県政のドン・蔵内勇夫の『栄枯盛衰物語』(序論)古い体質、有権者感覚からのズレ、そして恥ずかしさ
3つの問題点
皆さんは、福岡県議会を巡る一連の騒動について、どのように感じているでしょうか。筆者は、県議会、そして福岡県の政治・行政に残る古い体質や、庶民感覚とのズレに驚くとともに、正直なところ、恥ずかしさも感じています。一連の問題をざっと整理してみましょう。
・高額な海外視察
・県職員による県議の政治資金パーティー券購入への組織的な補助
・正副議長ポストを巡る金銭授受疑惑
大きく分けると、この3つです。
海外視察の問題は、物価高のなかで厳しい生活を送っている私たちにとって、どうにも理解しがたいものに映りました。県民は多額の税金を負担しており、議員には行政による公費の無駄遣いをチェックする役割があります。そうであれば、議員自身もお金の使い方に厳しい目を向け、無駄な支出を控えるのが本来あるべき姿ではないでしょうか。
政治資金パーティー券の購入を巡っては、県の部課長会が購入代金の補助や取りまとめを行っていたことが明らかになりました。県は職員倫理規則の改正などの対応を進めていますが、こうした行為は長年の慣例だったとも指摘されています。議員からの圧力があったのか、それとも県職員側が自主的に気を回していたのか。詳しい経緯は、今後の調査を待つ必要があります。ただ、県職員は公務に携わる立場として、議員との関係でも公正さを保たなければなりません。県議会と行政は、それぞれの役割を果たしながら、互いをチェックする関係にあるはずです。今回の問題を見ると、その関係がきちんと機能していたのか、疑問を感じざるを得ません。
正副議長ポストを巡る金銭授受疑惑についても驚かされます。「議長になるには1,000万円、副議長になるには500万円」といった金額が取り沙汰されています。実際にお金を支払ったという証言がある一方、関係者は関与を否定しており、現時点では疑惑の段階です。だからこそ、第三者による調査で事実関係を明らかにしてほしいと思います。そもそも、議長や副議長という役職に、なぜこれほどの金額が取り沙汰されるのでしょうか。筆者には理解できません。「政治にはお金がかかる」とは、政治家からよく聞かれる説明です。しかし、仮に役職を巡ってお金がやり取りされていたのであれば、そんな説明では済まされないでしょう。政治にお金がかかるというより、自らお金がかかる仕組みをつくっているようにすら見えてしまいます。役職がどのような考え方や手続きで決められていたのか、きちんと検証する必要があります。
こうした問題を受け、福岡県と県議会はそれぞれ第三者委員会を設置しました。県は海外活動と部課長会の問題を、県議会側は正副議長ポストを巡る金銭授受疑惑を調べます。3つの委員会の調査費用は約2億2,000万円に上り、すべて公費で賄われるとされています。今後、さらに費用が増える可能性もあるとのことです。真相を明らかにし、再発を防ぐために調査が必要なのは分かります。しかし、その費用を負担するのは県民です。これだけのお金を使うのであれば、何にいくらかかるのか、なぜそれだけの費用が必要なのかについても、きちんと説明してほしいものです。県議会や県の組織に関わる問題だからこそ、調査の独立性を保ちつつ、費用や調査結果を分かりやすく公表してもらいたいと思います。
副首都構想への悪影響
さて、福岡県には、天神ビッグバンなどの再開発が進む福岡市があります。経済や都市開発の面で全国的に注目され、福岡県全体も国内外から評価されてきました。県民として、福岡の発展を誇らしく感じていた人も少なくないでしょう。ところが、今回の問題は全国的に報道され、県政や県議会への信頼を揺るがしています。福岡が発展していく姿を喜んできた筆者としては、こうした問題で全国から注目されることに、やはり恥ずかしさを感じます。この問題は、福岡県が目指す副首都構想にも影響を与えかねません。副首都の実現には、国の機関や企業の集積、インフラ整備など、大規模な政策判断が伴うと考えられます。そのような構想を進めるうえでは、行政運営の透明性や政治への信頼も欠かせないはずです。
県議会を巡る疑惑が十分に解明されず、不透明な政治体質が残るようであれば、福岡県が副首都にふさわしいのかという議論にも影響するでしょう。莫大な国費が投じられることになったとして、そのお金は本当に県民や国民のために使われるのか。今回の問題を見ていると、そんな疑念を持たれてしまっても仕方がないのではないかと感じます。つまり、蔵内氏らを巡る問題は、県議会のなかだけで済む話ではありません。福岡県全体の信頼や、これからの発展にも関わる問題なのです。
