「日経新聞が『IR誘致レース再開 2027年に“残り2枠”公募』という記事を3月11日に出した。(各地の自治体間で)誘致レース再開の号砲が鳴ったということです」
こう切り出したのは、IR(カジノ)問題に詳しい鳥畑与一・静岡大名誉教授。カジノ反対の全国交流集会が3月14日に大阪で開かれ、「オンラインギャンブル蔓延下における日本・大阪IRの危険性」と銘打った講演を鳥畑氏がしたときのことだ。
冒頭で鳥畑氏はまずIR(カジノ)をめぐる最近の動向を説明した。
「追加募集が2027年から開始され、それに向けて国・観光庁は一昨年に『IRに関する意向調査』を自治体に送ったところ、東京と北海道が『関心あり』と回答。今年に入ると、愛知県も(2月に)手を挙げた」
愛知県の候補地は中部国際空港の隣接地(約50ha)。すでに愛知県国際展示場があるものの稼働率が低く、その打開策としてIR(カジノ)誘致を打ち出したようだ。
意向調査で「関心あり」と答えた東京都の小池百合子知事は、国会議員時代にカジノ議連のメンバーだった。都は誘致表明はしていないが、検討は継続しており、いつでも誘致表明可能な状態と見られている。
「誘致に前のめり」と鳥畑氏が指摘するのは北海道。苫小牧市が名乗りを上げるなか、道庁も乗り気で有識者懇談会がすでに開かれている。なお鈴木直道知事は、カジノ推進派で有名な菅義偉元首相が支援して19年の知事選で初当選した。次点の故・石川知裕・元衆院議員がカジノ反対を明言したとは対照的に、菅チルドレンの鈴木氏は賛否不明瞭だった。当時から隠れカジノ推進派と見られていたが、ついに本性を現したようなのだ(19年3月25日の本誌記事「【北海道知事選2019】官邸vs北海道『独立宣言』の構図鮮明」を参照)。
そんな北海道の有識者懇談会でも懸念の声が出ていた。「IR内のカジノだけが本当に収益性を確保できるのか」「オンラインカジノの市場拡大期に、IRカジノで新規需要を生み出せるのか」というものだ。
同じ懸念は、すでに動き出している大阪IR(大阪湾の人工島「夢洲」で工事中)にも当てはまる。オンラインカジノ拡大で、地上型カジノの需要が先細りするのではないかということだ。
悪いことは重なるもので、建設費や人件費の増加で大阪IRの工事費も1兆800億円から1兆2,700億円に上振れし、「早苗ショック」(高市首相の国会答弁で日中関係悪化)によって中国人観光客減少が長期化する恐れもある。こうした要因が重なり、大阪IRの収益性が悪化する可能性は十分にあるに違いない。こうした事態に事業者のMGMがどう対応するのか。オンラインカジノ許容の要望へと動いているのではないか、と鳥畑氏は推測していた。
注目したのは、観光庁が昨年12月に行った、IR追加募集に向けた政令改正のための意見募集。寄せられ、公表された意見のなかに「認定された実店舗型IRの設置運営事業者に対し、適切な規制および依存症対策の下でオンラインゲーミング(インターネットカジノ)を許容する枠組みの検討を提案」があったことだ。鳥畑氏はこう推測した。
「誰がこういう意見を言ったのかは分からないが、私の想像力でいうと、MGMあたりが言っているのではないかと思ったりする」
要するに、日本で唯一認定された大阪夢洲での実店舗型IRの事業者(MGM)にオンラインカジノを許容してほしいと読み取れるのだ。
続いて鳥畑氏は、MGMが急速に“オンラインカジノ企業化”していることも指摘。オンラインカジノ会社の買収を進め、儲けの3割がオンラインカジノになっているというのだ。
そして実店舗型(地上型)カジノとオンラインカジノが連動している実態も鳥畑氏は紹介。口座をつくれば、どこにいてもオンラインカジノをすることができ、そこで得られるポイントはラスベガスなど実店舗型カジノでも使えるというのだ。
「オンラインカジノで得られるポイントでラスベガスを訪ねておいしい料理をただで食べたり、(割引で)安いホテルに泊まったりすることができる」(鳥畑氏)。
オンラインカジノではAIが活用されてもいると鳥畑氏は警告する。
「オンラインカジノが怖いのはオンラインだから、どういうギャンブルでいくら賭けて、どれぐらいの時間やって、どれぐらい勝ったり負けたりしたのかという情報が、デジタル情報で全部分かってしまう。いわゆるビッグデータです。それを会社側が分析して、この人はこういう性格でこういうギャンブルが好きで、こういうふうにするとハマってしまうということが分かってしまう。とにかく勝たせる経験をさせて夢中にさせて、やめるにやめられない状態に誘導していくことをいまAIがやるようになった。(キャバ嬢やホストのように)1人ひとりにAIが寄り添って面倒を見てくれる。AIによって勝たせる経験をさせる。最終的にハマらせて大負けさせるようにアルゴリズムが設定されているが、そこに誘導する過程で短期的には勝つ確率を調整(増減)させる。いわゆるビギナーズラックは、演出できるようになってきているのです」
悪夢の近未来図が目に浮かぶではないか。IRの事業者にオンラインカジノが許容され、AIが駆使されるなかでギャンブル依存症患者が急増していくというものだ。IR誘致レース再開で残り2枠がどの地域になるのかも一大関心事だが、より重要なのは拡大中のオンラインカジノが設置事業者に許容されるのか否かということだ。今後、激化していくのが確実なカジノ推進派と反対派の攻防から目が離せない。

【ジャーナリスト/横田一】








