イラン攻撃で世界秩序は変わるか(9)隠される真実~いま何が起こっているのか?~(後)
鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗
2月28日にアメリカとイスラエルがイラン攻撃を行った。それからすでに3週間近くが過ぎても戦争の終結は見通せていない。
今回のブログ記事では、現時点で、昨年6月のイラン攻撃(12日間戦争)に続く、この米国・イスラエル両国の共同作戦によるイラン攻撃の狙いと背景を改めて考えてみたい。
3.今後のイラン情勢の展開と日本の対応をめぐって
(1)現在の戦況とメディアの偏向報道
現在の戦況については、西側諸国の主流メディアの報道では、イランとの間には戦力的に大きな格差があり、米国・イスラエル側が圧倒的優位に立っている、という。しかし、はたして本当にそうであろうか。
米国とイスラエルが、大規模な攻撃を通じてイランの軍事力に大きな打撃を与えているのはたしかであろう。米国はイラン国内の7,000以上の標的、イスラエルはさらに8,000の標的を攻撃した。 開戦から3週間足らずでイランの1万5,000の標的が破壊されたという。
しかし、イランは、戦争開始以来、数百発の弾道ミサイルと巡航ミサイル、数千機のドローンを発射して米国・イスラエル連合軍に反撃・対抗した。これまでに、中東湾岸諸国(7カ国)に駐留する米兵200人以上が負傷したと伝えられている。
また、イスラエルも、イランのドローン・ミサイル攻撃を防空網システム(アイアンドーム)でも完全には防ぐことができず、テルアビブを含む各地で多くの損害が出ている模様である(死傷者などの詳細は、現在に至るまで正式に発表されておらず不明)。イランは依然として、米・イスラエル側の迎撃ミサイルの何分の一かの費用で済む安価なドローンなどで、湾岸7カ国の米軍部隊を攻撃できる態勢を維持し続けている。
その後、米・イスラエル連合軍とイラン軍の双方は激しい応戦・抗戦を繰り返しており、戦争の終わりは見えていない。イラン戦争の現状は、「出口なき泥沼化」の様相を示している。
(2)「体制転換」の失敗~地上軍の投入はあるのか 米軍の増強
それでは、実際には、どちらの側が追い込まれているのであろうか。トランプ大統領は、開戦当初にイラン国民に対して現体制に対する蜂起を促していた。また、イスラエルのネタニヤフ首相は、これまで一貫して、イランの「体制転換」が最大の狙いであることを表明し続けてきた。
これに対してイラン側は、開戦直後に米国・イスラエル連合軍によって行われた攻撃で、最高指導者ハメネイ師を含む多くの政権幹部を失った。しかしイランは、最高指導者にモジタバ・ハメネイ師(ハメネイ師の次男)を選出して新指導部を早々に発足させた。その新指導部は、トランプ米政権が要求する無条件降伏を拒み、「殉教者の復讐」として戦争継続を宣言した。
さらに、3月17日のイラン南部の小学校空爆で175人の女児が犠牲となった(第二次攻撃も行われており、古い地図を用いたための「誤爆」との米軍の説明ははなはだ疑わしい)。この出来事によって、ハメネイ師暗殺に強く反発していたイラン国民は、より結束を強めることになった。
そして、イラン側は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖や一部の湾岸諸国の米国・イスラエルの軍事・諜報関連施設への攻撃などさらに戦闘範囲を広げており、最後まで徹底抗戦をする構えを崩していない。イラン戦争は、開戦から3週間経過した現在、当初の短期決戦から長期消耗戦へ移行しつつある。
こうした経緯を結果的に見れば、米国・イスラエル両国が狙った「体制転換」は明らかに失敗であったといえよう。また、現時点ではアメリカ側の「出口戦略」が見えておらず、追いつめられているのはイラン側ではなく、米国・イスラエル側ではないか、との見方も出始めている。その1つの根拠が、米国・イスラエル側のミサイル・弾薬不足であることはたしかである。
なぜなら、イラン側が「徹底抗戦」の構えを崩していない一方で、アメリカ側はホルムズ海峡の封鎖を解除するための海上警護活動や地上軍投入についても明確な見通しをもてないだけでなく、イスラエルとの間の戦争目的のズレも現れてきているからである。
イスラエルは、アメリカの反対を押し切ってイランの石油関連施設への攻撃を行ったばかりでなく、サウジアラビアやカタールなど湾岸諸国の石油関連施設にも密かに攻撃を仕掛けている。この攻撃は、イランの仕業に見せかける「偽旗作戦」の可能性もある(タッカー・カールソンによると、サウジアラビアとカタールでイスラエルの情報機関モサドの工作員が逮捕されたという。その工作員は両国で爆破を計画、つまり偽旗作戦を実行しようとしていた可能性がある(櫻井ジャーナル、2026年3月9日)。
