イラン攻撃で世界秩序は変わるか(9)隠される真実~いま何が起こっているのか?~(前)

鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗

 2月28日にアメリカとイスラエルがイラン攻撃を行った。それからすでに3週間近くが過ぎても戦争の終結は見通せていない。
 今回のブログ記事では、現時点で、昨年6月のイラン攻撃(12日間戦争)に続く、この米国・イスラエル両国の共同作戦によるイラン攻撃の狙いと背景を改めて考えてみたい。

1.アメリカとイスラエルのイラン攻撃の経緯と背景

 2月28日、アメリカとイスラエルは、イランに対する大規模な軍事攻撃に踏み切った。トランプ大統領は、攻撃開始直後に、イラン攻撃の目的は「凶悪な集団であるイラン政権からの差し迫った脅威を取り除き、アメリカ国民を守ること」だと語った。その「差し迫った脅威」として、具体的には、イラン側の核兵器開発と長距離ミサイル開発の再開を挙げた。さらに、トランプ大統領は、イラン国民に対して、「偉大で誇り高いイラン国民に今夜伝えたい。自由のときは近い。我々が(作戦を)終えたとき、あなた方が自らの政府を掌握するのだ」と民衆蜂起を呼びかけた。

 今回のアメリカの軍事作戦の最初の大規模な攻撃で、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師を含むイランの政権幹部48人が殺害された。これに対して、イラン側は90分後には、アメリカとイスラエルによる「一方的で違法な」攻撃への報復だとして、イスラエルの軍事施設だけでなく、カタールにあるアル・ウデイド空軍基地、クウェートのアル・サレム基地、アラブ首長国連邦のアル・ダフラ空軍基地、バーレーンのアメリカ軍第5艦隊基地などを含む27基地を攻撃している。

 アメリカとイランは、イランの核開発計画をめぐって今年2月からオマーンで間接的に協議していた。しかし、アメリカは、今年1月に空母「エイブラハム・リンカーン」をインド洋に派遣したのに続き、2月13日に空母「ジェラルド・R・フォード」を中核とする2つ目の空母打撃群を中東に派遣することを発表した。トランプ大統領は、2つ目の空母打撃群を派遣するのは、外交合意に至ることができない場合に備えた措置だと説明した。

 しかし、アメリカでは、その協議が行われている最中から、すでに問題は「攻撃するのか否か」ではなく、「いつ踏み切るのか」に移っていたという。そして、イラン側との協議が終わった2日後に、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃が始まったのである。しかも、仲介役を務めるオマーンのバドル・アルブサイディ外相が「大きな進展」があった、「近く」交渉を再開する予定(3月2日)だと協議後に明らかにした直後であった。

 つまり、アメリカ側にはイラン側との協議を真摯に進める意思などは最初からなかった。「はじめに攻撃ありき」で、イラン攻撃の準備体制が整うまでの「時間稼ぎ」であった。また、このタイミングでの作戦開始は、ハメネイ師を殺害する「千載一遇の機会」を逃したくない、との判断が決め手になった可能性が高い(米アクシオス誌が3月3日に報じたところによると、イスラエルのネタニヤフ首相がトランプ大統領とそのチームに対し「一斉空爆で全員を殲滅できる」と説明したのは、2月23日だったという)。

 今回のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃が国際法と国連憲章に違反していることは明らかだ。アメリカとイスラエルは、イランへの大規模攻撃について、相手国からの攻撃を阻止するための「先制攻撃」であると説明しているが、そもそも国際法上、先制攻撃は認められていない。国連憲章は武力の行使やその威嚇を禁止しており、武力行使が例外的に認められるのは、安全保障理事会の決議がある場合と他国から攻撃を受けた際の自衛反撃だけである。

 南アフリカのラマポーザ大統領は2月28日、米国・イスラエルによる攻撃を「国際法違反」と非難する声明を発表。「国連憲章第51条は、ある国が武力侵略を受けた場合にのみ自衛権を規定している。予防的な自衛行動は国際法の下で許されていないし、自衛行動は予測や想定に基づくものであってはならない」と指摘し、米国・イスラエルが主張するような憲章第51条に基づく「自衛反撃」という説明を真っ向から否定している(しんぶん赤旗、2026年3月4日、「イラン攻撃 国連憲章違反は明白」)。

