるが、源は山岳部である。ここから山里を通り、都市部に達し、海へと流れ出る。災害も、山岳部で発生すれば、やがては都市部に達する。都市部の方は、「災害は山のことで、自分たちには関係ない」と考えるかもしれない。しかし、最終的には災害は都市部に襲いかかる。
私が言いたいのは「災害発生後に、政府が多大な費用と労力をかけるのであれば、同様の費用と労力を先行して行うべきである」ということである。政府負担は、回りまわって国民負担となる。
林野火災に限れば、里山の対策をしなければ、今後も林野火災が多発するだろう。里山の対策とは、里山に人材を投入し、山肌の清掃をし、防火区域をつくるということである。異常乾燥が頻発する現状では、防火区域をつくり、山から可燃物(枯れ枝・枯れ葉)を取り除くのが最良である。また、スギ山をなくし、山肌の保水力の高い広葉樹林帯にすべきである。要するに、「高度経済成長前の里山の状態に戻せ」ということである。
また、里山には放置されたスギ林がたくさんある。近年、自然保護の観点から、木材の輸入が激減した。それならば、里山に放置されたスギ林を活用すべきである。どんどんスギを伐採し、木材として出荷し、その後に広葉樹を植えるべきである。これで国民病のスギ花粉症も低減できる。
現実に目を向ければ、大船渡の火災現場では「いまだに残り火」が確認されている。人的にも、大船渡の林野火災では、他県から消防関係者が多数派遣された。また、住宅も多数焼失し、さらに生活の基盤である漁業施設にも甚大な被害が出た。林野火災の後始末には、多大な費用と労力・時間を要する。
繰り返すが、同じ費用・労力・時間を掛けるのであれば、先行して行うべきだと私は思う。
地球規模の気候激変
2000年以降、地球温暖化が進行している。もっと言うならば、気候が極端になっている。夏は酷暑、冬は大雪である。ちょっと考えればわかることだが、地球温暖化で海水温が上がり、海水が蒸発し大気中の水蒸気量が増大しているからである。この結果、大雨が降りやすくなり、日本各地で大洪水が多発している。
また、冬型気圧配置や春先のフェーンのように、山の風上側では上昇気流が発生し大雨・大雪になりやすい。
逆に、風下側では下降気流が生じ、カラカラの異常乾燥になる。このように、ある地域では大雨・大雪になるが、その反動で別の地域は異常乾燥となる。この異常乾燥が大船渡や岡山・愛媛の林野火災につながった。
地球温暖化が進んでいる現状では、異常気象は今後も激しくなると考えざるを得ない。
都市部の下水の問題
今度は、大雨の際の都市部の問題である。都市部の地面は土が少なく、コンクリートやアスファルトで、雨水が地面に浸み込みにくい。その結果、雨水は地面を川になって流れる。また、都市部の下水道の排水能力は「しとしと雨(降雨量50mm/h)」を基準としている。ところが、最近の雨はスコールで、このしとしと雨の基準を軽く超えている。これが、都市部で大洪水が起きる原因である。
もう1つは衛生面の問題である。東京23区では、約80%が合流式下水道とのことである(PDF)。
合流式下水道は、「生活排水」と「雨水」が「まとめて1本の管」になっている(図1)。大雨が降ると、この管に雨水が大量に流れ込むため排水能力を超す可能性が高い。その場合、管内で逆流が起こり、排水管から室内に下水が流入する。これは「トイレの汚物」も混じっており、極めて不衛生である。当然、洪水地帯にも「トイレの汚物」がまき散らされる。
図1 この問題は、基本的に行政の下水道設置の初期段階での「甘い見方」から起きた問題である。初期段階で、「生活排水管」と「雨水管」を別々に設置すれば起きなかった問題である。私は、極めて深刻な問題と捉えている。行政には、早急に下水道の「生活排水」と「雨水」の分離をしていただきたい。
山岳地帯の豪雨と土砂崩れ
大雨は日本各地で起きている。私の居住地の福島県猪苗代町でも、2024年8月7日に集中豪雨が発生した。この雨で磐梯山でも多数の山崩れが起きた。
私は1979年から磐梯山の地質調査をしてきた。全国的にも有名な観光地「裏磐梯」は、磐梯山の北麓にあり、山側には荒々しい爆裂火口、山麓には五色沼や檜原湖などがある。
24年8月の豪雨で、山体の多くの場所で無数の小規模な土石流が発生した。これらの土石流は、山麓の住宅地まで至っていないため、現状ではさほど問題視されていない。しかし、今後はこのような土石流が住宅地に至る可能性があり、私は災害発生を危惧している。写真は、そのうちの1カ所で、唯一住宅地に流れ込んだものである。(写真1)
写真1 この山での土石流の発生は、全国どの地域でも起きる可能性がある。もしかすると、住民が気付いていないだけなのかもしれない。
林野火災の飛び火~700m以上は飛んでいく
23日のNHKニュースで、東京大学の教授が大船渡の林野火災での飛び火が20m程度だと解説していた。これについて、私の見解を述べる。
私の故郷は岩手県一関市花泉町で、1963年春に全国ニュースになるような大火があった。この地域は、鹿児島地方のシラス台地のような地形で、やせ尾根と谷が連なっているここでは、やせ尾根と谷が北西-南東方向に延びる。火事発生現場は、谷の南側の尾根で、雑木林のなかに民家が散在し、家の周辺にはスギやマツがあった。私の家は、北側の尾根にあり、家事現場とは直線距離で約600mである。私は谷を挟んだ北側から、大火の推移を間近で観察した。図2は、現在の航空写真で、当時とは住宅の位置や里山の状態は違うが、記憶から書き込んでみた。
火災の日は、北西から西の強風、すなわち尾根が続く方向に風が吹いていた。午後2時20分頃、南側の山林内から煙が上がり、火事を告げるサイレンが鳴った。後日分かったことであるが、幼児による放火とのことであった。
その後、午後2時50分頃には、炎が林よりも高く約30mの高さまで立ち上った。煙は尾根伝いに横に寝た状態で流れていた。そのなかに、空飛ぶ魔法のじゅうたんのような「黒いもの」や「オレンジ色に輝くもの」がたくさん飛んでいた。数10cm程度の火種があったと考えられる。これらの火種は風下へ流れ、はじめに約250m離れた農道脇の枯草に燃え移った。次に約350m離れた民家の竹林に燃え移った。後日分かったことであるが、この家の方は農業用のポンプで家の周りに水をまいていたとのことである。このため、家には燃え移らなかったが、周辺の竹林数カ所に燃え移った。この飛び火は、消防団の放水で消し止められた。後日分かったが、この火事の応援に周辺町村から多数の消防団がきたとのことである。
そうこうしているなかで、今度は南東方向のはるかかなたで煙が上がった。今となっては、正確な距離はわからないが、火元からは700m以上はあった。私の5歳のときの経験で、しかも60年以上前の話である。上記の東京大学教授は「飛び火は約20m」と話していたが、私の記憶では、はるか遠く700mほど先まで飛び火していた。今考えると、私は貴重な経験をしたことになる。大火を真横から観察できる機会などめったにない。
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。関連キーワード
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