2024年11月24日( 日 )

地域で重度な要介護者を見守れるの?(前)

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大さんのシニアリポート第40回

oh3 昨年暮、香川涼子さんが施設に入所した。認知症を公表し、「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)の常連客がソフトに見守っていたものの、本人から「不安で仕方がない。入所したい」という発言があってから間もなくの入所だった。「プライドがあるから、誰にも言わないで消えます」という言葉どおり、わたしにも言わずに入所した。ただ、入所前日に涼子さんの次女から連絡があった。後日、入所したことをスタッフに公表すると、少しばかり動揺の色を見せた。そしてこんな言葉が行き交った。「施設に入所できる人は幸せものかもね」。みんな自分の”そのとき”のことを考えているのだ。

 昨年4月の介護保険法の改正により、2年後の2018年度末までに「地域包括ケアシステム」の実質稼働が義務づけられた。これは「重度な要介護状態になっても、住み慣れた自宅や地域で暮らせる画期的なネットワークシステム」である。実質的には、介護保険法が成立した2000年から盛り込まれていたものの、即対応した埼玉県和光市や山梨県北杜市などの先駆的な行政区と、本市(埼玉県所沢市)のように15年間放置してきた行政区とでは大きな差が生じているのが実情だ。その待ったなしの状況下で、本市の担当課員T氏が悪戦苦闘している。彼の発言のなかに、「出遅れた自治体」の苦悩と、本市のみの特殊な問題ではない共通した“悩み”があった。

 最大の問題は、「協議体」と呼ばれる組織に属する「生活支援コーディネーター」の人選にある。これは、「地域にある高齢者の支援を中心とした様々な情報を”見える化”し、それらを使いやすくすることで、”地域のちから”と地域の高齢者をつなぐ役割を果たします」(「社協広報誌」より)と、いささか抽象的である。さらに、「生活支援コーディネーター」には第一層(市町村)、第二層(日常生活圏域)、第三層(地域活動単位)とに分かれているというから、混乱に拍車を掛ける。本市では、第一層を社会福祉協議会(社協)に委託。社協が第二層、第三層のコーディネーターを選出することになるのだが、これが簡単には解決しない。

「幸福亭子」さんをモデルにしたチャート 「幸福亭子」さんをモデルにしたチャート

 第二層、第三層は“個人(地域住民)”となる。当人が住む地域の実情(NPO、ボランティア団体・個人、民生委員、自治会・町内会、包括支援センター、各施設、病院をはじめ、「ケア会議」などの組織)を把握し、「地域住民の方たちが持っている力を発揮して、支え合いに参加できるようなきっかけや仕組みづくりを担う人」「地域住民の方をよく知り、また、人の間に入る仕事であることから、人望とバイタリティーのある人が理想」「肩書きがあっても謙虚な人」(さわやか福祉財団機関誌『さぁ、言ぉう』15年11月号より)という縛りがあるのだから、それに適合する人物を探すことは困難を極める。旧住民と新住民の住む地域とでは、”民度”が大きく違う。つまり「地域差」が生じる。落としどころを間違える(適合しない、納得性がない人物の選出)と、地域住民の協力を得られない最悪な状況を招きかねない。

 さらに、いくつかの組織はそれぞれ担当する管轄部署が違い、それを第一層の社協がとりまとめることができるか、はなはだ不透明なのだ。そこに”縦割り行政”の難しさが顔を見せる。加えて、各組織に加わる市民(多くはボランティア)が重複し、顔ぶれが変わらない(地域ボス的な存在)。だから、新しい考え方が生まれにくいし、実効性も期待できない。その“ボス”が、新しい(思考・行動力を持つ)ボランティアを潰してしまう危険性も考えられる。7年前、「ぐるり」の前身「幸福亭」を運営しはじめたころ、機関誌『結通信』に、「地域住民で見守りを」と書いた。すると数人の民生委員に呼び出され、「見守りは民生委員と見守り相談員の仕事。余計なことをするな」と忠告をうけたことがある。彼らには独特の既得権意識とプライドがあったのだろう。今ではわたしが実行している見守りに文句をいう民生委員はいない。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
(後)

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