中国経済新聞 2026年3月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。
「第15次5カ年計画」の1年目となる2026年の中国全人代は、世界から注目されるものだった。国務院の李強首相は3月5日の政府活動報告で、「経済成長に向けて実体経済に力を入れ、地域に合ったかたちで新たな質の生産力を伸ばし、近代的な産業体系を整備していかなくてはならない」と強調した。これは過去1年間の経済政策をまとめたもので、さらには向こう5年間、あるいはそれ以降の産業発展への青写真でもある。本稿では、全人代の内容を基にこれらの新産業の方向性を分析し、その中身や道筋、意義を探り、トータル的な視野で解読していく。
「新たな質の生産力」という概念は、習近平総書記が2023年9月に黒竜江省を視察した際に主張した内容から生まれたものだ。習総書記は、「イノベーションを主軸に従来型の経済成長を脱却した生産力のかたちであり、ハイテクで高機能、ハイクオリティーで、新しい発展理念にふさわしいものだ」と語った。2024年に初めて政府活動報告に盛り込まれ、各地で取り組みが進んでいった。2026年の全人代ではこの理念がさらに掘り下げられ、従来型の産業の高度化、新興産業の強大化、今後の産業配置、そしてサービス業と合わせた成長やスマート経済という新たなかたちの整備といった具合に、系統的な新産業の方向性が示された。これらは国内外の複雑な経済環境を見据えたものであり、さらに技術力の強化を通じて世界の産業競争における地位の向上が狙いである。
従来型産業の高度化:「主体」から「主力」への改革
これまでの政府活動報告では、新興産業や次世代産業をまず強調していたが、2026年は従来型の産業の高度化を第一に据えており、実体経済の土台を重視する姿勢が見えている。工業情報化省のトップである李楽成氏は以前、「従来型の産業は製造業の生産額や従事者数の80%前後を占めており、産業体系の主力だ」と指摘していた。全人代では、従来型の産業を技術改良やデジタル化により奮起させ、近代的な産業体系の主力としていくと強調している。
まずは、重点産業をグレードアップしていく。報告では、主な技術の改良や高度化への事業を今後着実に実行し、大規模な設備の更新へ2,000億元(約4兆6,290億円)以上の長期特別国債資金を用意する。これは従来型の産業における設備の老朽化や低水準な技術への対策で、産業チェーンをより高いレベルへ引き上げることが狙いである。たとえば製造業では、産業基盤の立て直しや主要技術、装備への取り組みを強化し、先進的な産業クラスターを築き上げる。対象となる業種は鉄鋼、化学、繊維など従来型の有力産業であり、イノベーションにより競争力を伸ばしていく。
次に、包括的な「上雲・用数・賦智」サービスを実行する。これは全人代の目玉の1つであり、デジタル化が進まない中小企業を対象にクラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIでサポートしていくものである。「上雲」とは包括的なクラウドサービスの実施であり、企業が低コストでIT資源を使えるようにすること、「用数」はビッグデータとの統合活用を強調しており、業務プロセスでデータを共有すること、そして「賦智」はAIと実体経済をさらに統合して企業のスマート化を支えることである。これらは「金銭面などの理由で改革に踏み切れない」といった中小企業の問題に対応し、従来型産業のデジタル化を後押しするものだ。
活動報告ではまた、スマート製造の拡大、スマート工場やスマートサプライチェーンを整備し、スマート建設を発展させて近代的な建設産業チェーンを築く、と示されている。
このほか、規格の向上や品質管理を強化する。全人代では、規格の整備を急ぎ、良質で特色のある製品を企業に与える、と強調している。ブランド化や品質向上によって従来型産業の国際競争力を高めるものである。まとめていうと、従来型産業の高度化は「規模の拡張」から「品質向上」へシフトし、新たな質の生産力へ根本的な力を注ぐ。「第15次5カ年計画」期間中は、こうした方針が主な事業でかなりの重みを占め、80%という従来型産業の割合が高機能型へ改革する方向へ進むと見られる。
新興産業のさらなる育成:ハードテクノロジーを主力に
全人代の活動報告における新興産業について、産業のイノベーションを進め、政府系や国営の企業が率先して利用の場を広げ、集積回路や航空宇宙、バイオ医薬、低空経済といった主力業種を形成するとの方針が打ち出された。2025年と比べて集積回路とバイオ医薬の追加が強調されたことが話題となっており、「基幹部分」に重点的に取り組む姿勢が出ている。
半導体産業の核心で戦略的なテクノロジー分野と見られる集積回路については、基幹技術を強化し、半導体の設計や製造、パッケージまでトータルで成長させると強調している。ハードテクノロジーについては2025年半ばごろから上場ラッシュとなり、集積回路も投資が盛んになっている。全人代では、テクノロジー企業上場への出資へ「優先ルート」を常設して、さらにスピードを上げるよう示されている。
航空宇宙や低空経済については、2025年の宇宙ビジネスや低空経済などを延伸するよう書かれている。低空経済とはドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などが物流や都市交通などでの利用拡大を進めており、製造業と一体化して電池や素材など産業チェーンの改善につながっていく。バイオ医薬は新薬の開発や高価な医療機器を軸に成果をもたらし、高齢化社会や「健康中国」への取り組みに対応させるよう強調している。
