日米安保終了のすゝめ

政治経済学者 植草一秀

 10月4日、沖縄県宜野湾市に位置する米軍普天間基地に所属する米海兵隊上等兵の男が強盗殺人容疑で逮捕された。

 これまで沖縄で繰り返されてきた米軍関係者による重大犯罪。原因は明白だ。米軍基地が沖縄にあるから。日本が受諾したポツダム宣言にも、日本が主権を回復したサンフランシスコ講和条約にも駐留軍の撤退が明記されている。

 敗戦から一体何年の時間が経過したのか。敗戦から81年の時間が経過したのに、米軍がまだ日本に駐留し続けている。その理由も明白だ。日本政府が米軍の撤退を求めないからだ。

 米軍が日本に居座る根拠は日米安保条約にある。その日米安保条約には条約を終了させる条文が明記されている。
第10条(前略)この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。

 米軍を日本から撤退させることは可能だ。しかし、日本政府は実行してこなかった。その米軍が日本に居座るために重大犯罪が繰り返されてきた。その重大犯罪によって最大の被害を蒙ってきたのは沖縄県民である。

 沖縄県民は第二次大戦においても日本において最大の被害を被った。日本政府は本土決戦までの時間を稼ぐために沖縄を捨て石にした。日本で最大の被害を蒙ったのが沖縄県民である。この点を銘記する必要がある。
 その沖縄で9月13日に知事選が実施された。この選挙で新たに沖縄県知事に選出されたのが古謝玄太氏。古謝氏は与党とゆ党の6党の推薦を受けた。現職の玉城デニー氏は敗北した。

 新たに知事に選出された古謝氏にとって最初の重大事案が今回の事件。報道によると逮捕されたのは普天間基地所属のデビン・ジェイコブ・バラード容疑者。逮捕容疑は10月3日に那覇市内のホテルで同市在住の女性を殺害した上で女性の財布やかばんを奪ったというもの。女性の首に紐のようなもので絞められた跡があったという。

 事件発生に対応して古謝玄太新知事が10月4日に記者会見を開いた。古謝氏は会見冒頭で被害女性に対する哀悼の意を述べた上で、事件について次のように述べた。
「県民に大きな衝撃を与え、新たな不安を招くものであり、断じて許せるものではなく、非常に強い憤りを感じています。
県としてはこれまで事件が起こるたびに米軍に対して再発防止を求めているものの、事件が再び起きたことは、米軍の綱紀粛正、隊員教育等が全く機能していないと言わざるを得ません。」その上で、米軍に対して厳重に抗議する方針を表明した。

 質疑応答で記者が、古謝氏がジョージ・グラス駐日米国大使と協議を行ったことについて、
「グラス大使とは電話で協議をしたのか。
協議ではどういった言葉を伝えたのか。」と質問した。

 これに対して古謝氏は「電話ですね」と答えた上で次の発言を示した。
「ちょっと具体的な発言を一言一句覚えているわけではないのですが、遺憾の意は示したかなと思います」

 問題はこの発言の際に古謝氏がニコニコしていたこと。

 知事がニコニコ笑う事案でなく、ニコニコ笑う理由もない。被害者に対する哀悼の意も、事件に対する怒りも、米軍に対する憤りも吹き飛ぶ所作だった。口では米国に抗議すると言うが実際には何も考えていないということなのだろう。沖縄県民はこのような人物を新しい知事に選出したことについて自省する必要がある。

 高市首相はXで被害者に対する哀悼の意を表し、「日本政府として米側に強く抗議するとともに、捜査への最大限の協力、米軍関係者の綱紀粛正と事件・事故の再発防止の徹底を強く求めた」と述べたが、この発言も通り一遍の「社交辞令」に過ぎないと言える。

 高市氏自身が米軍の撤退にも、地位協定の改定にも、日米合同委員会の廃止にも、米軍の綱紀粛正にも、本音では何の関心も保持していないと思われるからだ。高市氏は自分自身の身の安泰しか考えていない。そして、自分自身の身の安泰を確保するには、ただひたすら、米国の命令に隷従することしか考えていないのだ。

 トランプに媚を売る。トランプの機嫌を取るために日本政治を遂行する。これしか考えていない。この高市内閣の基本姿勢が米軍による凶悪犯罪を繰り返させる根本原因なのだ。

 沖縄県知事選で本来、最重視するべきテーマは、米軍の取り扱いだった。敗戦から81年が経過したいま、日本から米軍を撤退させることを考えるべきではないのか。

 沖縄に新たに米軍基地を建造する理由がない。辺野古基地建設が既成事実化されているが、いらないものはいらない。米国は米国から遠く離れた地で戦争を人為的に創作する強烈なインセンティブを有する。戦争が米国軍事産業に巨大利益をもたらすからだ。

 戦争はやむなく発生するのではない。米国軍事産業が自らの利益拡大のために人為的に「創作」して発生するものなのだ。

 ウクライナ戦争も同じ。ウクライナ戦争の極東版を創作することが目論まれている。米国に隷従して米軍の日本駐留を継続させ、米国の命令に隷従して人為的に日中関係を破壊する。その延長上で創作されるのが日中戦争。その日中戦争が勃発するときに真っ先に破壊されるのが沖縄である。

 沖縄はいまも捨て石にされている。その沖縄の人々の歓心を買うためにいくばくかのカネがばらまかれている。今回知事選直後に政府は沖縄振興予算の増額を決めた。

 選挙で応援すれば財政支出を拡大する。完全な「利益誘導政治」が行われている。しかし、その財政支出の財源は何なのか。国民の税金だ。国民の血税を、まるで自分のカネであるかのように私物化している。その「カネの力」にものを言わせて票を買い取っているのだ。

 簗和生農水相の発言とまったく同じ構造。「いくばくかのカネをばら撒けば、票などいくらでも買える」と考えているのだ。これ以上の侮辱はない。有権者は舐められている。

 米軍兵士による重大凶悪犯罪。この事案に対する古謝玄太新知事の対応をすべての沖縄県民は注視するべきだ。この新知事の下で沖縄県民の真の幸福が到来するとは考えられない。米国の命令に隷従することは、もはや日本の平和と安定に資するものと言えない。逆に、米国に隷従することが日本に戦争の危機をもたらす可能性の方が圧倒的に高い。日米安保条約を終了させ、日本から米軍を取り除くことを真剣に考えるべき時機が到来している。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』」
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」

関連記事