マンション大規模修繕談合疑い、公取委が処分方針 都甲栄充氏が指摘してきた「住民不在」の構図

 公正取引委員会が、マンション大規模修繕工事をめぐる談合疑いで、施工会社と設計コンサルに排除措置命令を出す方針を固めた。問題の焦点は、施工会社同士の談合疑惑にとどまらない。管理組合に助言するはずの設計コンサルが関与したとされる点にある。この状況からは、住民と専門業者の情報格差という点で、これまでの当社掲載記事で一級建築士・都甲栄充氏が指摘してきたマンション修繕・施工不良問題とも重なる構造が見えてくる。

公取委が処分方針 38社、課徴金16億円か

 公正取引委員会が、マンションの大規模修繕工事をめぐり、施工会社と設計コンサルによる独占禁止法違反(不当な取引制限)があったとみて、排除措置命令を出す方針を固めたことが分かった。主要紙の報道によると、対象は施工会社36社、設計コンサル2社の計38社。施工会社には計約16億円の課徴金納付命令も出される見通しだ。

 報道では、長谷工グループの長谷工リフォーム、大京グループの大京穴吹建設、清水建設子会社のシミズ・ビルライフケア、SMCR、建装工業などの施工会社名が挙げられている。設計コンサルでは、翔設計とリノシスコーポレーションの2社が対象とされる。

 各社は遅くとも2021年秋ごろから、関東地方のマンション100棟超の大規模修繕工事で、見積もり合わせや入札の前に受注予定業者や工事価格を調整していた疑いがあるとされる。公取委はすでに処分案を通知しており、今後、各社から意見を聴いたうえで正式に命令を出すとみられる。

 マンション大規模修繕工事をめぐり、公取委が行政処分に踏み切れば、初のケースになるとされる。単なる業界内の不正疑惑にとどまらず、マンション住民の修繕積立金が不当に高い工事費として使われた可能性がある点で、社会的な影響は大きい。

設計コンサル関与疑い揺らぐ「住民の味方」

 今回の問題でとくに重いのは、施工会社だけでなく、設計コンサルが違反に関与したとされる点だ。

 マンションの大規模修繕工事には、主に2つの方式がある。1つは、施工会社が設計から工事までを担う「責任施工方式」。もう1つは、設計コンサルが工事内容の設計や業者選定、工事監理を支援する「設計監理方式」だ。

 設計監理方式は、本来、管理組合側の利益を守るための仕組みである。マンション住民は、外壁、防水、塗装、足場、数量積算、単価の妥当性を専門的に判断することが難しい。そのため、第三者である設計コンサルを入れ、複数の施工会社から見積もりを取り、透明性の高いかたちで業者を選ぶ。少なくとも建前上は、そうした制度である。

 ところが今回の報道では、管理組合に助言するはずの設計コンサルが、施工会社とともに受注業者や金額を事前に調整していた疑いがあるとされる。さらに一部報道では、設計コンサルが工事を受注した施工会社から受注額の5%前後をバックマージンとして得ていたとも伝えられている。

 仮に1億円の工事で5%なら500万円、3億円なら1,500万円である。施工会社がコンサルに支払う金銭を工事費に織り込んでいた場合、最終的な負担者は管理組合であり、区分所有者である住民ということになる。

 複数の業者から見積もりを取ったとしても、事前に受注予定業者や工事価格が調整されていれば、競争はかたちだけになる。管理組合には「適正な競争が行われた」ように見えても、実際には住民側の判断材料そのものが業者側に左右されていた疑いがある。

 施工会社同士の談合に加え、管理組合側を支えるはずの専門家が関与した疑いがある点で、住民側にとって看過しにくい問題を含んでいる。

当社掲載の都甲氏記事との接点

 当社は24年以降、一級建築士でAMT一級建築士事務所代表の都甲栄充氏による記事を通じて、マンションの施工不良、大規模修繕、管理組合と大手建設会社の交渉をめぐる問題を継続的に掲載してきた。

 そのうちの1つ、『タワマン大規模修繕工事をむさぼる長谷工リフォーム その手口の実態』(25年10月6日掲載開始)で、都甲氏は、都内のタワーマンションにおける大規模修繕工事の受発注をめぐる経緯を取り上げた。

 当該記事で焦点となったのは、住民がこつこつと積み立ててきた修繕積立金を、誰が、どのような手続きで、どの施工会社に発注するのかという問題である。大規模修繕工事は、1回の工事で数億円に上ることも珍しくない。管理組合にとっては、長年蓄えてきた資金を一気に投じる重大な意思決定である。

