政治経済学者 植草一秀
2026年に日本の主権者は自分の頭でものを考える習慣を身に付けるべきだ。米国がベネズエラに軍事侵攻してベネズエラの大統領夫妻を拘束。身柄を米国のニューヨークに拉致した。
新聞が大きく報じたが取り扱いに大きな落差がある。通常の記事並みの取り扱いをした新聞社は米国の支配下にある社であると言える。同じことをロシアが実行したらメディアはどう取り扱うか。同じことを中国が実行したらメディアはどう取り扱うか。
高市首相は1月5日の会見で次のように述べた。
「邦人の安全確保を最優先としつつ、関係国と緊密に連携しつつ対応にあたっている」
「ベネズエラについては、これまでも一刻も早くベネズエラにおける民主主義が回復されることの重要性を訴えてきた」
「我が国は従来から自由・民主主義・法の支配といった基本的価値や原則を尊重してきた。日本政府はこうした一貫した我が国の立場に基づいてG7や地域諸国を含む関係国と緊密に連携しながら、引き続きベネズエラにおける民主主義の回復と情勢安定化に向けた外交努力を進めていく」
米国の行為について何も論評していない。一国の宰相として失格ではないか。「自由・民主主義・法の支配」を強調するのはいいが、米国の行為は「法の支配」の観点から見てどうなのか。首相としての見解を述べる必要がある。
何も語ることができないなら、直ちに首相を辞任すべきだ。重大な国際問題が発生したときに確固たる見解を持つことができない。見解を堂々と述べることができない。それで首相が務まるわけがない。同種の行為をロシアや中国が実行した場合にも同じ姿勢を貫くのか。この点をはっきりさせるべきだ。
他国に軍事侵攻して国家元首を拉致することを高市首相がどのように評価するのかを明らかにする必要がある。私たちが気付くべきことは、この状況に対してメディアが高市首相を問い詰めないこと。「御用」報道しか行わないなら「報道機関」を名乗るのをやめるべきだ。「御用機関」であることを明らかにすることがせめてもの市民に対する誠意である。
問題は、こうした状況について主権者である国民一人一人が自分の頭でものを考えて、自分独自の判断を持つこと。高市首相が「台湾有事で存立危機事態」と述べたのは中国による台湾統一の行動に対して日本が米国とともに中国と戦うという方針の表明だった。その背後にあるのは中国による台湾統一を許さないという判断なのではないのか。
産経新聞は関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)が1月5日に大阪市内で開かれた会合で、台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁について
「(大阪・関西)万博中にあのコメントがあったら(と思うと)、私はぞっとした」と述べたことを報じた。
https://x.gd/tPiUl
記事は松本会長について「中国当局に人脈を持つ松本氏は〝知中派〟として知られる。」と表現。〝媚中派〟という言葉が類推されるように〝知中派〟という言葉を用いたのだと推察される。
記事は次の一文で締めくくられている。「高市首相は国会で昨年11月7日、中国が武力侵攻する台湾有事をめぐり、集団的自衛権の行使ができる『存立危機事態』に該当する可能性があると表明していた。」産経新聞の悪質さが鮮明に浮かび上がる。
台湾有事を「中国が武力侵攻する」と定義する不正確さを看過できない。台湾独立をめぐる中国と台湾の武力衝突等の事態を「台湾有事」と呼ぶのであって、「台湾有事」を「中国が武力侵攻する」と表現するのは不正確な「偏向表現」である。
高市首相が11月7日の国会答弁で「台湾有事で発生する事態が集団的自衛権の行使ができる『存立危機事態』に該当する可能性がある」と発言していたのなら、ここまでの大騒動にはなっていない。この発言でも日中が築き上げてきた平和友好関係の蓄積を破壊するものではあるが、日本の安保法制を前提とすればロジックとして完全否定されるものではない。
高市発言が問題とされるのは「どう考えても存立危機事態」と述べた点にある。これは、別の日本語にすると、「まず間違いなく存立危機事態」ということになる。この発言は完全にアウト。「どう考えても存立危機事態になり得るケース」と述べたことを「『存立危機事態』に該当する可能性がある」と発言したと言い張っていることが「ごまかし」、「すりかえ」である。
「ごまかし」、「すりかえ」で「居直り」しているのが高市首相。素直に「どう考えても存立危機事態」の発言は誤りであり、撤回しますと謝罪すれば済むこと。過ちを認めずに、過ちを「過っていない」と押し通す行動は信頼を根底から崩壊させるもので愚行である。
高市首相の周辺には、こうした公正で賢明な判断をできるブレーンが存在しないのではないか。昨年11月28日にNHKが「ニュースウォッチ9」で放送した外務省元事務次官藪中三十二氏への高市台湾有事発言についてインタビューを振り返ってみる。
藪中氏は中国の高官がポケットに手を入れて対応したことに「大国であればもうちょっとふるまい方、ちゃんと考えろよ」と述べ、高市発言の撤回について「一国の総理の発言を外国から言われたから撤回するというのは外交上よくない、ありえないことだ」と述べた。中国局長のしぐさは木原誠二元官房副長官のしぐさとそっくりである。
また、11月25日のテレビ朝日「報道ステーション」は元駐中国日本大使の垂秀夫氏をスタジオに招き、「高市発言を撤回すべきでない」との発言を放送した。テレビ局は垂氏がどのような主張を示すのかを把握した上で番組に出演させている。
さらに、同じテレビ朝日は11月23日の「有働Times」に神田外語大学興梠一郎氏へのインタビューをVTRで放送。興梠氏は日中共同声明における「台湾の中国帰属」問題に関する文言について「『理解して尊重』ですから『承認』してないんですよ。要するに承認って言ってないんですよ、法的に」発言した。
日中共同声明第三項に関しては、「台湾が中国の不可分の領土の一部」とする中国の主張について、日本が「理解して尊重する」との案を提示したが中国が拒否。最終的に「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」を付記して決着した。
「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」の内容を省いて「理解して尊重する」だけで第三項を説明するのは、明らかな「不正」。問題はこうしたメディア報道に接する市民が歪んだ情報だけを刷り込まれること。
放送法第四条は放送番組の編集等について、
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実を曲げないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
と定めている。
高市首相は間違った発言を撤回すべきで、その正論を述べる識者も存在するなかで、「撤回すべきでない」と主張する人物だけを放送番組に出演させて、一方の主張だけを放送し続けることに重大な問題がある。
十分な情報を持たない一般視聴者は放送番組の誘導に完全に乗せられてしまう。結果として日本が世界から孤立する状況に追い込まれる。
マスメディアではないマイナーなメディアだけが公正で真実の情報を発信している。こうした優良情報を拡散して、日本の主権者が正しい情報をもとに自分の頭でものごとを考え、自分の判断を形成することが強く求められる。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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