蒸し暑さが全身を包み込むベスト電器スタジアム。気温は30度を超え、ナイトゲームにもかかわらず容赦のない熱気がピッチを覆っていた。
6月28日、J1第22節。アビスパ福岡とヴィッセル神戸の一戦は、2連勝中の福岡と3連勝中の神戸による意地と意地のぶつかり合い。勝点を分け合う0-0のスコアレスドローとなった。
スタンドには大きな声援が響き、ホームの空気は高まった。試合終了の笛が鳴った瞬間、何人かの選手がその場に座り込んだ。灼熱(しゃくねつ)のなか、走り抜いた90分。出し切った身体と、勝ちきれなかった悔しさが交錯する時間だった。
「こういうゲームで勝つことで、我々の地位を1つ2つ上げていける。だからこそ悔しい。」
試合後、福岡の金明輝監督の言葉には、いつも以上に力がこもっていた。「本当にたくさんのお客さまにきていただき感謝している。勝って恩返ししたかった」と唇をかんだ。
試合は序盤から両者が激しくぶつかる展開となった。立ち上がりにはDF志知孝明が負傷によりピッチを後にし、代わってDF前嶋洋太が左サイドに投入されるアクシデントもあったが、福岡は集中力を切らさず試合に入っていった。
前半はセカンドボールを奪い合う時間が続いたが、そのなかでもMF岩崎悠人のアグレッシブな動きが目を引いた。相手DFラインの裏を積極的に狙い、縦への推進力で幾度もチャンスの起点に。背後を突く動きは、神戸にとって大きな脅威となっていた。
福岡はFWウェリントンを起点にロングボールを入れ、セカンドボールを拾うかたちで、強度の高いプレーが見られる。神戸はロングボールを多用しながら圧力をかけ、セカンドボールの争いがカギとなった。福岡は中盤のMF秋野央樹、松岡大起が応戦。最終ラインではDF安藤智哉、田代雅也らが体を張り、GK小畑裕馬のファインセーブもあり、得点を許さない。

後半に入り、試合の流れが変わる。福岡はビルドアップの意識を高め、後方から丁寧につなぐかたちにシフト。MF名古新太郎、FW北島祐二らが顔を出し、パスワークにリズムが生まれた。
「ハーフタイムでクイックスタートの話をして、みんなで距離感を整えた。勇気をもって立ち位置を取れたことで、うまく循環できた」と松岡。
安藤も「後半は自分たちが主導権を握れた時間があった。あとは個人の精度をもっと上げていくことが必要」と振り返る。
この日、最大の見せ場は後半途中に訪れた。GK小畑のロングボールをウェリントンが頭でつなぐと、抜け出したFW碓井聖生が、エリア内でこぼれ球を拾って右足を振り抜く。ボールはゴールネットを揺らし、ベススタに歓喜の声がこだました。
だが直後にオフサイドの判定。VARによって得点は取り消された。

2試合連続ゴールにはならなかった碓井 撮影:ヒデシマ氏
「ストライカーらしいプレーだった。ゴール前での個性を感じたし、将来的には中心になれる選手。期待している」
金監督は碓井のプレーをこう評価した。J1初出場で移籍後初ゴールを上げた23歳のアタッカーが放った一撃は、2試合連続ゴールにはならず、幻に終わったとはいえ、確かな希望を残した。
碓井自身も「途中から出場して0-0という結果のなかで、何とか自分が点を取ってチームを勝たせたいという気持ちで挑んだんですけど、惜しくもオフサイドになってしまって、やっぱり自分の力がまだ足りなかったと感じた試合でした」と冷静に自己分析した。
一方で、課題も浮き彫りになった。
「勝って修正したかったが、最後の質、個人の力を上げないと再建する力、得点する力が生まれない。そういったシーンが今日も多くあった」
指揮官は現実を見つめ、こう続けた。
「ただ守備の選手を置けばゼロにできるわけではない。攻撃の質を上げることが、結果的に守備にもつながる」
6試合連続で複数得点を挙げていた神戸をゼロに封じたことは、チームにとっては好材料といえるだろう。

得点力も高いDF20安藤智哉 撮影:ヒデシマ氏
試合後、安藤は「もっとシュートの精度や1対1の対応、攻撃の止め切るところを意識したい。3週間の中断期間をポジティブに捉えて準備していく」と話した。
福岡はリーグ戦3連勝とはならず。だが、今節の内容にはたしかな成長があった。チーム全体が攻守の距離感を保ち、後半は明確に神戸を押し込む時間帯をつくった。
次戦は7月21日のホーム京都戦。27日にはアウェー浦和戦を迎える。中断期間をどう過ごし、いかに「最後の質」を上げて戻ってくるか。夏の後半戦に向け、課題と収穫が詰まった一夜だった。
【森田みき】