 当該記事では、業界関係者が修繕委員として関与し、見積もり参加条件を厳しくする案を示した経緯などが取り上げられた。見積もり参加条件が過度に絞られれば、参加できる業者が限られ、談合がしやすい環境が生まれるおそれがある。そこで住民側の顧問建築士として関与した都甲氏が対案を示し、結果として管理組合側に大きな利益をもたらした事例が紹介された。

 マンション大規模修繕市場では、施工会社、設計コンサル、管理組合の情報格差が重大な問題となっている。このことが今回の公取委の動きによって改めて浮き彫りになった。

根底にある住民側と業者の情報格差

 都甲氏が取り上げてきたマンション問題は、大規模修繕工事だけではない。仙台市内のマンションをめぐる構造スリット欠陥問題についても問題提起してきた。

 『(仙台)前田建設工業、清水建設のマンション構造スリット欠陥問題』(24年8月3日掲載開始)では、マンション住民側が顧問建築士を立て、現地調査を行い、構造スリットの施工不良を指摘した経緯が報告された。建物全体のうち一部を調査しただけでも、スリットの未施工や位置ずれ、柱への食い込みによる断面欠損などが見つかった。住民側は、専門家の支援を受けなければ、大手建設会社と対等に交渉することが難しい状況に置かれていた。

 つづく『清水建設の欺瞞』(25年6月14日掲載開始)では、大手ゼネコンが事業主、設計、施工、工事監理、販売を一手に担ったマンションで、耐震上の重大な欠陥が発覚した問題が取り上げられた。記事では、建築基準法12条5項に基づく報告書の内容、施工体制の不備、行政のチェック機能、住民への情報開示の在り方が検証された。

 これらは、今回の大規模修繕談合疑惑とは別の問題である。構造スリット問題は、施工不良や説明責任の問題であり、今回の公取委方針が対象とする受注調整とは直接同一ではない。しかし、根底にある構造は共通している。マンション住民や管理組合は、建築や修繕の専門知識をもたない。一方、相手方は大手建設会社、設計者、施工者、工事監理者、修繕業者、設計コンサルといった専門家集団である。両者の間に歴然とした情報格差があり、それを背景に発生した問題という点では共通する構造がある。

 住民側は、専門家である業者の説明や報告書、見積もり、調査結果をそのまま受け入れざるを得ない状況に置かれやすい。構造スリットが正しく施工されているか。耐震性に問題はないのか。大規模修繕の見積もりは妥当なのか。業者選定は公平なのか。これらを一般の住民だけで判断することは難しい。

 今回の公取委方針は、その情報格差が大規模修繕工事の受発注という局面で表面化したものといえる。

修繕積立金を守るために、管理組合に求められる自衛

 マンション大規模修繕工事は、住民にとって避けて通れない。外壁、屋上、防水、共用部、設備の劣化は時間とともに進む。適切な時期に修繕を行わなければ、建物の安全性や資産価値に影響する。

 しかし、その発注者である管理組合は、多くの場合、専門的な購買部門をもたない。理事は輪番制で交代し、仕事や生活と並行しながら意思決定を担う。数億円規模の工事を発注するにもかかわらず、企業のような専門人材や調達ノウハウを備えていないことが多い。

 その弱点を補うために設計コンサルが存在する。だが、今回の問題は、「コンサルに任せれば安心」という前提そのものを揺るがした。

 今後、管理組合に求められるのは、単に複数見積もりを取ることではない。複数見積もりが談合によって形骸化する可能性がある以上、見積もり参加業者の選定過程、コンサルの報酬体系、施工会社との関係、過去の受注実績、利益相反の有無を確認する必要がある。

 設計コンサルには、施工会社から金銭、紹介料、協力金、広告料、業務委託費などを受け取らないことを契約で明記させるべきだろう。工事請負契約には、談合が発覚した場合の違約金条項を設けることも検討すべきである。見積書の数量、単価、仕様については、別の専門家によるセカンドオピニオンも有効だ。

 とくに注意すべきなのは、異常に安いコンサル費用である。設計監理には相応の専門性と人件費がかかる。表向きの報酬が不自然に低い場合、報酬の内訳や施工会社との金銭関係の有無を確認する必要がある。

 管理組合は、信頼だけで自らの修繕積立金を守ることはできない。透明な手続き、利益相反の開示、第三者チェックを組み合わせることが不可欠だろう。

【寺村朋輝】

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