NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、9月25日付の記事を紹介する。
日本のデータセンター(DC)市場は、2020年代後半から30年にかけて「生成AIの普及」と「地方分散政策」によって空前の拡大期を迎えています。特に、関東や関西の都市部で電力や土地が飽和したことを受け、外資系ビッグテックや外資系DC事業者を地元に呼び込もうとする地方自治体の「誘致の狙い」と「具体的な手段」は多岐に渡るようになりました。
人口減少や産業の衰退に悩む地方自治体にとって、DCは財政を劇的に潤す救世主です。AI用DCは建物だけでなく、中に並ぶサーバー機器や空調設備、非常用発電機が数千億円〜兆円規模と非常に高額なため、これらがすべて固定資産税の課税対象となり、自治体には毎年数億〜数十億円の税収が数十年間にわたって転がり込むようになるからです。
外資系DCが地方に進出する際、その地域には超大容量の電力網と、世界最高速レベルの光ファイバー回線が整備されます。自治体にとっては、自腹を切ることなく最新の高速通信・電力インフラを地域に引き込めるため、地元のITベンチャーの育成や、他のハイテク工場の呼び水にすることができるという算段です。
稼働後の雇用は数十人程度と少ないものの、数年に及ぶ建設期間中には膨大な下請け工事や作業員の宿泊・飲食需要が発生し、地元経済が大きく潤うことは請け合いです。また、外資系DCが持つ堅牢な防災機能や非常用発電機、余った「排熱」を地域の融雪や温水プールに融通させることで、住民向けの行政サービスの質を向上させる可能性もあります。
要は、外資系企業は日本国内で「再エネ100%」「広大な土地」「高速な回線」を求めているため、自治体はこれらを満たすため、行政権限をフルに活用した手段を提供しようと目論んでいるわけです。
多くの誘致自治体(例:北海道の石狩市・苫小牧市、九州の福岡県・熊本県など)は、投資額や購入電力量に応じて、数十億円規模の「立地補助金」を交付する制度を整えています。更に、進出後数年間は固定資産税や都市計画税を完全に免除、あるいは半額にするという破格の税制優遇措置をパッケージで提示する構えです。
外資にとって日本の「農地法」や「都市計画法」の規制は複雑で、土地の買収が最大のハードルです。自治体は、市有地や工業団地をDC専用にスピード造成するだけでなく、行政自らが規制緩和や用途変更の手続きを代行するようになりました。また、電力会社との大容量電力の確保交渉を自治体がハブとなって仲介する「ワンストップ支援窓口」を設置しているケースも急増中です。
しかし、「稼働後に雇用が生まれない点」や「周辺住民との騒音・水・電気をめぐる摩擦」という副作用も浮き彫りになっており、現在の自治体は、ただ歓迎するだけでなく「いかに地域住民への還元と環境配慮を外資側に約束させるか」という、高度な交渉術を求められるフェーズに移っています。ちなみに、国内で外資系・国内大手のDC誘致で独走状態にあるのが、北海道石狩市と福岡県北九州市です。
石狩市の場合は「再エネ100%のグリーンDC」の聖地となっています。一番の武器は「冷涼な気候」です。年間の平均気温が低いため、外気を取り入れるだけでサーバーを冷却でき、電気代を劇的に削減できるのです。更に、石狩湾で進む大規模な洋上風力発電の電力をダイレクトにDCへ引き込めるインフラを自治体主導で整備したことが、脱炭素を至上命題とする外資系ビッグテックのニーズに完璧に合致しました。
北九州市は、九州におけるデジタルハブとして急速に台頭しています。アジア諸国や本州を結ぶ海底光ファイバーケーブルの陸揚げ地に近いため、通信の遅延が極めて少ないという地理的優位性も。また、市が「グリーン成長戦略」を掲げ、工業地帯の跡地をDC用に迅速に用途変更・分譲したことで、外資系や国内大手の受け皿となりました。
いずれにせよ、DCの国内市場は2025年の4兆3,453億円から30年には5兆6,540億円に拡大する見込みです。これまでは東京圏や大阪圏に集中していましたが、今後は地方分散の重要性が高まっており、各地の自治体による誘致合戦は益々過熱することは避けられそうにありません。
著者:浜田和幸
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