新興産業については「利用の場で誘導」とし、国営企業が広く利用するかたちで企業のイノベーション力を刺激すると強調している。たとえば中高年の介護や冬場のレジャーといった消費の場で、バイオ医薬や低空経済の成長をもたらすかたちである。全人代ではまた、利用の場の拡大を訴え、製造業とサービス業を一体化して新興産業が「技術開発」から「大規模な利用」へと改革するよう示している。単なる内需拡大ではなく、産業全体を整備していくことである。新興産業は「第15次5カ年計画」の終わりまでに生産割合を大きく引き上げ、経済成長をけん引する存在になると予測されている。
今後の産業配置:将来を見据えてフロンティア技術に注力
全人代の報告でもう1つの焦点は次世代産業であり、投資・成長とリスク分担という仕組みを設け、次世代エネルギーや量子技術、人型ロボット、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)、6Gなどを伸ばしていくと強調している。2025年と比べると次世代エネルギーとBMIが加わり、エネルギー改革や人とマシンの提携を重視していることが分かる。
次世代エネルギーとは、水素や核融合など、脱炭素化に向けてのクリーンエネルギーを指す。また量子技術と6Gは通信とコンピューター革命をにらんだもので、量子技術は量子コンピューティングや量子通信での利用を意味し、6Gは高速で遅延の少ないネットワークの時代の前触れである。また人型ロボットとBMIはAIと生物の一体化を意味し、人型ロボットは知覚や行動力を備えたロボット、BMIはNeuralinkの技術のように医療や拡張現実に使われる。
全人代ではデータや予算、人材の投資への道筋を整えるよう求めている。データ資源の開発を深め、データの財産権や流通、取引制度を利用し、「寛容資本」を増やして起業への投資規制を緩和する。また人材をイノベーション力やクオリティー、効果、貢献度を目安として評価する制度を整える。これは次世代産業のハイリスクを分散し、長期的に力を入れるためのものである。
「第15次5カ年計画」のガイドラインでは、主要事業のなかで次世代産業の占める割合を25.69%としており、取り組みの決意がうかがえる。こうした方針は「将来性」を強調しており、フロンティア技術を高めることで世界的な地位を奪う。次世代産業はすぐに貢献できるものではないが、産業の枠組みを改めて新しい質の生産力向上を後押しするものである。
サービス業との提携による成長:「補充」から「提携」へ格上げ
2026年の活動報告は初めてサービス業の地位を強調しており、先進製造業と近代サービス業の提携による成長を一段と探り、技術サービス、金融、近代的物流など生産性サービス業を拡大し、参入規制を適度に緩和するよう求めている。サービス業が経済の「補充」から「提携推進」へ変わることを意味するものである。
生産性サービス業とは技術サービス、情報サービス、知的財産権などであり、刺激効果により製造業の改革や格上げをもたらす。たとえば、技術サービスは市場が大きく、開発事業者や検査・測定が存在し、新興産業のイノベーションを支える。また生活性サービス業は製造業へ利用の場を提供し、文化・観光やリハビリなどの場で端末需要が発生する。
全人代では、主力分野でサービス業の投資を拡大し、業種間で連携するよう強調している。これはデジタル経済との結び付きであり、GDPにおける主力デジタル事業者の生産額割合を12.5%とする。こうしたサービス業の連携という方針は産業構造のバランス化につながり、全体効率が改善する。
スマート経済の新たな形:「AI+」の拡大
政府活動報告の新たな内容として、「スマート経済の新たなかたちをつくる」という部分がある。「AI+」というかたちで、次世代型の端末やエージェントを普及させ、主力業種でAIのビジネス利用を推進し、AIを軸とした新たな業種を育成するとのことである。
スマート経済とは人とマシンの協調や生産モデルの改革などを指し、業種の垣根を越えて新たな価値を生み出し、データとプラットフォームを基本リソースとする。中国はAI産業の規模が9,000億元(約20兆8,318億円)以上、企業数は5,300社以上である。全人代では演算力、ネットワーク、データセンターの整備など、インフラの成長を強調している。
こうした方針でAIは「ツール」から「経済の形」へと格が上がり、コネクテッドカーや知的ロボットなどの末端部分や、診療や教育の場などでも活用される。スマート経済は産業の仕組みを改め、質の高い成長をもたらす。
全人代ではまた、基礎イノベーションの向上に力を入れ、技術と産業の提携を推進し、教育・技術・人材を一体的に向上させるなど、自主イノベーション力の全面的な強化を強調している。「第15次5カ年計画」期間中は研究開発費を年平均で7%以上増加させ、集積回路や工作機械など「基幹部分」に焦点をあてる。広発証券のチーフエコノミスト・郭氏は、「第15次5カ年計画では主力分野でコントロールが利くようになる」と指摘している。
こうした技術革新の方針は、産業の成長を支えるもので、地域の仕組みの整備や規格の整備により提携が進む。全人代で掲げられた新産業の成長方針は、従来型の産業の改善から次世代産業の配置、さらにスマート経済の構築まで、形が整っている。「第15次5カ年計画」を展望すると、この方針は中国経済の質の高い発展を後押しするが、課題は実行面にあり、さらなる政策との協調や市場の活力が必要となる。
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