雇用を軸に次代を築く「ひとづくり元年」で心技体の充実へ

中村工業(株)
 代表取締役  中村隆元 氏

 創業120年を超え、鳶土工事をはじめ幅広い建設工事を手がける中村工業(株)。職人不足が深刻化するなか、2026年を「ひとづくり元年」と位置付け、衣食住の環境整備や新人・若手リーダー・管理職研修など、人材の育成と定着を強化している。一方で、持株会社体制へ移行し、沖縄にも新たな拠点を構えた。次代の建設業を支える人づくりについて、同社代表取締役・中村隆元氏に聞いた。

2026年度-入社式
2026年度 入社式

衣食住から若手を支える

 ──昨年は創業120周年という大きな節目でした。今年は「ひとづくり元年」を掲げています。

 中村 昨年は120周年ということで、これまで支えていただいた方々への感謝と、これから改めて会社が1つになっていこうという年にしました。その次の段階として、今年は「ひとづくり元年」です。

 昔の学校や部活動ではありませんが、もう一度「心技体」を大切にして、人を育てていこうと考えています。人材不足だから採用人数を増やせばいいという話ではありません。入社してくれた人が根付き、力を発揮し、会社とともに成長していく。そのための土台をつくることが大切です。

 ──その「心技体」の充実に向け、社員の衣食住から見直していますね。

 中村 なかでも象徴的なのが「食」です。今年の元日から、社員寮の食事に「アスリート食」を導入しました。高校の部活動などに食事を提供している事業者に入ってもらい、温かく、栄養バランスを考えた食事を提供しています。

 我々の仕事は、身体が資本です。とくに若い社員は身体をつくっていく時期でもありますし、毎日現場で身体を使います。ですから、単に食事を用意するのではなく、働く人の身体づくりまで支えたいと考えました。

 「住」では寮を整備していますし、「衣」についても動きやすさを重視したロゴ入りユニフォームを採用しています。また、10代、20代、30代の社員が、提携美容室を無料で利用できる仕組みも設けています。食事や住まいだけでなく、日々の装いや身だしなみまで含めて、安心して働ける環境を整えていきたいですね。

ラグビーに学ぶ組織力

 ──4月からは、人材教育でも新しい取り組みを始めました。

 中村 新人研修に加えて、若手リーダー研修と管理職研修を始めました。講師をお願いしているのが、元ラグビー日本代表の冨岡鉄平さんです。私の高校ラグビー部時代の後輩でもあり、東芝ブレイブルーパス(現・東芝ブレイブルーパス武蔵)で主将や監督などを務めてきた人物です。冨岡さんを講師に迎えたのは、単にリーダーシップを学ぶためだけではありません。冨岡さんには、選手や監督としてさまざまな立場の人をまとめ、強い組織をつくってきた経験があります。建設現場も、年齢や立場、職種の異なる多くの人が力を合わせて1つのものをつくる仕事であり、そうした意味では共通する部分が多くあります。技術や知識だけでなく、人としてどうあるべきか、周囲をどう巻き込み、チームとして力を発揮するかを学んでほしいと考えています。

 若手リーダー研修は、これから職長になる人や、職長になったばかりの世代などが対象です。一方、管理職研修は、我々の世代も含めて学ぶ場にしています。若い人だけに「勉強しなさい」というのではなく、幹部も一緒に学び直す。世代が違っても同じ講師から学ぶことで、お互いの考え方をすり合わせ、会社として大切にする価値観を共有していこうという狙いもあります。どちらも月1回程度実施しています。知識を詰め込む研修ではなく、リーダーシップや物事の考え方を学び、自分自身と向き合う機会にしたい。最終的には、中村工業として大切にしてきた風土や「中村プライドとは何か」を皆で考え、次の世代につないでいきたいと思っています。

 ──なぜ今、そうした研修が必要なのでしょうか。

 中村 学校教育と工事現場には、やはりギャップがあります。今の若い人たちは、スマートフォンが身近にある環境で育っており、SNSなどの直接顔の見えない間接的なコミュニケーションに慣れています。一方、建設現場は多くの人と顔を突き合わせて直接関わり合いながら仕事を進める、ある意味では人間関係の象徴のような場所です。

 世代が違えば、考え方も違います。その違いをなくす必要はありませんが、お互いの考え方を知っておけば、余計な摩擦を減らすことはできます。そのためにも、自分の考え方を整理したり、相手の立場を理解したりするための「心の引き出し」を増やしてほしいと思っています。

 ──とくに職長には、技能だけではない能力が求められます。

 中村 そうですね。当社では、職長が現場のリーダーを担うケースが多くあります。建設現場では、自社の職人だけでなく、鉄筋工事や型枠工事など、さまざまな工種の職人が一緒に働いているため、職長には周囲と連携しながら現場をまとめる役割が求められます。自社の職人だけを見ていればいいわけではありません。元請のゼネコンと専門工事業者の間に入り、現場全体を見ながら調整していく必要があります。私はよく、片足はゼネコン、もう片足は専門工事業という言い方をします。それくらいバランス感覚が求められる立場です。

 これまでは、鳶職の教育は鳶職側、施工管理は施工管理側というように、現場に任せていた部分がありました。しかし、これからは技能者と技術者を分けて育てるのではなく、互いに交わりながら学ぶ必要がある。そうした学びの場を会社がつくり、部門を越えて人を育てていきたいと考えています。

 ──現在は事業部門も広がっています。

 中村 鳶土工工事、重機山留工事、土木工事、リニューアル工事、PC製作・取付工事の5部門が主力です。そこに総務などもありますから、組織が大きくなれば、どうしても部署間の距離が生まれやすくなります。

