福岡大学名誉教授 大嶋仁
長尾良一氏(長尾治療院院長、唐津市)を知っている人はそう多くはあるまい。NetIB-NEWSで何度か紹介されてはいるが、「知る人ぞ知る」といった知名度だ。
しかし、氏の見識はたしかで、その基礎は中医学にある。中医学とは古代中国の医学理論に基づいた医療であり、それを日本化した「漢方」とは一味も二味も異なる。
氏と最近会ったのを機に、さまざまなテーマで話してもらった。以下は、そのいくつかを選んでまとめたものである。
5 20分ごとの運動と深呼吸
長尾良一氏によれば、デスクワークに多大な時間を費やす現代人が「元気」を取り戻すには、「20分ごとに席を立って軽い運動をし、深呼吸を何度かする」ことである。これを1日に数回やれば、体内に活力が湧いてくるという。
「それだけでよいのか?」と怪しむ人も多いだろうが、会社勤務の人なら、「そんなことはできない」と言うにちがいない。上司に話しかけて、これを課や部単位で実行するようにしてもらえれば、課全体、部全体が仕事の面でも向上するのだろう。しかし、誰もそうはしない。
上司にそんなことを言えば、「皆が一斉にそれをやり始めたら仕事にならない」という答えしか返ってこないだろう。「それなら、部内の1人ずつ、時間をずらして行えばよいではないか」と長尾氏は言う。そして、「まずは上司自身に20分ごとの軽度の運動と深呼吸のブレイクを体験してもらうことですね」と付け加えた。
最初のうちは否定的であっても、その効力が大きいことがわかれば、きっと考えを変えるにちがいないというのだ。
氏が「20分ごとの運動と深呼吸」を推奨するのは、人間の身体が動物の身体だと確信しているからだ。動物とは動くもののことであり、動かなければ「動物」にすらなれない。身体は動かすためにあり、動かないときは「休息」すなわち睡眠の時なのである。この理屈からすると、眠ってもいないのに動かずに仕事をするということは、そもそも自然に反していることになる。
氏はさらにいう。「コンピューターやAIに浸かっている人は、人間本来の元気から遠ざかっている人である。そういう人に限って、体を動かしたがらず、暇さえあれば携帯をのぞき込み、チャットをしたり、ゲームをしたりする。これがどれほど身体を害しているか。何度言っても、聞こうともしない」。
そこで私が「AIには身体がないから、その知能は本物ではないかもしれませんね」と口を挟むと、「確かにそうだ」と氏は言う。身体のない知能は生存の役に立たないだけでない。「新しいアイデアが浮かぶこともない」というのである。
前にも言ったが、中医学では、人間の体に本来備わっているはずの生命力を「元気」と呼ぶ。これを回復しなければ、知能どころか、生命そのものが危うくなるというのが氏の持論だ。これを何度も耳にしているうちに、私は明治の先覚者福沢諭吉の言葉を思い出した。「まずは動物の体をつくれ、それができた後で、文字を学べ」。
そういえば、最近の脳科学でも、「脳は身体の一部」で、これを「身体運動と切り離すことはできない」と結論を出している。脳が活性化して新鮮なアイデアを思いつくためには、まずは身体を動かすことが大事なのであり、脳に酸素を供給するには深呼吸が必要なのだ。
ところで、身体を動かし深呼吸することと、勝敗を争うスポーツをすることとは違う。勝敗を争うスポーツは、健康を増進するためのものではなく、闘争本能を喧嘩にならないようルールを定めて解消するはたらきをもっている。根本の目的が異なるのだ。
むろん、身体の運動はスポーツにも必須である。しかし、それは限られた目的のための強度な運動以外のものではない。つまり、スポーツでは勝利に結びつく身体運動だけが意味をもつ。これは、直接健康にはつながらない。
とはいえ、スポーツを子どもにさせるのは良いことである。成長期に無理をさせれば生涯に響く傷を残すこともあるが、まったく身体を動かさずにゲームばかりに興じているよりは、よほどよい。団体スポーツであれば、目的を共有し、それに向かって互いに協力するという精神が養われる。また、個人スポーツにしても、1つの目標に向かって努力することの大切さを身につける契機となるのである。
長尾氏もスポーツを否定しはしない。しかし、スポーツより健康な状態に「身体を保つこと」のほうがよほど大事であると考えている。身体が健康でないと、「頭脳もおかしくなる」と氏は言う。
ところで、日本語では「お元気ですか」とか「元気になってください」などと言うが、こうした表現は、長尾流で考えればおかしいものとなる。本当は、「元気をなくさないように」とか「元気を取り戻してください」と言うべきなのだ。
だが、ここは日本語の悲しいところで、「元気」という言葉は中国の言葉だったから、日本人はその意味を取り損なって使ってきたのである。
「元気」とは「元々の気」ということだ。「気」とはエネルギーのことだ。「電気」と言えば、電子によるエネルギーなのである。何かをやり遂げるにはエネルギーが必要だ。だが、やり遂げるためには、ただエネルギーがあるだけでは足りない。そこで「気を入れる」必要が出て来る。現代風にいえば、これは「エネルギーを集中させる」ということなのである。
その点では、朝から晩までゲームをしている子どもは、相当のエネルギーを消費していることになる。これでは大事なときに集中力が出ないだろう。同じことはパソコン仕事ばかりしている人にも言えるだろう。朝から夕方まで図書館で書物に埋没する人も同様である。やはり重要なのは、長尾氏が強調するように、20分ごとのブレイクなのである。
ブレイク(break)とは「壊す」という意味の英語だが、コーヒー・ブレイクという言葉があるように、集中している仕事に「休止符」を入れて、気分を一新することを意味する。どうか皆さん、これは大事なことです。20分ごとの軽い運動と深呼吸、ぜひ実行してみてください。
(了)