 また今回のイラン攻撃は、国際法・国連憲章違反ではなく、アメリカ国内の憲法手続きにも違反している。なぜなら、憲法第1条で定められているように、アメリカで正式な宣戦布告の権限をもつのは連邦議会である。トランプ大統領は、今回、連邦議会の承認を得ておらず、議会も宣戦布告をしていないからだ。

 ただ、トランプ大統領は、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃を発表した際、「大規模な戦闘作戦」という表現を使った。また、トランプ政権が「8人のギャング」と呼ばれる超党派の議会指導者グループに、今回の攻撃について実施前に通知していたという。
議会の反応は、現在上下両院を掌握する与党・共和党は、概ね支持の立場だ。

 一方、野党・民主党は、議会の承認なしに戦争を始めたとして、トランプ大統領を非難している。上院軍事委員会の委員を務める同党のティム・ケイン上院議員は、今回の紛争を「トランプの違法な戦争」と呼んだ。民主党は、戦争権限決議案を議会で審議するよう改めて求めている。

 同様の決議案は昨年も提出されたが、共和党の支持が足りず可決に至らなかった。今回の決議案に支持を表明している共和党議員は、トーマス・マッシー下院議員とランド・ポール上院議員くらいしかいない(BBC NEWS、2026年3月2日)。

2.イラン攻撃の真の狙いとは何か~米・イ両国の思惑の違い

 ここで、アメリカとイスラエルのイラン攻撃の狙い・目的を考えてみる。

 まず、両国のイラン攻撃の狙いとしては、各方面から、以下のような6つの点が挙げられている。
①    核開発の完全放棄、②弾道ミサイル計画の解体、③「抵抗の枢軸」の無力化(ガザの
ハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派など)、④イラン海軍の破壊、⑤イランの石油利権の再掌握(イラン石油の8割を購入する中国の弱体化)、⑥体制転換(政権転覆)

 これらの多くの項目(⑤イランの石油利権の再掌握、を除いて)は、アメリカ以上にイスラエルにとって重大な利害関係があるものである。実際にはイランの核開発は、ハメネイ師のファトワ(イランの核武装はイスラムの教えに反するとの宗教令)もあって進んでいないのが現実である。IAEAも、今回の攻撃開始直前時点で差し迫った核兵器の脅威は存在せず、と明確にその可能性を否定していた。また、アメリカ本土に到達する弾道ミサイルの開発には少なくとも10年が必要であるとの指摘もある。現在のイランが、アメリカにとって「差し迫った脅威」とは到底いえないのである。

 また、このなかで、とくに注目されるのは、⑥の「体制転換(政権転覆)」である。トランプ大統領は、イラン攻撃の開始時に、イラン市民に対して民衆蜂起を呼び掛けて、「体制転換(政権転覆)」を促していた。ところが、最高指導者ハメネイ師と多数の政権幹部が暗殺された後もイラン指導部が徹底抗戦の構えを見せると、トランプ政権の姿勢に微妙な変化が現れた。

 イラン攻撃開始から2日後に、ヘグセス国防長官は、「これはいわゆる『体制転換の戦争』ではない」と語り、ルビオ国務長官もまた、「今回の任務の目的は、イランの弾道ミサイル能力と海軍能力の破壊だ」と述べている。これは、トランプ大統領が示した当初の方針を、ヘグセス・ルビオ両長官が軌道修正したことを意味している。

 一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、イラン国民に対して、街頭に出て現在の宗教指導者による現支配体制(イスラム共和国)を打倒するように、一貫して呼びかけ続けている。

 このアメリカとイスラエルの立場・見解のズレは、実はかなり前からあったものである。地理的に近接するイスラエルにおいて、イランに対する脅威認識はアメリカよりもはるかに強かった。イスラエルは、核協議がイランにとって有利な方向へ進展しそうになるたびに、それを阻止しようとアメリカの連邦議会や世論に「ユダヤ(イスラエル)・ロビー」を通じて強く働きかけてきた。