また、イスラエルはイランだけでなく、パレスチナ(ガザ、ヨルダン川側西岸への空爆の継続)やレバノン(激しい空爆と地上軍侵攻)へも容赦ない攻撃を行っている。イスラエルの目的は、あくまでもイランの「体制転換」を含む「グレーター・イスラエル」の実現にあり、意図的に戦争の長期化・泥沼化を狙ってアメリカに対してイランへの地上軍投入を強く迫っている。
それに対して、アメリカは、イランの石油資源支配が最優先目的であり、すでに「体制転換」は不可能とみて、本格的な地上軍投入にも消極的である(すでに、米軍デルタフォースがイラン侵入を試みて失敗した、との指摘もある)。ホルムズ海峡の封鎖解除のための海上警備行動への同盟国(ドイツ・フランス・イギリス・韓国・日本など)への呼びかけも空振りに終わっている。
以上のような状況を見れば、現段階で追いつめられているのはイランではなく、米国・イスラエル側である。米国・イスラエルはイランに敗北しつつあることは間違いない。イラン攻撃開戦前にヴァンス副大統領やケイン統合参謀本部議長が懸念していたことがまさに現実となったといえよう。トランプ大統領が開戦当初に、ベネズエラ攻撃の「成功」を念頭に「傀儡政権で早期解決」は完全に目算が狂った。イラン戦争は、いまや「出口戦略なき(終わりのない戦争)」となりつつあり、トランプ大統領は今年11月に予定されている中間選挙への悪影響を恐れ始めている。
ここで懸念されるのは、追いつめられたイスラエルが米国内でテロ活動を行ってイラン側の仕業にみせかける新たな偽旗作戦を実施する、あるいはイランに対する核兵器使用や原発攻撃の可能性があることである。(これらの問題については、以下の動画・記事を参照:「米国イスラエルによる対イラン偽旗作戦」NO WAR 2026 2026年3月9日 15時04分、Unfiltered01 | 元米国警察官 永田有理 「大変なことになりました」、
ジェフリー・サックス:「イラン戦争が核戦争に発展する危険性」)。
(※イスラエル軍は、イランの治安責任者であるアリ・ラリジャニ氏を先日殺害したが、これは彼が、アメリカ本土でイランに責任を押しつける予定の偽旗攻撃について警告したわずか1日後の出来事であった)
(3)国際社会の対応とアメリカの孤立~日本はいかに対応すべきなのか~
国連安全保障理事会(以下、安保理)は3月11日、米国とイスラエルによるイラン攻撃への報復として、イランが近隣諸国に行った攻撃を非難する決議案を採択した。全15理事国のうち13国が賛成し、ロシアと中国は棄権した。
この決議案は、バーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など湾岸諸国やヨルダンへの攻撃を「強く非難」し、攻撃の即時停止を要求している。「ホルムズ海峡を航行する商船への攻撃や威嚇」も非難し、航行の安全確保を求めた。決議を強く支持する共同提案国は135国超に上った。米国とイスラエルによる攻撃についての文言は盛り込まれなかった(「読売新聞オンライン」2026/03/12)。
このときの安保理で、中露両国の国連大使は「紛争の根本原因は米国とイスラエルの攻撃だ」と批判したものの、決議案の採択には戦争の拡大・長期化と世界経済への悪影響を恐れたか、反対することはなかった。イランのイラバニ国連大使は、周辺国への攻撃は「米軍の基地や施設を標的とした」と強調し、ホルムズ海峡については「イランが海峡を封鎖したという主張は虚偽だ」と述べたという。
このホルムズ海峡の封鎖では、イランが機雷を設置したという明確な情報はないが、通過するタンカー・貨物船への攻撃が行われていて事実上のイラン側(とくに、革命防衛隊)がコントロールしていることは事実である(後日、革命防衛隊のホセイン元司令官が機雷を設置していないと安保理で明言したのは、海面に浮く「浮遊機雷」のことで、「上昇機雷」はすでにホルムズ海峡に設置していると明らかにしている)。
一方、トランプ大統領は3月15日、イランが事実上封鎖しているホルムズ海峡の「開放、安全、自由」を確保するため、中国、フランス、日本、韓国、英国を含む約7カ国に護衛艦船の派遣を要請した。しかし、このアメリカが呼び掛けた艦船派遣の要請に積極的に対応する国が見つからずに数日で撤回する事態に追い込まれた。ここでも、国際社会でのアメリカの国際的孤立、NATO諸国の「アメリカ離れ」が顕著となった。
