国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
核施設空爆とイスラエルの安保崩壊
イスラエルによるイランへの攻撃が激化し、首都テヘランでは核開発の拠点を含む100カ所以上が空爆された模様です。イラン外務省の関連施設も攻撃されたとのこと。イランも激しく応戦しており、双方に甚大な被害が出ています。イスラエルはイランの核開発を放置すれば、イランから核攻撃を受けるのは確実なので、「自国の生存を確保するための自衛策だ」と説明しています。しかし、イラン国内の核関連施設を攻撃すれば、周辺国にも、また場合によってはイスラエルへも放射能汚染が影響するリスクも無視できないはず。当然ながら、国際社会からはイスラエルの過剰反応を非難する声も聞かれています。なぜイスラエルはそこまで必死になってイランを叩こうとしているのでしょうか?
日本での報道はイスラエルの立場を擁護し、物心両面で支援するアメリカの意向を忖度(そんたく)しているせいか、イスラエルが国際社会の懸念を無視してでもイランを消滅させようとしている背景を理解できていないようです。しかも、アメリカの援助を受け、軍事力でイランを圧倒するイスラエルが戦況を有利に展開しているような報道が主流です。ところが、実際にはイランの諜報活動が先行しており、イスラエル国内の軍事的機密情報がイランに流出しているといった「不都合な真実」が隠されています。
実は、イスラエルが過剰とも思えるほどにイランを敵視し、今回の突然の攻撃に至った背景は、イスラエルの危機感が限界に達していたからなのです。残念ながら、そうした実態はほとんど知られていません。とくに、イランの軍事専門家の間では、徹底的な諜報活動を通じて得られた、イスラエルの核開発計画に関する極秘データが共有されているのです。これは単なる漏えいではなく、最も厳重に守られているはずの国家機密が敵対国に流出していたというわけで、イスラエルの安全保障体制の完全な崩壊と言っても過言ではありません。そうした背景があり、イスラエル政府の危機感が限界に達したのです。
解体された組織と崩れる防衛体制
イランのアラグチ外務大臣に近い情報筋によると、イランによるイスラエルの機密情報争奪作戦は両国の対立史上最大規模の作戦の1つだったとのこと。その成果として、現在テヘランは、イスラエルの核インフラや戦略計画の詳細を含む数千の文書を入手することに成功し、その分析に力を入れていると言われています。「これはイスラエルの諜報機関にとっては悪夢のような災難だ」と、この作戦に詳しい情報筋は語っています。いわく「彼ら(イスラエル)はただ計算を間違えただけではなく、手遅れになるまで強盗に遭ったことにさえ気づかなかったのだから」。
興味深いことは、この情報漏えいのニュースは、イスラエルの諜報機関がイランのスパイ容疑でイスラエルの軍人2人を逮捕した数週間後にようやく表面化したことです。ということは、今回の逮捕は、機密資料が相当前からイランへ流出していたという、都合の悪い事実を隠蔽しようとする「遅まきの試み」であったとしか思えません。
実は、こうした機密情報の流出という失敗は偶然ではなく、必然でした。なぜなら、2025年3月、イスラエルはテヘランに対抗するために創設した特別部隊を突然、解散させたからです。表向きの説明では、これは軍内部の情報管理の効率を向上させるためとのことでした。しかし、専門家の間では、軍事作戦やイスラエル防衛システムの突破などイランの最近の成功を踏まえ、こうした措置はイスラエルが自分たちの戦略的失敗を認めたものと受け止められています。イスラエルの誇る諜報機関「モサド」の失敗とも見なされ、核装備に関するデータ漏えいは単なる諜報機関の失策ではなく、中東にとって安全保障環境を一変させる可能性を秘めたものです。
増加するイランの諜報活動
24年のイスラエル国軍がまとめた報告書によると、イランによるスパイ事件は対前年比で400%も急増しているというではありませんか。注目すべき事件には次のようなものが含まれています。たとえば、イスラエルが誇る最新鋭の防空システム「アイアン・ドーム」の仕様を含む機密データを漏えいした容疑で、イスラエル軍の関係者が逮捕されました。また、イラン諜報機関が関与する13のスパイ・ネットワークが摘発。その結果、イランへのスパイ行為で逮捕された26人の有罪判決者のために特別刑務所が建設されています。
しかし、こうした不名誉なスパイ事件の一端は公開されたものの、イスラエルの軍や諜報機関の内部に深く浸透していたイランの諜報機関の実態は今に至るまで日の目を見ることはありませんでした。結果的に、責任部門だった「戦略・第三陣総局」が解体されましたが、イランによるイスラエル軍内部へのスパイ活動の全貌はいまだ明らかにされていません。
イスラエルのアビブ・コチャヴィ元参謀長の指揮の下、20年に創設された上記の総局は、イスラエルの主な敵であるイランに対する諜報活動、サイバー作戦、軍事作戦を調整することを目的としていました。イスラエルにとって国防上欠かせない組織だったにもかかわらず、テヘランの影響力を抑えることができなかったわけです。その力不足というか機能不全は、24年10月にイランの精鋭軍事組織である「革命防衛隊」が「トゥルー・プロミス2」を発射したときに明らかになりました。これはイランの誇る「ファッタハ1」極超音速ミサイル(成功率90%)で、イスラエルの防空網をくぐり抜け、軍事目標と諜報目標を攻撃した大規模なミサイル攻撃で大きな成果を上げたものです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。