政治経済学者 植草一秀
第51回衆議院議員総選挙が1月27日に公示される。総選挙に向けての情報戦が激しさを増している。マスメディアを用いた情報戦の中核は二つある。第一は中道新党のイメージダウンを図ること。第二は消費税減税を阻止すること。
情報操作を行う主体の狙いは二つ。第一は選挙で与党勢力を勝たせること。第二は選挙後の消費税減税を阻止すること。
高市自民は「2年限りの食料品消費税率ゼロの検討加速」を掲げたが「2年限りの食料品消費税率ゼロの実施」とは言わない。「検討はするが実施はしない」可能性が十分にあり得る。したがって、消費税減税阻止の情報工作は、かたちだけ消費税減税の体裁を整えた高市自民を攻撃するものではない。
動員されるコメンテーターは、「消費税減税は検討に値するが、恒久減税は無責任だ」とする発言を繰り返す。万が一、減税が実施される場合、最悪でも時限措置にすることが目指されている。この情報工作の中心に位置するのは産経、日経、読売の3系列。読売世論調査でも内閣支持率は4%ポイント下落した。しかし、読売が付けた見出しは「高市内閣の支持率69%で高水準維持」。これをYahoo!ニュースがトップページのヘッドラインに長時間掲載する。
毎日世論調査は内閣支持率10%ポイント下落で、新聞見出しは「高市内閣、支持率57% 10ポイント下落」であり、支持率急落を正確に伝えるがYahoo!ニューストップページに長時間は掲載されない。
読売世論調査でのもう一つの見出しは「中道改革連合に『期待する』22%、比例投票先は自民トップ36%」。中道改革連合への期待が小さいことを印象付ける。
財務省御用新聞と化す日本経済新聞は次の状況。朝刊1面見出しに「食品減税『物価に効かず』56% 高市内閣支持率67%」。内閣支持率は前回調査から8%ポイントも急落したが、支持率急落とは書かず、67%だけを見出しにする。消費税減税については「食料品の消費税率ゼロが物価高対策として『効果があるとは思わない』との回答が56%を占めた。」と記述。「『効果があると思う』の38%を上回った」と記す。
また、消費税のあり方に関して「財源を確保するために税率を維持するべきだ」と「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」のどちらに考えが近いかを聞いて「維持が59%と多数で、減税は31%にとどまった」とする。「食料品の消費税率ゼロが物価高対策として効果があるとは思わない」との回答が、どのような経緯で多数を占めたのかが不明。調査の質問事項全体が示されていないから、この不可思議な回答がどのように導かれたのかが不明なのだ。
結果数値を出すなら、質問をすべて公開する必要がある。消費税について「財源を確保するために税率を維持するべきだ」と「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」を並べて問う場合に前者が多数になることは、質問文作成者の意図そのもの。こんな調査結果を「世論調査」結果として喧伝するのは、もはや犯罪の領域だ。
総選挙に向けて権力が支配力を総動員して情報戦を展開している。日経世論調査の比例代表投票先についての記事大見出しは「衆院選投票先、自民40%中道13% 国民民主・参政は現役世代支持」である。意図が見え見えだ。
「食料品税率ゼロが物価高対策に効かない」理由として、いま流布されているのは次のロジック。「大規模減税を行うと日本円が下落して、輸入物価上昇をもたらしてインフレが加速する。そのために、食料品税率ゼロの効果が打ち消されてしまう。」テレビのコメンテーターが誰かに指示されたかのように同じ発言を示す。
「消費税減税を行うと円安になる」ことが前提に置かれるが、円安になる保証などどこにもない。この説を唱える者は、同時に、大型減税政策を打ち出すと長期金利が上昇するとも唱えている。日本の長期金利上昇は、一般的には円高要因と理解されている。長期金利が上昇するとしながら、円安が進行するというのは論理的に整合的でない。
かつて、英国でトラス首相が大型減税を打ち出して、金利上昇とポンド下落を招いたことがあり、これを念頭に金利上昇と日本円下落を唱えているのだろうが、金融市場の変動は一様でない。
1997年4月に橋本政権が消費税率を3%から5%に引き上げた。私はバブル崩壊不況から立ち上がりかけた日本経済に強い緊縮策を打つのは危険が大きすぎると反対論を唱えた。反対論の急先鋒が私だった。しかし、消費税増税は断行された。結果として日本経済は金融危機に転落した。私が警告した「超緊縮財政=景気悪化=株価下落=金融危機」のスパイラルが現実のものになった。
NHK日曜討論にも何度も出演した。このときに大論争があった。「財政緊縮を緩めるべき」との私の主張を否定する圧倒的多数の権力側の主張は次のものだった。「積極財政を実施すると金利が上昇して為替が円高に変動する。その結果、景気支持効果が失われる。」「マンデル・フレミング効果」を根拠に緊縮財政緩和論を否定した。このときの財務省を含む「財政政策緩和論」否定のロジックは、「財政緩和」を実行すると「円高」になるというものだった。
今回も消費税減税阻止に向けての情報工作を展開しているのは財務省である。財務省は1997年には「財政緩和を行うとマンデル・フレミング効果で円高になり、景気回復効果が消される」と主張した。ところが、今回は「財政緩和を行うと円安になり、物価が上昇して物価高対策の効果が消される」と主張している。要するに、単なる「我田引水」。目的に合わせて、もっともらしい説明を付しているだけなのだ。
日経新聞は「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」の考え方への賛否を尋ねたが、こう質問すれば大半の国民は否定的な回答を示す。しかし、現実はまったく異なる。20年度から25年度に年額で20兆円もの税収上振れが生じている。自然増収=実質増税である。「20兆円の実質増税=自然増収を財源にして税率を下げるべきだ」の考え方への賛否を問うべきだ。「減税をするべき」の回答が100%近くに達するだろう。権力側の悪質な大情報戦の下で総選挙が行われていることをすべての主権者に伝える必要がある。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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