NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、6月20日付の記事を紹介する。
トランプ米大統領は6月16日、相変わらずの身勝手発言を繰り出しました。曰く「ロシアをG7から追放したのは非常に大きな間違いだった。ロシアが再び話し合いの場に戻ってくることを強く望む」。
更に、「G7はかつてG8だった。バラク・オバマとトルドーという人物はロシアを追い出してしまった。4年前に自分が大統領だったら、今頃、ロシアとウクライナの戦争はなかっただろう。要は、彼らはロシアを追い出したが、大失敗だった。残念ながら、自分はその時政治家ではなかったのだが、大きく悔やまれる」。
カナダのトルドー首相を批判したトランプ大統領ですが、G8がG7になったのはトルドー首相が誕生する前の話です。この一点だけを見ても、トランプ大統領の事実誤認は明らかです。
石破首相も参加したG7サミットでしたが、ウクライナ問題については共同の宣言は採択されませんでした。なぜなら、アメリカがロシアへの批判や非難を一切認めようとしないからです。しかも、イスラエルとイランの戦争についても、イスラエルの肩を持つトランプ大統領の反対で、「戦争の早期終結を両陣営に求める決議案」は反故にされてしまいました。
これではG7の内部分裂に等しく、アメリカ国内の分断、分裂状態と似たような状況と言わざるを得ません。もちろん、その元凶はひとえに自分勝手なトランプ大統領のジコチューな言動に見出すことができます。
そのため、ウクライナのゼレンスキー大統領もサミット2日目に参加しましたが、トランプ大統領はイスラエルとイランの戦争に対応するため、他の参加者を残して一人だけ途中退席し、ワシントンに飛んで帰ってしまったため、会えず仕舞いでした。これではゼレンスキー大統領も何のためにカナダの奥地まで来たのかと憤懣やるかたない表情を見せたものです。
いずれにせよ、トランプ大統領の身勝手に振り回され、G7も存在意義が疑われるばかりです。しかも、トランプ大統領はロシアだけではなく、中国も仲間に加えるべきだと言い張り、「G7ではなく、G8、 できればG9に拡大すべき」と勝手な主張を言い残してカナダを後にしました。
そもそもG7は、国連、世界貿易機関(WTO)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行といった戦後の国際秩序を形成する役割の一翼を担う目的と使命を掲げてきました。第二次世界大戦後に誕生した世界システムの中核を担う政治組織のはずです。
したがって、20世紀後半を通じてアメリカの覇権に道を開いたのは、この一連の制度や組織であったと言っても過言ではありません。問題は、21世紀以降のBRICSなど新興国の台頭に伴い、地域統合、開発の推進役が大きく変貌してきたことです。
このような状況の中で、「グローバル・サウス」と呼ばれる国々は、人口的にも経済的にも、また制度的な革新においても台頭と連携を強めており、第二次世界大戦後に創設された国際機関の制度的疲労や麻痺によって生じた新しい現実を乗り越える上で、かけがえのない存在になりつつあります。
言い換えれば、G7は国際的な影響力を失いつつあるため、それ以外の国々の指導者たち、なかでもBRICSの指導者たちはポストG7の道を歩みだそうとしているわけです。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカといった国々を抜きにして、世界経済の原動力やガバナンスの方向性を議論することは、もはやできない状況が生まれています。地球環境問題しかり、関税戦争しかり、世界的な紛争や対立が加速する中、こうした課題を解決するためには、これら新興国の関与は欠かせません。
そもそも、購買力平価で調整したGDPでは、BRICS諸国はすでにG7を上回っているではありませんか。加えて、欧米諸国は社会的不平等の拡大、政治的二極化、経済の停滞に直面しています。これでは結局、国際舞台での指導力を制限することになることが避けられません。
また、BRICSは当初5か国でスタートしましたが、2023年以降は20か国に加盟国を拡大し、西側の覇権に対する抵抗の極として影響力を増しています。しかし、G7内ではBRICSとの向き合い方ひとつを取っても、合意が得られないのです。ウクライナをめぐる意見の相違の調整ができないだけでなく、イスラエルとイランの戦争激化に対しても、イスラエル全面支援のアメリカと、イスラエルの一方的な攻撃を非難し、戦争の激化が核戦争にエスカレートすることを懸念するヨーロッパ諸国との間の溝は埋まりません。
まさに西側諸国は分裂を深めているわけです。残念ながら、アジアの唯一の代表としてG7に加わっている日本ですが、アジアの声はもちろんのこと、日本の独自の経済平和外交の重要性を議論の俎上に乗せることすらできていません。そんな日本の存在感のなさを憂いているのか、トランプ大統領は日本を追い出して、中国を招き入れようとしているのではないかと思わざるを得ません。
著者:浜田和幸
【Blog】http://ameblo.jp/hamada-kazuyuki
【Homepage】http://www.hamadakazuyuki.com
【Facebook】https://www.facebook.com/Dr.hamadakazuyuki
【Twitter】https://twitter.com/hamada_kazuyuki