 だからこそ、研修で月に1回でも顔を合わせる意味があります。同期であっても、部署が違えば普段なかなか会わなくなりますからね。研修を通じて横のつながりを保ち、会社としての一体感も育てていきたいと思っています。

入社後に育てる採用へ

 ──教育を担当する専門部署も設けたそうですね。

 中村 今期から、「経営企画人財開発室」を立ち上げました。これまで人材育成は各部署や現場に任せる部分が多かったのですが、これからは会社が主体となり、採用から教育、成長まで一貫して支えていく。そのための基盤となる部署です。

 先ほどの冨岡さんによる若手リーダー研修や管理職研修とも連動し、研修で学んだことをその場限りにせず、日々の仕事や現場で実践できるようフォローしていきます。研修を受けて終わりではなく、その後どう変わったのか、どこでつまずいているのかまで見ながら、社員の成長に伴走する役割を担ってもらいます。

 メンバーも、プロパー社員と中途入社の社員を半々くらいにしています。さらに女子ラグビー選手も加わっており、社歴や立場の異なる人たちの視点を取り入れることで、これまでとは違った角度から、人材育成や組織づくりを考えていきたいと思っています。

 今年を「ひとづくり元年」としたのも、人材育成を会社全体の仕事として捉え直し、次の世代を継続的に育てられる仕組みをつくっていこうという意味があります。

新入社員(マインド研修)
新入社員(マインド研修)

 ──2026年度には、15人の新入社員を迎えました。

 中村 今年は15人でしたが、来年は今のところ8~9人くらいの新入社員を見込んでいます。少子化が進むなか、当社が採用対象としている高校卒業者も今後さらに少なくなり、若い人材の確保は一段と難しくなるとみています。採用競争は、これまで以上に厳しくなっていくでしょう。ですので、工業高校の出身者だけに絞る必要はないと思っています。普通科でも農業系でも構いません。当社では入社後に4~5カ月程度の研修期間を設けていますし、その後も教育を続けます。「入ってから覚えれば大丈夫」という安心感を、本人だけでなく、学校の先生方にももっていただきたいですね。

 26年度の新人研修では、社会人としての基礎から、工具の扱いや玉掛け、足場などの実技まで段階的に学んでもらいました。その一環として、建設技術者・技能者を育成する富士教育訓練センターでの研修も継続しています。来年度も実施する予定です。

 ──採用人数を増やすだけでは、職人不足の解決にはならない、ということでしょうか。

 中村 そう思います。採用して終わりではなく、その人が「ここなら成長できる」「ここなら安心して働ける」と感じられる環境をつくらなければ定着しません。

 給与や待遇はもちろん大切です。ただ、それだけでなく、自分がこの会社でどう成長できるのか、どんな仕事ができるようになるのかを見せる必要があります。採用と育成は別々ではなく、つながっていると思っています。

沖縄に雇用の基盤を

 ──前期には持株会社体制へ移行しました。

 中村 25年12月にナカムラホールディングス(株)を設立し、グループ経営を本格化しました。また、当社は以前から沖縄でPC工事を手がけてきましたが、以前から協力関係にあった(有)成和(沖縄県沖縄市)をグループに迎えています。今回のグループ化は、沖縄にもう一度しっかり根を張ろうという意味があり、これから沖縄は、福岡と並んで非常に重要な拠点になると考えています。

 ──沖縄進出でも「人」が重要なテーマになっていますね。

 中村 そこは非常に大きなテーマです。沖縄は賃金水準の問題もありますし、建設業では一人親方として働く人も多い。そこで、社員として安定して雇用され、長く働けるという文化を、我々のグループから少しでもつくっていきたいと思っています。

 現地の経営者からは、「そんなに簡単にはいかない」とも言われます。ただ、福岡の鳶の世界も、以前は今以上に一人親方が多かった。そうしたなかでも当社は直接雇用を続け、新卒者を採用して育ててきました。

 いきなり沖縄全体を変えるという話ではありません。まずは1社でも、安定した雇用の場をつくる。「ここなら長く働ける」と若い人に思ってもらえる会社をつくり、それが新卒採用にもつながっていけばいい。沖縄を単なる施工拠点ではなく、人を採用し、育てる拠点にしたいですね。

人が建設業の未来をつくる

 ──今後、職人不足がさらに進むなかで、建設会社には何が求められるでしょうか。

 中村 我々は創業120年を超えました。先人たちがつないできた会社を、私たちも次の世代へつないでいかなければなりません。そのために欠かせないのが、新たな人材を迎え、育て、その力を次代へつないでいくことです。

 今年を「ひとづくり元年」としたのは、これまでやってきたことを否定するのではなく、改めて人づくりを会社経営の中心に据えるという意思表示です。人を集め、人を育て、その人がまた次の人を育てる。そういう循環をつくることができれば、会社も建設業界ももっと強くなると思っています。

 職人不足という大きな課題があるからこそ、今、人づくりに本気で向き合う。中村工業を、若い人たちが安心して入り、成長し、将来を描ける会社にしていきたいですね。

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:中村隆元
所在地:福岡市中央区舞鶴3-2-6
設 立:1947年5月
資本金:6,000万円
URL:https://nakamura-k.com/


<プロフィール>
中村隆元
(なかむら・りゅうげん)
1975年1月生まれ、福岡県春日市出身。中村学園三陽高校、福岡建設専門学校卒。学生時代はラグビーに勤しむ。2015年に中村工業(株)の代表取締役に就任。25年6月、建設産業専門工事業団体九州地区連合会の副会長に就任した。趣味は水泳、マラソン、仲間との酒飲み。

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