2024年12月23日( 月 )

福岡市はモノづくり都市発想も

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M&R地域マーケティング研究所 代表 吉田 潔

 私は、長年各地の地域活性化計画策定に携わっている。そして、福岡市に居住し、マーケティングを軸としたビジネス活動を行っている。これまで、福岡市を本拠にすることで、かなりのメリットを享受してきたのは事実である。各地で活動して思うのは、各地域の福岡市への憧憬とも言える感情、福岡市をターゲットとしてモノを売り込みたい、福岡市(および周辺の都市)の消費を呼び込みたいとの思惑である。なぜ福岡市は、こうした憧憬の対象となったのであろうか。その要因を簡単におさえておこう。

 まず、挙げられるのは福岡市が代々の市長時代から、交通基盤の整備を着々と行ったことである。それは、世界でも有数の利便性を誇る福岡空港の整備、西日本・アジアにおける高度物流の拠点港湾として、その地位を年々高めている博多港の整備、開業以来40年を数え2011年からは九州新幹線の拠点ともなった新幹線網の整備、九州・西日本を結ぶ高速道路網、福岡都市圏を結ぶ都市高速道路網の整備等である。このような交通基盤の整備が、福岡市の都市機能の強化に結びつくのは当然の帰結であろう。よく言われるのは、福岡市が今日あるのは1989(平成元)年に市制施行100周年を記念して開催された「アジア太平洋博覧会」の成功にあるということである。もちろん、当時上記の交通基盤がすべて整備されていたわけではないが、それらの整備が九州は言うにおよばず、西日本各地からの集客に寄与したのは間違いない。この博覧会をきっかけに全国的にも注目されるようになり、九州の商業拠点である天神地区には各種の商業施設が開業。キャナルシティ博多も商業・観光施設として都市機能形成に寄与した。

 また、博覧会跡地は、シーサイドももちとして各種の研究開発機関が集積し、巨大な福岡ドーム(当時)やホテルも建設され、都市の顔を一変させた。当時、ある学会の懇親会を開業前の福岡ドームで開催することを企画し、実行したところ、会場に向かう途中の車窓からももちの風景を見た全国の経営学関係の先生方から、歓声が上がった。「まるで未来都市だ、素晴らしい!」と。少々自慢に思ったものである。

 以上のような基盤整備が都市機能を高め、福岡市は「流通消費都市」(阿部真也元福岡大学教授による)となり、定住人口も予想を上回るスピードで150万人を超え、現在153万人(15年8月現在推計人口)を数えている。ここまではほぼ順風満帆な状況であり、各地から羨望のまなざしで見られることも、むべなることであろう。さあ、では今後は、どのような方向を目指すべきなのであろうか。

 福岡市は、14年3月に「国家戦略特区」の1つとして「創業支援のための改革拠点」(創業特区)に選定された。この特長は、会社設立時の登録免許税の軽減等各種の創業支援・促進措置が講じられていることである。ちなみに「福岡市の経済概況」(15年3月)によると、福岡都市圏の事業所の開業率は21大主要都市中トップの7.1%である。しかも、開業における若者(25~34歳)の割合も12.3%で第1位である。この背景には、交通基盤整備によるアクセスの良さ、オフィス賃料が比較的安いこと、食の充実・多様性や海山の近接性からの住み良さが群を抜いていることなどがある。加えて、創業特区による支援である。

 ただし、少し問題なのは、この創業の多くがサービス業分野であることである。高度成長期、福岡市の産業は第2次産業も多く集積しており、都市型工業の食品工業、印刷業等が都市部に数多く集積していた。しかし、都市化によって多くが市外の隣接市町に移転していった経緯がある。私の思いは、この都市型工業の集積をアイランドシティの活用や、既存の事業所集積の再配置等により、今こそ図るべきではないかということにある。北九州市をはじめとして製造業が基盤にある都市力の底知れぬ強さを実感している。市の政策として、このような視点をぜひとも忘れないでほしいと思う。モノづくりと商業、消費が結びついたら、より強力な力を発揮する素晴らしい都市になると確信する。

※記事内容は2015年8月31日時点のもの

<INFORMATION>
M&R地域マーケティング研究所
代 表:吉田 潔
所在地:福岡市東区みどりが丘3-2-7
TEL:092-980-1342
FAX:092-691-2484

<プロフィール>
100609_yoshida吉田 潔(よしだ きよし)
1946年生まれ。地域マーケティング研究所代表。和歌山大学観光学部特別研究員/西日本工業大学客員教授/福岡大学商学部非常勤講師。地域おこしのスペシャリストとして活動している。趣味は、オーケストラでのヴィオラ演奏のほか、フルート演奏、読書、園芸、猫など多彩。

 

 

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