トリビュートの不動産再生(10)天神・博多におけるデベとの協業事例

不動産市場への高い解像度

    (株)トリビュート(福岡市中央区)では、デベロッパーをはじめとするパートナー企業と共同で進めるビジネススキーム【COVISON】を推進している。同社はこれまで、「仲介」よりも「買い手」となることに軸足を置き、また取得した不動産に付加価値を加えることで、事業を成長させてきた。【COVISON】は、デベロッパーと連携することで、より好立地かつ規模の大きな開発プロジェクトへの参画を可能とするものだ。

 「当社の強みは、ポジションを取ってきたことによる不動産マーケットに対する解像度の高さだと考えています。また、ポジションを取り、自社で不動産再生を行ってきたことから、立ち退き交渉などの権利調整を得意としており、デベロッパーから見ても使い勝手が良い存在だと自認しています」とトリビュートの田中稔眞社長は話す。

 同社ではこれまでもデベロッパーとの協業実績はあったが、不動産価格の上昇や建築費をはじめとした開発コストの高騰により、開発のハードルが高くなってきたことを踏まえ、デベロッパーを事業パートナーとする【COVISON】をさらに打ち出していく構えだ。

【COVISON】

事例1
天神至近の事務所ビル

 旧所有者の自社ビルとして利用されてきた物件。旧所有者の移転先を、近隣で竣工したオフィスビルに確保したことで、開発用地としてデベロッパーへ売却した。都心部の100坪というスペックから、賃貸マンションやオフィスなどの開発を検討するデベロッパーから多くの声がかかったが、価格入札などを経て、オフィス開発を手がけるデベロッパーを選定していた。

 余談だが、同物件が開発用地となったことがきっかけとなり、隣地を含めた大型再開発計画が始動。ホテル開発が進められている。

事例2
はかた駅前通りのマンション

はかた駅前通りのマンション    駅前立地ながら低稼働だった賃貸マンション。旧所有者との売買交渉や金融機関との資金調達交渉に加え、低層には店舗、住居部分には長期入居者と、再開発のハードルが高い物件だったが、店舗テナントや入居者との交渉を完了し、パートナー企業への売却をはたした。今後はパートナー企業とともにデベロッパーへの売却を進めていく予定で、敷地の広さと立地から、ホテル開発が行われる可能性が高い。博多駅-中洲-天神をつなぐ導線上で、ビジネス・観光客らの通行が多い通りということもあり、低稼働だった同物件が再開発される意味は大きい。

東京進出から10年弱
福岡・大阪と3拠点体制へ

 福岡市内での活躍が目立つ同社だが、東京進出してまもなく10年を迎えようとしている。東京でも福岡と同様、不動産再生事業を手がけてきた。「東京進出による最大の果実は、在京デベロッパーと関係性がつくれたこと」(田中社長)だという。これは、福岡でも大いに生きており、デベロッパーそれぞれの特性を理解することで、立地や規模など物件のスペックに合わせて、最適な提案ができるようになったのだという。

 福岡で本格始動した【COVISON】についても、より市場が大きな東京でも推進していく方針。すでに採用も済ませ、体制を強化したところだ。さらに、大阪にも拠点を構える計画があり、近い将来には福岡・東京・大阪で売上高300億円を目指していくという。

東京支店が入居するGINZA SIX(東京都中央区)
東京支店が入居するGINZA SIX(東京都中央区)

 「たとえば大名は、古い建物が多かったことから賃料が抑えられ、若者が古着屋などの店舗を出店し、それが集積したことで街のブランディングにつながった経緯がありました。当社では、すべての建物を新しくして賃料を上げていくべき、とは考えていません。街がもつポテンシャルを最大化できる開発こそが、当社の求める開発ですし、そういったデベロッパーと協業していきたい。これからの不動産業には、リスク・リターンの2軸に社会的インパクトという第3軸も意識した投資が必要です。福岡だけでなく、東京、大阪にも一等地なのに低利用なビルがあったりします。パートナーであるデベロッパーとともに、そういった土地のポテンシャルを掘り起こし、日本の都市の魅力向上に寄与するインパクト不動産投資の一端を担えればと考えています」(田中社長)。

【永上隼人】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中稔眞
所在地:福岡市中央区渡辺通1-1-1
    サンセルコビル6F
設 立:2009年4月
資本金:1,600万円
TEL:092-292-2313
FAX:092-292-2314

< 前の記事
(9)

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事