一方で、今回の問題を連日報道しているマスコミについても、考えさせられることがあります。
報道機関には、行政や議会などの権力を監視し、問題があれば社会に伝える役割があります。政治資金パーティー券の購入補助が長年の慣例だったとすれば、なぜこれまで大きな問題として表面化しなかったのでしょうか。地元メディアはもちろん、中央の大手メディアも含め、これまでの取材や報道を振り返る必要があるのではないでしょうか。もちろん、報道機関が以前から疑惑を把握していたかどうかは、個々の記者や媒体がいつ、どのような情報を得ていたのかを確認しなければ分かりません。記者クラブがあるからといって、疑惑のすべてを把握していたとは限らず、問題を知りながら報じなかったと決めつけることもできません。それでも、長年続いてきたとされる問題が、なぜ今になって表面化したのか。権力の監視役であるはずのメディアが、どこまで役割を果たせていたのかについては、考える余地があると思います。
もちろん、その責任は筆者自身にもあります。筆者は政治を専門とする記者ではありませんし、福岡県に住んでいた期間も短いです。ただ、それ以上にこれまで政治そのものに強い関心を持ってこなかったこと、できるだけ関わらないようにしてきたことも事実です。その一例が「ワンヘルス」です。筆者はまちづくりなどについて取材することがありますが、ワンヘルスは福岡県が推進してきた重要な政策の一つでありながら、これまで詳しく取材してきませんでした。県が重要な政策として掲げているのであれば、その内容だけでなく、予算がどのように使われ、どのような成果が出ているのかまで目を向ける必要があったはずです。行政の発表を受け取るだけでなく、その中身を自分で確かめる姿勢が足りなかったのかもしれません。
大きな転換期を迎えた福岡の政治
ところで、今回の一連の問題で注目を集めている人物の一人が、福岡県議会の「ドン」と称されてきた蔵内勇夫氏です。問題の発覚後、蔵内氏は取材に応じ、金銭授受への関与を否定するなど、自身の見解を説明してきました。しかし、その説明で県民の疑問が解消されたかといえば、まだ十分とはいえないのではないでしょうか。今回の騒動を通じて、筆者は昭和や平成の時代に報じられた政治疑惑を思い起こしました。政治家同士の人間関係や派閥、役職を巡る駆け引きが取り沙汰される様子を見て、令和の時代にも、まだこうした問題が起きているのかと驚かされます。これも、筆者が「古臭さ」を感じた理由の一つです。もちろん、印象だけで結論を出すわけにはいきません。具体的な発言や行動、そして今後明らかになる調査結果を踏まえて考える必要があります。
現在、筆者は蔵内氏や県議会を巡る問題について、さまざまな関係者に取材しています。そのなかで感じているのは、個々の議員の問題だけでなく、地方自治体を含む政治や行政の仕組みそのものにも、見直すべき点があるのではないかということです。今回の出来事、とりわけ蔵内氏の人物像を掘り下げながら、私たちの代表者である議員をどう選ぶのか、投票や政治参加はどうあるべきなのか、そして政治や行政とどう関わっていけばよいのかを考えていきたいと思います。政治に詳しくない立場だからこそ、当たり前とされていることに疑問を持てる場合もあるはずです。読者の皆さんと一緒に考えていければと思っています。
福岡市では、高島宗一郎市長が2026年11月の市長選挙への不出馬を表明しました。福岡県議会の問題も含め、福岡の政治は今、大きく動いています。今回の騒動を一時的な話題で終わらせてはいけません。疑惑の解明はもちろん、なぜこうした問題が起きたのか、政治や行政の仕組みに問題はなかったのかまで検証し、再発防止につなげることが大切です。来年4月の統一地方選挙も見据え、福岡県が県民の信頼を取り戻し、より透明性の高い、持続可能な自治体になっていく。そのために少しでも役立つ記事を書けるよう、今回の連載に取り組んでいきたいと考えています。
(つづく)
【三輪尚樹】
<プロフィール>
三輪尚樹(みわ・ひさき)
50代半ば。福岡市在住。マスコミ関連の仕事を長くしてきましたが、政治関連の取材・執筆の経験はほとんどありません。学生時代から30年以上、関東に居住していたため、福岡県の政治情報についてもほぼノータッチで生きてきました。政治不信。いわゆる「ノンポリ」で支持政党はありません。