 一方、アメリカはこれまでの中東政策において、イスラエルの暴走ともいえる突発的な対イラン軍事行動に巻き込まれることを強く警戒してきた。昨年6月にイスラエルのイランへの単独攻撃が行われたときに、アメリカはイランの核関連施設に攻撃を行った(「12日間戦争」)。これもそれ以上のイスラエルの攻撃継続を阻むためであった。当時トランプ大統領は、アメリカによる「ミッドナイト・ハンマー(真夜中の鉄つい)作戦」が、イランの核計画を「完全に破壊した」と述べていたが、実はトランプ政権は、イラン側に核関連施設にミサイル攻撃を行うことを事前に通知していたため損害は軽微であったという。

 またイスラエルは、昨年6月の攻撃以降、弱体化したイランのハメネイ体制により重大な打撃を与える必要性をトランプ大統領に強く訴え続けてきた。そして、最終的には、核協議でアメリカが妥協することを懸念していたイスラエルに押し切られるかたちで、2月28日のアメリカとイスラエルによるイランへの共同軍事作戦(アメリカは「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」作戦、イスラエルは「ライオンズ・ロアー(獅子の雄たけび)」作戦と名付けている)を実行するに至ったのである。

 最近辞任したテロ対策センターのトップ、ジョー・ケント氏の証言「イランはアメリカにとって『差し迫った脅威ではない』、トランプ政権はイスラエルとその強力な対米ロビーの圧力によって、この戦争を始めた」もそのことをよく物語っている(BBC NEWS、2026年3月18日)。

 この決定に、トランプ大統領の義理の息子であるユダヤ人のジャレッド・クシュナー氏が深く関わっていたのではないか、との指摘や、サウジアラビアのサルマン皇太子がイスラエルのネタニヤフ首相とともに、トランプ大統領にイラン攻撃を強く働きかけていた、との報道もある(「サウジアラビアとイスラエルからの働きかけが、トランプ大統領をイラン攻撃へと動かす一因となった」『ワシントン・ポスト』(2026年2月28日))。

 このイラン攻撃に関連して、3月2日の記者会見で、マルコ・ルビオ国務長官が、アメリカがイラン攻撃に踏み切ったのは、イスラエルがイランに対し米軍への報復につながる行動を計画していたためだ、と語ったことが注目される。その翌日に、トランプ大統領はこの見方を否定し、むしろ自らがイスラエルに攻撃を促した可能性を示唆した。両氏の説明には明らかな食い違いがある。

 ルビオ国務長官の説明は、イスラエルのネタニヤフ首相がイラン攻撃を執拗にトランプ大統領に働きかけていた経緯とも符合するもので説得力がある。他方、トランプ大統領の説明にはそれを裏付ける根拠が乏しく、アメリカがイスラエルにコントロールされているとみられることを嫌ったためだと考えるのが妥当だ。最近のバーニー・サンダース氏のXでの発言「米国の多くの対中東政策はイスラエルによって決められている。戦争に行くことを決めたのはイスラエルだった。」も、このことを裏付けている。

 ここで、最初に挙げたイラン攻撃の6つの狙いの他に、イスラエルとの関係に関わるもう1つの重要な要因について触れたい。それは、この米・イスラエルのイラン攻撃と最近世界中で注目を集めているエプスタイン問題との関連だ。

 アメリカでは、今回のイラン攻撃は、いま公開されているエプスタインリストから目をそらすためではないか、との報道がされている。少女らの性的人身取引罪などで起訴され自殺したとされる米富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する捜査資料を米司法省が大量の資料を新たに公開した1月以降、エプスタイン氏との関係が暴露され、要職を辞任したり刑事捜査を受けたりする事案が相次いでいる。この「エプスタイン文書」をめぐって、トランプ氏のかなり前の少女との関係(性的暴行疑惑)も取りざたされている(【エプスタイン文書】新たな証言「トランプ氏から性的暴行」イラン戦争・キューバ崩壊発言との関係は?峯村健司氏「マイナスなニュースを打ち消す狙い」FNNプライムオンライン3/10(火))。

 もちろん、トランプ政権は、こうした疑惑を全面否定している。このエプスタイン氏はイスラエルのネタニヤフ首相やモサドとの密接な関係がある人物として知られている。たとえ、トランプ大統領の疑惑が裏付けのないものであったとしても、トランプ大統領に近い人物、たとえば、ピーター・ティール氏やスティーヴ・バノン氏らの名前もあがっている。トランプ大統領が今回のイラン攻撃開始の決断をするにあたって、この問題が何らかの影響を与えた可能性の有無については、今後も真相解明が求められることは間違いない。

(つづく)

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