このトランプ大統領の艦船派遣要請に対して、3月19日に日米首脳会談を控えている高市首相は、当初はできるだけその要請と期待に沿うように、「存立危機事態」の検討や「国会承認」を示唆するなど積極的に応じる姿勢を見せていた。しかし、国内世論の82%がイラン攻撃に反対という圧力や憲法をはじめとする法律上の壁もあって板挟みになっていた。イラン側が米国・イスラエル関連の船舶のみ封鎖の対象とする声明を出したことやアメリカ側が艦船派遣の要請を取り消したためもあって、結果的に窮地を脱することになった。
しかし、今回のイラン戦争の影響、とくにホルムズ海峡の事実上の閉鎖が、日本を含む世界経済に与えた影響は非常に大きなものとなっている。日本でもウクライナ戦争に加えてイラン戦争の二重の影響が、すでに石油・天然ガス高による物価上昇(たとえば、ガソリン代が190円前後)というかたちで表れており、日本国民の生活苦はますます強まっている。この先、イラン戦争が最悪の場合数カ月以上続くならば、日本経済はさらなる大きな打撃を受けることは必至である。
3月19日の日米首脳会談では、トランプ大統領からイラン戦争の戦費の一部負担や戦後の日本の掃海艇派遣などの難題が押し付けられる可能性がある。日本はすでに横須賀基地所属のイージス艦2隻がアメリカのイラン攻撃に参加していたことや米国防総省が、沖縄県に駐留する海兵隊の即応部隊、「第31海兵遠征部隊」と、長崎県の佐世保基地に配備されている強襲揚陸艦「トリポリ」を中東に派遣することを決定したことも判明している。このことで、沖縄を含む日本が報復拠点として湾岸諸国と同様にイラン側の標的になる可能性が出てきているのは間違いない。
イラン側の警告がそれを示している。革命防衛隊元司令官のホセイン・カナニマガディム氏が3月15日に、「日本はイランの友だちです。しかし、もし日本にある米軍基地がイラン攻撃のために利用されているとの情報を得た場合には、アラブ諸国と同様に在日米軍基地を攻撃しますし、日本の船舶もホルムズ海峡を通過できません。現時点では、日本がイランの敵であるとの結論には至っていません」と述べているからだ(YAHOO!JAPAN 3/15(日)【独自】「日本の船狙われる可能性」イラン元司令官警告 機雷は“ホルムズ”海底に)。
イランをめぐる戦況と政治情勢は、日々めまぐるしく動いている。アメリカ側はイランの「無条件降伏」、イスラエル側はイランの「体制転換」を求める一方で、イラン側は「戦争がいつ終わるかを決めるのはイランだ」との強気の姿勢を崩していない。そうしたなかで、イランのモジタバ師負傷の情報だけでなく、イスラエルのネタニヤフ首相死亡説やトランプ米大統領の暗殺計画なども出てきており、イラン情勢はますます混迷を深めている。
高市首相と日本政府は、いつまでもアメリカの「(誤った)違法な戦争」にこれ以上曖昧な対応を続けるべきではない。今回のイラン戦争にアメリカの多くの同盟国の首脳(スペインのサンチェス首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのメローニ首相、トルコのエルドアン首相、カナダのカーニー首相など)が反対してアメリカへの戦争協力を拒否している(たとえば、米国・イスラエルを痛烈に批判しているサンチェス首相の映像を参照:スペイン首相、米・イスラエルのイラン攻撃を痛烈批判 「国際法に立つこと」重要。いまNATOが分裂・解体の危機にあるという現状を直視すべきである。
日本が取るべき道は、米国・イスラエルのイラン戦争への明確な反対(自衛隊派遣の拒否を含む)と戦争当事者への即時停戦の呼びかけである。3月19日の日米首脳会談において、日本の高市首相にそのことを求めたいと願っているのは私だけでないと思う。
☆(学カフェ・上野康弘)【時代の奔流を読む】2026年3月4日:イラン戦争を緊急解説 木村朗(ISF独立言論フォーラム編集長/鹿児島大学名誉教授)
☆出口戦略なきイラン攻撃~窮地にある米国とイスラエル~:乗松聡子さん(ジャーナリスト、カナダ・バンクーバ在住)木村朗(ISF独立言論フォーラム編集長)収録2026年3月8日
☆【櫻井ジャーナル】2026.03.13XML : トランプ大統領に対イラン戦争を実行させた勢力が偽旗作戦を実行する可能性
☆【櫻井ジャーナル】2026.03.15XML : トランプ大統領は幻影で人びとを操っているのか、自らが幻影に操られているのか
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2026年3月14日):ロシアの専門家たちは、今回のイラン攻撃が中東で過去最大規模の地域戦争を引き起こす可能性があると警告している
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2026年3月8日):フョードル・ルキャノフ:なぜイラン戦争は、世界の秩序を根本的に変える出来事なのか。
(了)








