高島福岡市政の16年(5)福岡市建設業界の発展と今後の展望

 高島宗一郎市長による16年にわたる市政は、福岡市という都市のあり方を大きく変容させると同時に、地元経済を支える地場の建設業界にも多大な影響を及ぼした。
 今回、福岡市に本社を置く建設業界関係者のA氏に取材をしたところ、メディアの表面的な報道からは見えてこない、建設業界内部の実態と関係者の本音を聞くことができた。
 本稿では、取材内容を基に過去十数年間の福岡における建設業界の劇的な発展、業界構造の変化、直面しているインフラ更新の現実、そして世代交代が進む組織のあり方について総括し、今後の展望をまとめていく。 

洗練される入札体制と
固定化する実力格差

天神ビッグバン イメージ    今回の取材で浮き彫りとなったのは、福岡の地場建設業界がこの十数年で飛躍的に実力をつけ、入札や受注の体制がかつてないほど成熟したという事実である。過去には業界団体による共同企業体(JV)の編成において、一部で不透明さや危うさが指摘される時期もあったとA氏は振り返る。しかし現在では、各企業が着実に経験を蓄積し、無用な競争や摩擦を避けるために「きれいに」(A氏)JVを組み合わせ、確実に大型案件を受注して施工を完遂する高い実力を備えるに至った。A氏が「文句のつけようがないほど垢抜けた」と評するように、業界のシステムは極めて洗練されたものとなっている。

 しかし、A氏は、この成熟は業界内に明確な実力差を生み出したことも指摘する。年間を通じて安定的に大型案件を受注し、高い技術力で行政からの表彰を受け続ける上位十数社の有力グループと、それ以外の企業との間には、容易には埋めがたい格差が生じているという。大型案件を受注できない企業群が限られた案件に集中し、同じ仲間内での競争が激化して辞退を余儀なくされるといったジレンマも発生しており、実力ある一部の企業に仕事が集中する構造が定着しつつあるのが現状である。 

学校施設の老朽化と
大規模な再編・統合プロジェクト

 地場建設業界が活況を呈している背景には、福岡市内の公共インフラ、とりわけ学校施設の老朽化があるという。建設から60年を超える小中学校が多数存在し、現在、40校以上の建て替えや新設といった大規模な更新期を迎えている。地域の学校建て替えは、1案件あたり20億円から30億円規模に上る大型プロジェクトだ。これらが年間5棟程度のペースで継続的に発注されており、行政がこれらの案件を大手ゼネコンに頼らずに地場企業で回していく方針をとっていることが、地場企業の強靭化と安定収益に大きく寄与しているという。

 さらに、少子化と生徒数の減少という社会的背景が、単なる建て替えにとどまらない大規模な「統合」と「跡地活用」を促している。例えば、東光小学校、堅粕小学校、東光中学校の3校統合や、千代小学校校地に整備する同校と千代中学校の施設一体型小・中学校建設、福岡中学校と馬出小学校の施設一体型小・中学校を馬出小の校地に建設する計画などが具体的に進められている。福岡中学校と馬出小学校の統合によって生じた跡地に福岡市民病院を移転させるなど、玉突き的な都市インフラの再配置が行われており、これが巨大な建設マーケットを生み出している。 

民間大型プロジェクトと
地場建設業の巨大化

 都市機能の更新は公共事業のみならず、民間活力を活用した巨大プロジェクトにおいても進行している。その最たる例が、九州大学箱崎キャンパス跡地の再開発だ。このプロジェクトでは、大手商社やデベロッパーを中心とした企業グループが主導権を握っているが、実際の施工においては地場ゼネコンも重要な役割を担っているという。

 跡地には1ブロック1,000戸規模の巨大なマンション群が建設される計画があり、地場の建設企業が請け負う工事だけでも1案件あたり40億円規模に達するとA氏は語る。完成後の販売価格も非常に高騰することが予想されており、事業の規模や投じられる資金は過去の福岡の基準から見て桁違いだ。こうした大型民間プロジェクトに名を連ね、安定してこなせるようになったこと自体が、福岡の地場建設業界がこの十数年で大きな成長を遂げた証拠と言えるだろう。

進行する劇的な世代交代と
新たなリーダー像

 業界が未曾有の活況を呈する一方で、内部では劇的な「世代交代」が進行中だ。A氏によれば、建設業のみならずデベロッパーや設計業界においても、ここ10年ほどでトップ層の顔ぶれが大きく様変わりしたという。創業から長年トップを務めてきた世代が退き、現在社長を務める世代も就任から20年以上が経過し、次世代へのバトンタッチが本格的に模索されている。

 それに伴い、業界団体のトップ人事においても、誰が次のリーダーを担うかが大きな関心事となっている。ここで興味深いのは、業界が求めるリーダー像の変化だ。かつてのような強烈なトップダウンで組織を引っ張るカリスマ性よりも、周囲の意見を調整し、円滑に組織をまとめることができる調整型の人材が望まれる時代になっているとA氏は指摘する。これは、業界自体が成熟し、個人の力よりも組織間・企業間の調和が重視されるフェーズに入ったことを意味している。

長期政権の弊害と行政・財界の変容

 しかしながら、これからの展望を手放しで楽観視できるわけではない。高島市政の16年という長期政権は、行政組織の内部に特有の弊害をもたらしたことが、業界関係者の口から指摘されているとA氏は言う。具体的には、若手や中堅の市職員、さらには市議会議員までもが、純粋な都市の将来像を描くことよりも「市長の顔色をうかがう」ことに注力する傾向が強まり、市長の意に沿うような無難な企画ばかりが横行しているという組織的な硬直化が懸念されている。

 さらに、財界においても地元の顔となるべき強力なリーダーが不在となっている現状が嘆かれている。地元の有力企業のトップが次々とサラリーマン社長化し、在任期間が数年単位と短縮化したことで、かつてのように福岡の将来を長期的視点で見据え、「ドン」としてリーダーシップを発揮できる財界人が見当たらなくなっているという。

これからの展望

 高島市政の16年間において、福岡市の建設業界は飛躍的な成長を遂げ、実力と組織力を確固たるものにした。公共インフラの更新需要と巨大な民間プロジェクトが入り交じる現在の福岡は、全国的に見ても稀有な活力を保っている。

 しかし、今後は急激な世代交代を乗り越えつつ、業界内で固定化しつつある格差問題や、行政・財界のリーダーシップ不在というソフト面の課題に真正面から向き合う必要がある。次世代を担う若きリーダーたちが、いかにしてこの成熟した業界をまとめ上げ、硬直化の兆しを見せる行政や財界と連携しながら、次の数十年に向けた福岡の持続可能な都市づくりを牽引していくのか。福岡の建設業界の真価が問われるのは、まさにこれからと言えるだろう。

【日高真一】

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