朝鮮日報の宋煕永主筆「韓国の危機」に警鐘を鳴らす(後)
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――昨年末、クリスマスが過ぎてから、1週間ほどソウルに行って来た。今回のソウル取材の目的の1つは、宋主筆に会うことだった。僕が毎日新聞ソウル特派員(1989~1994)だった頃、彼は東京特派員や経済部長を務めていた。冷静な視点、温厚な人柄、率直な言論活動。いずれも有能なジャーナリスト(時代を記録する職業)にふさわしい資質を、彼は持っている。
朝鮮日報本社5階にある「主筆室」で、約1時間ほど話を聞いた。その大半は、彼の「韓国現代史観」であり、コラムで書いた観点の再確認だった。「限界」「既得権」「停滞」などの言葉が、頻繁に口を突いて出た。「韓国人の対日親近度は依然として高い」「中国への親近感は、日本人が心配するほどのことはないですよ」。日本側の懸念を意識した“弁明”があったのも、僕には印象的だった。
2位の経済大国を扱うのが上手な米国
僕の宋氏へのインタビューは、「メディアへの公開」を前提としていない。友人としての懇談レベルだ。だから、詳細な言及は避けざるを得ないが、興味深かったのは、彼が今年1月16日付けで書いたコラムに、僕とのやり取りでも出て来たフレーズがあったことだ、その部分を引用してみよう。
「国際通貨基金(IMF)の2014年の統計を見ると、1人当たりの国民所得(購買力基準)が最も高い国はカタールだ。13万7,000ドルを超える。米国は5万4,000ドル水準で、世界10位である。しかし、カタールの経済力が米国を上回ると信じる人はいない。韓国の1人当たりの所得は3万5,379ドル。日本の3万7,519ドルに迫るといっても、韓国の経済力が日本に匹敵すると言うことはできない」。
この言い回しには、聞き覚えがあった。韓国のメディアには、我田引水的な対日視角が目立つのだが、宋氏はさすがにそういった視点とは無縁だった。
中国に対する観点は、年初以来の中国株式市場の混乱によって、さらに厳密なものになったようである。16日のコラムは、朝鮮日報日本語版に掲載されていないので、ここで紹介しておく。まことに目配りの利いたベテランの経済記者らしい視点であると感心した。朝鮮日報の論調は、最近、日本の読者に評判が良くない。僕も宋氏とのインタビューで、そういった苦言も伝えた。しかし、決して軽んじることのできる新聞ではない。日韓の「慰安婦妥結」の陰に米国がいたと見る僕は、彼の以下のような米国論に同調しても良いと思うのだ。
「米国は、2位の経済大国を扱うのが上手だ。ドイツや日本が上昇して来た時は、強圧的な為替レートの調整(プラザ合意)と開放圧力を介して、挑戦者たちを押し出した。今回も、北朝鮮の核と中国の金融危機を注意深く見回し、機会を探しているだろう。私たちも中国だけ、北朝鮮の核だけを見ていれば、答えを見つけることができない」。
(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連キーワード
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