政治経済学者 植草一秀
高市首相は「事態の沈静化を求めている」と繰り返すが事案の評価が先決だ。誰に非があるのかを明確にしなければ解決策を示すことはできない。
欧州諸国は米国に非がある戦争に艦船を派遣することはできないと明示している。
当然のことだ。
今回の事案は米国による一方的な軍事侵略。最高指導者夫妻を突然殺害した。小学校にミサイル攻撃を行い、罪のない多数の子どもを虐殺した。明白な戦争犯罪である。
その米国に加担して軍を派遣することは侵略戦争への加担になる。欧州、豪などが米国の要求を拒否していることについてトランプ大統領が激怒している。この状況下で高市首相が訪米する意味はない。
訪米するなら、米国の国際法違反を指摘して、米国の軍事行動中止を求めるしかない。日本への自衛隊派遣の要請に対しては対応できないことを明言する以外にない。トランプ大統領は不満を露わにするだろう。トランプ大統領に対して誤りを指摘し、米国の要求を呑めないことを伝えるために、わざわざ訪米する必要があるのか。
米国が孤立無援に陥っている状況であるから、日本が米国にすり寄れば得点を稼げる。これほど浅はかな考えはない。
米国が国際法に反してイランに対する軍事侵攻を行った。イランは自衛権を行使してホルムズ海峡封鎖を実行した。その結果、原油価格が急騰して世界経済に深刻なダメージを与えている。国際社会が足並みを揃えて米国の国際法違反の暴走を諫(いさ)めるしかない。
このなかで、米国の力が強いことを理由に米国にすり寄る造反国が登場すれば国際社会の利益を損ねる。「事態の沈静化を求める」なら、米国に対して国際法違反の暴走をやめるように進言するのが正しい対応。その対応を示さずに、トランプ大統領の機嫌を取ることに腐心するのは愚の骨頂。
日本政府は5,500億ドルの対米投資を約束させられた。円換算で80兆円以上の対米上納金だ。日本はすでに1兆ドル=159兆円の上納金を米国に支払い済み。日本政府保有の外国証券が1兆ドルある。ほぼすべてが米国国債である。
ドル高で円換算額が膨らんだ。これを「ほくほく」とか「うはうは」とか表現する者がいるが見当違いも甚だしい。
ドル建て資産を保有してドルが上昇すれば利益が生まれる。1ドル=100円で1兆ドルのドル建て資産を購入し、その後に1ドル160円になれば大きな利益が生まれる。評価額は100兆円が160兆円になる。60兆円の含み利益が生じる。しかし、これを眺めるだけなら無意味だ。
1ドル=160円の時点で保有するドル建て資産を売却して日本円に転換して初めて利益が「実現」する。売却せずに評価額が上昇したと喜んでも無意味なのだ。「ほくほく」でも「うはうは」でもない。
円安で日本の消費者は輸入品に多額の日本円を支払う必要が生じる。日本国民の所得と資産のドル換算額は円安で激減する。円暴落は日本国民にとって災難でしかない。また、円暴落で日本の優良資産が外国資本に買い占められている。これが最大の経済安全保障問題。
日本政府は保有する米国国債の売却を許されない。その上で、新たに80兆円もの上納を迫られている。唯々諾々とこれに応じるのは愛国者ではなく売国者である。トランプ大統領と一対一で会談する機会があるなら、トランプ大統領に
イラン軍事侵攻は国際法違反であること
直ちに米国は軍事行動を中止する必要があること
他国に艦船派遣を要求しても国際法違反国への加担はできないこと
を明確に伝えるべきだ。その上で、米国への資金提供など、日本から米国への利益供与はできないと明言すべきだ。
これをはっきり述べるなら訪米にも意味がある。いま何よりも大事なことはトランプ大統領の暴走を止めること。トランプ大統領はTACO=Trump Always chickens Out.だから、他国が足並みを揃えて誤りを指摘すれば降りる。だが、そこにトランプ大統領にすり寄る者が出てくれば増長する。高市首相は媚を売るべきでない。媚米外交は世界の害悪になる。日本の国益にも反する。
日本にある米軍基地から飛び立つ米軍がイランに対する軍事侵攻を行うなら、日本も加害国と認定される。日本が戦争当事者になる。したがって、日本の米軍基地をイランへの軍事侵攻のために使わせるべきでない。他方、イランは日本が米国に加担せず、イランとの友好関係を維持する姿勢を明確に示せば、日本籍船のホルムズ海峡航行を認めるとしている。この道を選択するべきだ。
ところが、高市首相は米国のイラン軍事侵攻を非難せず、イランの湾岸諸国への攻撃を非難する。偏向が著しい。日本は
自由 人権 民主主義 法の支配 市場経済
を「価値観外交」と称して重視してきたのではないのか。
国際法に違反する米国の暴走に異を唱えずに「価値観外交」を唱える資格はない。いまや、米国こそが世界最大の「ならず者国家」である。その「ならず者国家」に対して厳しい指摘もできずに「したたかな外交」などと表現すべきでない。目の前に広がる現実は誰の目にも明白なこと。米国の国際法違反、戦争犯罪は明白である。
このなかで、「米国の行動は国際法違反と言えない」「日本はペルシャ湾に自衛隊を派遣すべきだ」と唱える日本人がいる。その日本人はイスラエルと通じる者であると見てまず間違いない。各人の発言をチェックして誰がこの種の発言を示しているのかを記録することが重要だ。各発言者の「属性」を知ることができる。
米国の行動は国際法違反であるし、自衛隊の派遣は侵略戦争への加担になるから認められる余地がまったくない。高市首相がこの基本から外れる行動を示すなら、日本国民は高市即時退陣に向けて動かねばならない。訪米中止が適切だが、訪米を強行する場合には、高市首相が国際社会に害悪のある行動を示さないか、日本の国益を損なう不正な約束を米国と交わさないかを徹底的にチェックする必要がある。
高市首相は国会答弁で「赤沢亮正経産相に対して『私に恥をかかせるな』と伝えた」と述べたが、外国に責任を持つのは首相自身だ。自分の責任を閣僚に転嫁する時点で首相として失格だ。自分自身の外交能力に不安しかないから、この種のパワハラ発言が飛び出すのだ。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』」
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」








