企業研究・LIXILグループ(前)~「プロ経営者」藤森義明社長を電撃解任した創業家の潮田洋一郎氏
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住宅設備機器最大手、(株)LIXILグループの藤森義明社長兼CEO(最高経営責任者)(64)が、2015年12月21日、電撃退任した。16年6月の株主総会における承認を得て、相談役に退く。後任には、工具通販の(株)MonotaRO(モノタロウ)の瀬戸欣哉会長(55)が就く。創業家の潮田洋一郎氏(62)による、事実上の解任である。LIXILグループはどこへ行くのか――。
スター経営者を解任した2つの理由
「ガバナンスというのは、トップを辞めさせるかどうかだ」。
LIXILグールプ(以下・リクシル)の潮田洋一郎・取締役会議長の言葉である。トップの選任・解任を決めるのが自分の仕事だ、という意味だ。潮田氏は、その言葉を実践した。日本経済新聞(15年12月23日付朝刊)のインタビューで、三顧の礼で迎えた「プロ経営者」藤森義明氏を更迭した理由を語っている。
「2年前から指名委員会で5~6人の候補者と面談を重ねてきた。65歳の執行役員の定年、瀬戸氏の状況などを考えて、今が一番のタイミングだと判断した。決断したなら早い方がいいと、(事業会社LIXIL社長CEO)1月の瀬戸氏の招聘を決めたのは藤森氏だ」。「瀬戸氏の招聘を決めたのは藤森氏だ」というのは、藤森氏を傷つけないための付け足しでしかない。潮田発言のポイントは2点。1つは「(トップ交代は)今が一番のタイミングだと判断した」こと。2つは「(社長交代は)2年前から準備をしてきた」こと。
今がタイミングということは、言うまでもなく、M&A(合併・買収)の失敗。独水栓金具のグローエ買収にともなって傘下に収めた、中国の水栓金具メーカ・ジョウユウの粉飾決算だ。創業者の蔡親子による巨額の簿外債務が発覚。上場していたドイツで15年5月に破産処理を行い、リクシルは660億円の損失を被った。
ジョウユウは、そもそも先進国の会計が通用しない、まがいものの会社だ。買収してはいけなかった会社を買収してしまった。M&Aのプロの看板が泣く大失態だ。経営責任を問われて、辞任に追い込まれた。このことは誰でも理解できる。社長交代、2年前から準備
筆者が仰天したのは、「(社長交代は)2年前から準備していた」という発言である。2年前とは13年。藤森義明氏が社長に就任したのは11年8月だから、2年しか経っていない。自ら招聘したプロ経営者に、早々と見切りをつけたのだ。
潮田洋一郎氏が気まぐれなのは、広く知られているが、馬を乗り換えるのは、いささか早すぎはしないか――。13年に何があったのか。時間の針を巻き戻してみよう。超ドメステック(内需型)企業からグローバル企業へシフト――。大変革を担ったのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の副社長を務めた藤森義明氏だった。
「3年で結果を出せなければ、5年やっても同じ」と藤森氏は、グローバル視点に基づくスピード経営が信条である。積極的なM&Aを繰り広げる。
11年8月に社長に就いた藤森氏は、ただちに海外企業の買収を手がけた。11年11月に、イタリアのカーテンウォール(外壁材)大手ペルマスティリーザを580億円で買収した。カーテンウォールとは、総ガラス張りの高層ビルなどに使われる外壁材のこと。13年はM&A攻勢が全開した。13年8月、米衛生陶器最大手のアメリカンスタンダード(ASB)を531億円で買収して、完全子会社化した。ASBの買収により北米シェアは21%と、売上高がほぼゼロという状況から一気にトップに立った。
13年9月には、ドイツの浴室やキッチンの水洗金具の欧州最大手グローエを日本政策投資銀行と共同で買収すると発表した。同社の水洗金具は、世界の高級ホテルで採用されるなど高いブランド力を持つ。買収総額は負債の承継分も含めて3,816億円にのぼる。事業拡大は、海外だけにとどまらない。国内でも矢継ぎ早に資本・業務提携を打ち出した。
13年9月、家電量販店3位のエディオンが発行する新株を引き受けて、8.0%を保有する筆頭株主になった。投資額は48億円。共同でリフォーム事業を推進する。同年9月には、経営再建中の電機メーカー、シャープの第三者割当増資を引き受けて、50億円を出資した。藤森氏は、5カ年中期計画で掲げた売上高3兆円(13年3月期の実績は1兆4,363億円)の達成に向けて、飽くなきM&Aに突き進む。最大の目標は、海外売上高1兆円の達成である。
海外の大型買収で、売上高1兆円は見えてきた。海外の大型M&Aは「小休止」して、買収先との相乗効果を引き出す。15年3月期以降に、1,000億円規模のコスト削減に取り組む。国内売上高は、目標の2兆円は現在の延長線上では厳しく、さらなる買収を検討している。そう明言していたのが、13年だった。顧客とのコミュニケーションなし
海外M&Aが全開していた13年に、潮田氏は社長交代を考えるようになった。藤森氏の経営手法が、あまりにリスクが高すぎると考えたということだろうか。日経のインタビューで、藤森氏の経営をこう採点している。
「グローバル化は100点。インテグレーション(統合)もほぼ満点。(工務店など)お客様ともっと話していれば、コミュニケーションも満点だった」。
この言葉に、潮田氏が藤森氏の更迭を決断した理由が語られている。前段は藤森氏に対するリップサービスであろう。言わんとしているのは後段。「工務店などのお客様ともっと話していれば」というくだりだ。
思い当たるフシがある。15年4月1日、藤森義明氏は「変革の新たなステージ」の到来を高らかに宣言した。リクシルグループは、建材・設備機器会社からテクノロジー会社を謳う新体制に移行した。相次ぐ買収で重複した事業を、世界共通の事業として、水回り、ハウジング、ビル建材、キッチンの4事業に再編した。
ただし、5つ目の組織である国内の販売を担うジャパンカンパニーだけは、国内に閉じる。豪腕で知られる藤森氏も、さすがに国内の販売に踏み込めなかった。住宅・設備業界は、特約店や問屋など流通業者の影響力が強い。建築会社や工務店は、最大の顧客である。彼らにそっぽを向かれたなと思った。これと潮田氏の発言を重ねると、こう理解できる。問屋や工務店など全国の取引先を回ってコミュニケーションを図ることなく、上から目線で一方的に方針を押しつける藤森流に、取引先はかなり不満が溜まっていたということだ。潮田氏が藤森氏を更迭した、大きな理由だろう。
(つづく)
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