NHK『クローズアップ現代 相次ぐ鉄道トラブル・事故~線路を守る現場で何が?~』を見て
福島自然環境研究室 千葉茂樹
9月28日のNHK『クローズアップ現代』で、東武鉄道の事故が取り上げられた。あきれたことに「マニュアルすら守っていない」と報道された。
筆者は先の記事(東武鉄道「新鹿沼駅事故」を見て思うこと─「マニュアル通り」、今は通用しない)で「マニュアル人間の起こした事故か」と書いた。実際には、「マニュアル以前の問題」であった。
今は放送直後である。思い浮かんだことがあったので、急ぎ書かせていただく。
コスト削減優先の体質
まず結論から言うと、「コストを削減しても、人身事故を起こしては何にもならない。信用を失うだけである」。
全体的に見て基本的なマネジメントができていない。このような事業は「事故が起きないこと」が大前提である。事業をする前に「事故が起きないようにする手順」を考えねばならない。この基本すなわち「全体構想」がまったくできていない。
今回の事故の場合、東武鉄道は子会社の東武建設に「除草作業」を発注した。
大問題は「指揮系統が麻痺(まひ)している」ことである。業務を子会社の東武建設から、さらに下請4社へ発注している。事故が起きた現場では、4社の共同作業である。しかも、「当日の顔合わせ」との報道であった。このような状態では、「意思疎通ができない」。番組を見ると、「バラバラに行動」していたようである。
バブル経済崩壊(1991年とされる)後、「コスト削減」が重要視されるようになった。これが大問題である。今回の問題も、元請け「東武建設」から3系統(下請け3社)と孫請け1社に業務委託が行われた。初対面であり、かつ指揮が3系統に分かれる。これは、どう見ても「安全軽視」である。初めて会った人たちが意思疎通をできるはずもない。現場では阿吽(あうん)の呼吸も必要である。それがまったくなく、それぞれバラバラに動いたらどうなるかは、想像に難くない。「コスト削減の弊害の典型」である。
鉄道作業のような安全優先の現場では、「統率」が求められる。現場の責任者が統制を行い、事故が起きないようにしなければならない。極言すれば、「総員退避(短文)」などと皆がわかるように伝えなければならない。
指揮系統を単純化して、伝令が迅速かつ確実に届くようにしなければならない。方法の1つは、「東武鉄道自身が直接関わり除草作業をすること」である。そうすれば問題は起きにくくなる。もしくは子会社の東武建設のみが行っても(孫請けなし)、同様である。
繰り返すが、コストを削減しても人身事故を起こしては何にもならない。信用を失うだけである。
安全装置「創意工夫が必要」
番組のなかで、各種の装置が紹介された。これは省く。
私が不思議だったのは「現場で使える単純な安全装置がない」ことであった。鉄道のレールには、「列車の接近を知らせる信号(電流)」が流れている。踏切の警報機は、この信号を受信して動いている。
この信号(電流)を使わない手はない。私の頭にすぐに浮かんだ案は2つある。
1つは、「移動式(携帯式)の踏切」である。と言っても本当の踏切ではない。除草・工事などの現場で2本の電気ケーブルをレールにつなぎ、「列車接近の信号(電流)」を取り出して警報機をつくればよい。単純な話である。作業現場の移動の際は、この携帯式警報機をもっていけばよい。
もう1つは、作業現場の「左右」両方向にある2つの踏切に自動の「無線発信装置」あるいは「サイレン」を接続する。列車接近の際には無線発信装置から電波が送信され、それを現場で受信すればよい。サイレンの場合は、その名の通り「サイレン」が鳴る。ただし、都市部ではサイレンは騒音となるので実践的でないかもしれない。
私なら第1案を使いたい。無線は、妨害電波などで作動しない可能性も出てくる。
私の経験「学校もコスト削減」、
鉄道事故と共通する問題
高等学校でのコスト削減の話である。2000年頃、福島県では「民間から校長を採用」した。これが大失敗であった。彼の掲げた目標は「徹底したコスト削減」であった。
具体的には、「学校の経費を削減して、同時に大学進学率をアップさせる」であった。私から言わせれば、学校は「ハイリスク、『ロー』リターン」で、彼の理念は学校現場にまったく合致しない。生徒への投資に対し、成長した生徒が成果をもたらすのは20~30年後である。しかも、その生徒が成功するとは限らない。彼の理念を基に学校経営を考えれば、「投資した金額に見合ったリターンは望めない」となる。要するに「学校自体が不要」となり、学校の存在意義が失われる。
別の観点でいえば、「生徒を『大学進学率アップの道具』に使ってよいのか」という問題である。彼の理念でいえば、「大学進学率に寄与しない生徒は要らない」となる。実際に、彼から「この大学に進学せよ」と言われた生徒もいた。「生徒の希望を聞かない」のであった。もう少し言うならば、大学に入れない生徒は「不要」であった。この校長は完全に「はき違え」ていた。
これは上記の東武鉄道事故にも共通する。「コスト削減を優先し、求めるべきものを見失っている」。見誤ったものは、東武鉄道の場合は「安全」であり、この校長の場合は「教育の本質」である。
余談である。彼は校長を退職後、故郷の自治体で教育長となった。しかし、独断専横(どくだんせんおう)であったため、議会から「問責決議(もんせきけつぎ)」を受け、福島県から出て行った。
付け加えれば私は、この校長とは、福島原発事故の際に「数奇なめぐり合わせ(本来の意味)」となる。これは別の機会に書かせていただく。
お勧めしたい書籍「大橋武夫氏の著書」
今回の事故を見て、現代の会社組織、とくに東武鉄道では「経営戦略がない」と感じた。コスト削減を図っても会社の信用をなくしては、元も子もない。
この経営戦略の構築にぴったりの書籍がある。旧陸軍参謀の大橋武夫氏の書籍である。こちらを見ていただきたい。戦後から読み継がれた本で、とんでもない数の重版を重ねている。残念ながら、ほとんど古書になっている。
私が大橋氏の書籍を読むようになったきっかけは、「職場でのいじめ」であった。私は岩手県出身である。若い時期、職場の管理職や同僚から、「会津の人でなければ人でない」「会津の人間でないからクラス担任はさせられない」など、「とんでもないいじめ」を受けた。このときに、勉強したのが「戦略と戦術」であった。はっきり言って、身を守るため読み漁った。そのなかで、最も分かりやすかったのが、大橋武夫氏の書籍であった。今でも、手元に置いている。よろしければ、お読みいただきたい。現行本はこちら。
なお、上記のいじめを行っていた管理職の後任が私を重要視した。私は、作戦参謀のような立場になっていた。半年後、極めて重要な行事の直前に実務の責任者が重病で倒れた。その際、この管理職が私のところにきて、頭を下げて協力を依頼してきた。ただし、職場はいじめ体質であり、同僚たちは若い教員を「役立たず」と蔑(さげす)んでいた。私は、この「役立たず『だけ』」を集めて全体の業務の半分を担った。この際に役立ったのは、大橋氏の「人の使い方」であった。人には、それぞれ優れた点と劣る点がある。私がやったことは、「各人の能力の分析」と「それに見合った仕事の分配」であった。「役立たず人間」でも、まったく支障なく業務が行えた。
余談になるが、定年退職が間近のころ、私に声をかけてきた人物がいた。「役立たず」と呼ばれた人であった。当時の出来事が、いつまでも頭に残っているようであった。
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。









