福岡大学名誉教授 大嶋仁
因果応報~遠い戦争と近い現実
仏教の教えに「因果応報」がある。この宇宙のすべての現象は、因果関係でつながっているというのだ。たった1つの現象でも全宇宙とつながる。
実際には、因果応報を会得することは非常に難しい。いくら努力しても、ままならない。
たとえば、私たちが手に取る情報はどれもが断片的であり、それらを寄せ集めてもなかなか1つの絵にならない。今ここに「イスラエルと原発」と題して文章を書くに至ったのは、これまで見えてこなかったイスラエルと原発の関係がようやく見えてきたからである。今ここに、それについて述べてみようと思う。
イスラエルは日本から遠い。この国が20カ月以上にわたって行ってきたパレスチナ人の虐殺と、最近イランに対して行った無謀な奇襲攻撃は、テレビのニュースでも報道されている。では、それが日本にとってどういう意味をもつのかとなると、なかなか実感しにくい。日本との直接の関連が見えてこないからだ。
一方の原発は、私の住む唐津の町からも非常に近いところに玄海原発がある。従って、こちらのほうは日々の生活に大きく関わっており、人ごとではない。遠いイスラエルと、近くの原発。この2つを結びつけることは、そう簡単にはいかない。
情報の断絶、日本メディアの限界
そもそもイスラエルに関する情報が、私たちには乏しい。日本のメディアはイスラエルのガザ地区での「蛮行」を伝えてはいるが、その背景にアメリカと西欧諸国の後押しがあることにはほとんど触れていない。
それもそのはず、欧米のメディアがそのことに触れようとしていない。日本のメディアは、こと海外のニュースに関しては、ほとんど常に欧米メディアのコピー機関となっている。
ウクライナ戦争にせよ、プーチンの悪者イメージにせよ、欧米でつくられた言説の受け売りしか日本のメディアはしていない。何かが起これば、必ずそこには原因があるのだが、その究明をしようという姿勢はまったくない。「日本にジャーナリズムはあるの?」と首をかしげてしまう。
一国のメディアの在り方は、その国の自由度を示す。日本はメディアの実態から見て自由度が低く、「ほんとうに主権国家なの?」と疑われても仕方がない。
欧米が支えるイスラエルの「暴走」
さて、数週間前に国連の安全保障理事会で、パレスチナ人の乳児の脳にイスラエル兵が銃弾を打ち込んでいるという報告がなされた。ガザ地区に派遣された欧米諸国の医師たちがこれを目撃し、多くの国の代表の前でそれを報告したのである。
その様子は動画となって全世界に配信され、私もYouTubeでこれを見てがくぜんとした。世界中の多くの人が、これを見たはずである。
それなのに、イスラエルを支えるアメリカが拒否権を発動し、安全保障理事会でのガザ決議案は成立しなかった。これは極めて異様な事態だが、それを日本メディアは大きく取り上げていない。たとえ取り上げても、そこにアメリカを非難する言葉は見つからない。
トランプ大統領はウクライナ戦争をやめさせ、イスラエル戦争をも和平に導くと公言していた。しかし、実際にやっていることはその逆である。となると、彼は前大統領のバイデンに劣らず高齢者であって、その脳は機能不全を起こしているのではないか、と見たくもなる。
そうではなくて、トランプには政治力が乏しく、CIAなどは彼に言いたいことを言わせつつ、彼と相談もせずに好き勝手をやっている、と見る向きもある。どちらのほうが正しいのか、今のところわからない。アメリカ政府がとんでもない泥沼にあることだけは、確かなことだろう。
問題はアメリカだけではない。イスラエルがパレスチナ人を虐殺し続けているのに、フランスのマクロン大統領は「イスラエルには自分たちを守る権利がある」などと平気で言っている。ドイツのメルツ首相はいみじくも言った。「イスラエルは我々の代わりに汚れ仕事をしているのだ」と。
つまり、欧米先進国はイスラエルの「乱心」を利用して、中東を自らの支配下に置こうとしているということだ。イランはロシアと並び、西欧世界にとって邪魔なのだ。
何というおぞましい考え方だろう。かつては深淵(しんえん)にして崇高な思想の花園だったヨーロッパが、ここまで堕ちるとは!
イスラエルと欧米先進国の動きに「待った」をかけようとしている中東最強の国は、間違いなくイランである。従って、イスラエルと欧米はこのイランを倒してこそ目標を達成できる。
事実、イスラエルはイランに奇襲攻撃をしかけ、それに追い打ちをかけるようにして、アメリカはイラン各地の原子力施設を空爆した。愚行に次ぐ愚行の連続というほかない。今や第三次世界大戦が始まるのではないか、という危惧さえ生まれている。
この現状を見て、日本は何をすべきなのか?
アメリカの国際政治評論家フリーマンは、G7では日本だけがイスラエルを非難した、と日本を褒めている。それぐらいは、最低限すべきことである。もっとも、日本の置かれた立場からすれば、それ以上をいうのは難しい。
(つづく)